December, 11, 2017, Zurich--ETH研究チームは、生きたバクテリアを使って3Dプリンティング用に生体適合インクを開発した。これにより、有害な物質を分解でき、生体医用アプリケーション向けに高純度セルロースを製造できる生物材料の作製が可能になる。
いずれ、3Dプリンティングで製造できないものが何もなくなる。しかし、このプロセスで使用される材料は、プラスチックや金属のように「死んだ材料」である。
チューリッヒ工科大学(ETH)の研究グループは、生きた物質を使って機能する新しい3Dプリンティングプラットフォームを発表した。研究グループは、バクテリアを含むインクを開発した。これは、どんな種のバクテリアをインクに入れるかによって、一定の特性をもつミニバイオケミカルファクトリをプリントすることができる。
グループの筆頭著者、Patrick Rühs と Manuel Schaffnerは、研究でバクテリア、プチダ菌とアセトバクタ・キシリナムを使った。プチダ菌は、有毒化学フェノールを分解できる。これは化学業界で大規模製造されている。もう一方は、高純度ナノセルロースを分泌する。このバクテリアセルロースは、痛みを和らげ、湿度を保持し、安定的であるので、やけどの治療に潜在的なアプリケーションがある。
ETH研究者の新しいプリンティングプラットフォームは、多くの潜在的組み合わせを提供する。シングルパスで、研究チームはいくつかの特性を示す物質を製造するために、4つまでの異なるインクを利用することができる。これらのインクは様々な濃度で異なるバクテリアを含んでいる。
インクは、構造を作る生体適合ハイドロゲルで構成されている。ハイドロゲル自体は、ヒアルロン酸、長鎖糖分子、焼結シリカで構成されている。バクテリアが生命の必須条件をすべて持つように、そのバクテリアの培養基をインクに混ぜる。このハイドロゲルをベースとして用いることで、研究チームは、所望の「範囲の特性」を持つバクテリアを加え、望みのどんな3D構造でもプリントできる。
バクテリアを含むハイドロゲルの開発中、ゲルのフロー特性が特に課題だった。インクは、圧力ノズルを通して押し出されるような流動性がなければならない。インクの不変性がバクテリアの流動性に影響を及ぼす。インクが固くなればなるほど、流動性はますます厳しくなる。ハイドロゲルが固すぎると、アセトバクタからのセルロース分泌が少なくなる。同時にプリントされた物体には、後に続く層の重量を支えるだけの頑丈さが必要である。流動的すぎると、安定した構造をプリントすることはできない。
研究チームは、新しいプリンティング材料をFlink(=functional living ink:機能的生きたインク)と名付け、Science Advancesに、その技術を発表した。
今のところ、研究チームはプリントされたミニファクトリの寿命を調べていない。
研究はまだ初期段階にある。「バクテリアを含むハイドロゲルのプリンティングには膨大な潜在性がある。幅広い有用なバクテリアがあるからだ」と論文の筆頭著者Patrick Rühsは言う。「ほとんどの人々は、バクテリアを病気と関連付けるだけだが、実際、われわれはバクテリアなしでは生存できない」。研究チームにはよると、この新しいインクは全く安全であり、使っているバクテリアはすべて無害であり、有益である。
医療やバイオテクノロジー応用に加えて、研究チームは多くの他の利用可能性を考えている。例えば、この種のものは劣化プロセス、バイオフィルム形成の研究に使える。一つの実用的なアプリケーションは、飲料水の毒物検出に使えるバクテリア含有3Dプリントセンサが考えられかもしれない。あるいは別のアイデアとしては、悲惨な石油流出で使用するバクテリア含有フィルタの作製がある。
まず、遅いプリンティング時間と難しいスケーラビリティの課題を克服する必要がある。アセトバクタは、現在、バイオメディカルアプリケーション向けにセルロースを作るのに数日かかる。しかし、研究チームは、そのプロセスをさらに最適化し、加速することができると確信している。