May, 18, 2020, 東京--東京大学他の研究グループは、近赤外域のフェムト秒レーザ光の高次高調波として極端紫外光を発生させ、その極端紫外光を回折限界にまで集光して試料に照射することによって、サブマイクロメートルスケールでの微細加工を実現した。
レーザ加工においては加工を如何に微細にできるかが最も大きな課題である。光の波長が短いほど、回折限界のサイズが小さくなるため微細加工に適している。近赤外域のフェムト秒レーザを希ガスなどの媒質に集光すれば高次高調波として極端紫外域の超短パルス光を発生させることができる。そのため、極端紫外域の高次高調波は微細加工のための有力な光源として注目されてきた。
ところが、極端紫外域光の集光には屈折率を利用する透過型レンズを使うことができないため反射光学素子を用いなければならない上、波長が短いために反射光学素子の面精度を極めて高くしなければ回折限界での集光を達成することが出来ないという問題があり、これまでは、極端紫外域の高次高調波による微細加工は困難であると考えられてきた。
研究グループはこの問題点を、独自に開発した高い開口数を持つ高精度な回転楕円ミラーによって克服し、回折限界にまで集光した極端紫外域の高次高調波によって薄膜サンプルの微細加工に成功した。
近赤外域フェムト秒レーザパルスをアルゴンガスに集光し、極端紫外域(波長約32 nm)の高次高調波を発生させ、回転楕円ミラーによってサブマイクロメートル径に集光し、アクリル樹脂(PMMA)薄膜および金属ナノ粒子レジスト薄膜の加工を行った。さらに、加工部位を顕微ラマン分光によって評価し、加工に伴いPMMA薄膜中の化学結合が切断されるという薄膜内の微視的な結晶構造の変化を明らかにした。
この研究により、極端紫外域の高次高調波光を高精度な反射光学素子を用いて集光すれば、サブマイクロメートル領域の微細加工が可能であることが明らかになった。この成果は、レーザによる微細加工の可能性を大きく広げるものであり、今後の微細加工プロセスへの応用が期待される。
けん9成果は2020年5月14日(米国時間)に米国科学誌「オプティクス・レター」にて公開された。
研究グループ
東京大学大学院理学系研究科化学専攻の山内 薫教授、岩崎純史教授、本山央人助教、大学院工学系研究科附属光量子科学研究センターの坂上和之主幹研究員、同精密工学専攻の三村秀和准教授、量子科学技術研究開発機構(理事長:平野俊夫)量子ビーム科学部門関西光科学研究所の石野雅彦主幹研究員、宇都宮大学工学部の東口武史教授、産業技術総合研究所先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ(兼務:分析計測標準研究部門)黒田隆之助ラボチーム長。