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短パルスファイバレーザによる微細加工

ヤーリ・シランパ、ハリー・アソネン

ファイバレーザは、その高い加工品質と産業向けの高い加工速度との組み合わせによって、微細加工の魅力的な手段になる。

 過去数年の間に、ファイバレーザは高いウォールプラグ(壁面接続)効率、小型のサイズ、最小の保守性によって優れた信頼性が得られるようになり、材料加工の用途において最も話題のレーザとなった。マイクロ加工に使われるファイバレーザは従来のランプ励起Nd:YAG レーザの市場シェアを奪い、また、従来のレーザでは実現できなかった新しい用途を生み出している。
 コンシューマエレクトロニクス市場のダイナミックな発展によって、マイクロ加工による製造は最も急速に成長するレーザ応用の一つになった。この分野の主要な製品には携帯電話、フラットパネルディスプレイ(FPD)、そして特にテレビが挙げられる。新製品への更新がめまぐるしく行われることによって、コンピュータ設計を製造に直接移転できるジェネリック加工の必要性が生まれた。印刷産業におけるCTP(Computer To Plate)プロセスは将来のエレクトロニクス製品製造のモデルとなった。昔からレーザ産業にとって、レーザマーキングによる文書と写真の直接書き込みは最大の応用の一つであった。同様のレーザマーキング装置はプリント回路基板用の材料の付加、除去および加熱に使用できる。レーザは材料との物理的な接触による相互作用を回避できるため、フレキシブル基板上に印刷する電子回路のロール製造はレーザにとって最も適した応用になる。フレキシブルPCB、超精密間隔の相互接続用の接合加工、薄膜パターニングなどは、いずれもレーザを使う装置で支援できる。
 CWとパルスのファイバレーザ(ミリ秒領域のパルス)をはんだ付けや精密溶接に使うと、熱源の精密な局所化が可能になるため、標準的なオーブンリフロー法または熱はんだ付け結合法よりも優れた技術的利点が得られる。パワーのピーク出力をさらに増加させると、アブレーションのしきい値に到達でき、この領域ではパルス幅がミリ秒(ms)からナノ秒(ns)の短パルスレーザを十分に使うことができる。しかし、熱に敏感な材料やデバイスの高密度集積では熱伝導が問題になり、レーザのスポットで照射された領域のみを加工する方法が必要になる。

超短パルスレーザ

 フェムト秒やピコ秒(ps)のパルス幅をもつ超短パルス(USP)レーザはエネルギーをレーザスポットの近傍に強く集めることができる。パワー密度がcm2当たり数十ギガWに達すると、「コールドアブレーション」体制に到達し、そこでは蒸発する物質のほとんどがレーザスポットを照射された領域から直接蒸発する(図1)。この体制では、熱は物質が蒸発する前に横方向に伝達される時間がないため、スポット近傍に付随して生じる損傷の最小化が可能になる。吸収されたエネルギーのほとんどは蒸発した物質の運動エネルギーとして運び出される。残念なことに、今までのUSPレーザは産業用途に使うことが難しかった。その主な原因には、平均パワーが低いため加工速度が遅くなる、振動式材料自動ハンドリングロボットとの組み合わせが難しい、サイズが大きい理化学用レーザは光学台上に構築される、などが挙げられる。
 特に、直径が数十マイクロメートル(μm)の領域では、適当なフルエンスと数十または数百Wの平均パワーとが同時に得られるUSPレーザの開発は難しい(図2)。最適な微細加工品質は、アブレーションしきい値(≦1J/cm2)をわずかに超えるポイントで得られるため、パルスエネルギーを10μJより著しく大きくすることはできない。したがって、パルスの繰返し速度を従来のQ スイッチ領域(ポッケルスセルの場合は≦500kHz)よりも大きくすることが平均エネルギーを増加させる唯一の方法になる。

ファイバレーザによるUSP レーザへのアプローチ

 産業用途に使われるUSPレーザは、CW動作の場合と同様に、高いウォールプラグ効率、小型サイズ、最低限の保守で優れた信頼性が得られるなどの利点がある。高いパルスエネルギーに対する限界はファイバそのものに由来する。標準の単一モードファイバのコアがもつ10〜20μmの直径値は、数多くの微細加工の用途に望まれるスポットサイズに等しい。そのため、ファイバ自体の非線形効果と吸収がパルス特性に影響を及ぼすことなく、しかもターゲットでのアブレーションに最適の状態での動作を行わなければならない。実際に、「標準」ファイバのなかの超短パルスエネルギーを5〜10μJの限界を超えて大きくすることは、低いピコ秒の領域であっても非常に難しい。フェムト秒レーザの場合は、ファイバの内部でパルス幅を延伸し、ファイバの外部で圧縮して、実用可能なパルスエネルギーに到達させる必要がある(チャープパルス増幅;CPA)。
 CWモードのUSPファイバレーザは非常に高い平均パワーレベルを扱うことができる。擬似CW(QCW)動作では非常に高い繰返し速度(≧100MHz)が得られ、材料のアブレーションの応答時間はパルス間の時間よりも長くなる。したがって、レーザと物質との相互作用はCWレーザの場合に近くなる。この繰返し速度でのUSPファイバレーザによるモード同期はかなり直接的になり、最も簡単にパルスを発生する技術として利用することができる。材料加工の速度と品質との関係を最適にする低い繰返し速度を得るには、いわゆる「パルスピッキング」を使用して、繰返し速度を100MHz の領域から低いMHzの領域に減少させなければならない。今のところ、各種の異なる材料に対して、それぞれに適している非QCWの最大繰返し速度がどの程度なのかは明らかでない。経験にもとづいて言えば、繰返し速度が1MHzを超えると、プラズマ遮へいが影響するようになる。しかし、少なくとも10MHzまでは、アブレーション速度の非線形な増加が続く。したがって、5〜10μJのパルスエネルギーをもつUSPファイバレーザの1〜 10 MHzでの動作は、10〜 50μmの領域のスポットサイズにおいて、非常に高い平均パワー(5〜100W)と高い物質除去速度を得ることができる。薄膜のパターニングの大規模生産を経済的に行うには、1〜100m/sの範囲の最大走査速度が必要になる場合が多い。このような応用において、USPファイバレーザは優れた性能を発揮する。

マイクロファブリケーション用のファイバレーザ

 USPファイバレーザはUSPレーザの産業用途参入を遅らせている数多くの問題を解決できる。しかし、材料除去効率とエッジ品質は、他の「非レーザ」の方法と同様に、それらが関係する多くの要因に依存する。表1ではこのような要因が3種類に分けて示されているが、そのなかでレーザ自体に関係するのは一つだけだ。図3は不透明材料の高品質で高速のマイクロ加工にとって最も重要なレーザパラメータを示している。この図は表に示した他の「非レーザ」に関係するパラメータを対象にしていないことに注意して欲しい。パルス重なりはレーザパラメータ(繰返し速度)と「非レーザ」パラメータの両方に依存するパラメータの良い例だ。表に記載したすべてのパラメータ項目の最適な組み合わせが産業用加工にとって最終的に必要な解になる。したがって、装置のインテグレータと垂直的に連携し、実際の応用試験で実証済みの容易な解決策を見出さなくてはならない。それでも1種類で全ての材料とすべての加工に対応できるシステムを最適な方法で構成することは不可能だ。実際には特定の応用に合わせた材料操作システム、加工光学系およびUSPレーザを構成しなければならない。レーザ加工へ移行する利点をユーザに納得してもらうには、これが最適の方法になる。
 以下はUSPレーザがエンドユーザの加工において最適の総合解決策になるいくつかの一般的な応用例を示している。光学系の加工や材料ハンドリングの自動化などの応用にはここでは触れない。その代わり、レーザ特有の加工パラメータをいくつか紹介し、USPファイバレーザがそうした要求にうまく対応できることを示したい。

薄膜パターニング

 最も一般的なパターニング技術は、多段加工、マスクおよび化学薬品を使うリソグラフィプロセスだ。このプロセスには高い投資コスト、多大の時間を消費する多段加工、柔軟性の欠如、環境問題などの数多くの問題がある。
 パターニングプロセスにはレーザ直接描画とも呼ばれる各種のレーザ技術も導入されてきた(図4)。レーザは投資コストが低い、加工部品への機械的応力がない、化学薬品を使わないなどの利点をもつため、他の伝統的な手段がもたらす問題のいくつかが解決可能になると考えられる。しかし、従来のレーザでは、加工品質に影響をもたらす大きな熱影響層(HAZ)を発生するため、関係するすべての問題が解決できるとは考えにくい。HAZの問題はグリーン(第2高調波)または紫外(UV)レーザの仕様によって軽減されるが、完全には解決できない。
 超短レーザパルスは極端に短いパルス幅が得られるため、品質に大きな問題をもたらすHAZと衝撃影響層(SAZ)を大幅に低減できる。そのため、優れた品質と高い精度での加工が可能になる。しかし、これらのレーザは加工速度が問題であった。また、USPレーザは複雑で大型の高価なシステムとなり、制御が難しく、生産ラインへの導入には適していなかった。

kHz USP 対MHz USP

 薄膜パターニングおいて特に難しいのは、高分子上の薄膜にパターン加工を行うことだ。通常の薄膜の除去(アブレーションしきい値)に必要なエネルギー強度は、高分子またはその下の層に損傷を与えるエネルギー強度に近い、もしくはそれよりも高い。高品質のマイクロ加工を実現するには、アブレーションしきい値をわずかに超えたエネルギーでの動作が必要になる。10〜50μmの溝幅は電気的絶縁を得るのに十分であり、最終デバイスではさらに狭い形状を得ることができる。図5はMHzとkHzの領域で動作するUSPレーザの重要な違いを示している。図に示すように、物質の毎秒当たりのアブレーション量は等しいが、MHzレーザだけが良好な品質のマイクロマシン加工に適した10〜50μmのスポットサイズを得ることができる。最適なフルエンスを確保するには、レーザ(b)のスポットサイズはレーザ(a)の10倍でなければならない。kHzの繰返し速度で動作するUSPレーザはさらに小さなスポットサイズとより低いパルスエネルギーでも使用できる。しかし、このような場合は平均パワーと加工速度が低くなる。材料加工の例
 電子産業や半導体産業ではさまざまな種類の金属や金属酸化物が使われる。フィンランドのコアレイズ社(Corelase)は一連の試験を行って、高分子自体へはまったく影響を与えることなく高分子上の薄膜加工が可能であり、品質が改善されることを実証した。これらの試験は、コアレイズ社のピコ秒パルスレーザX-LASEと走査光学系を組み合わせた装置を使用して行われた。この試験では、FPDや太陽電池の分野で使われる酸化インジウムスズ(ITO)、酸化スズ(SnO)、ニッケル(Ni)およびアルミニウム(Al)膜に一連の異なるサイズやパターンが加工された。
 図6 は膜厚20nmのITO層における溝幅20μmのITO薄膜の0.55W@2MHzでの加工の実例を示している。この加工では下層の高分子へ損傷がまったく発生しなかった。
 図7では膜厚600nmのSnO層における2本の12μm溝の2W@2MHzによるSnO薄膜の加工が実証されている。この加工も下層の高分子層への損傷はまったく発生しなかった。
 図8では膜厚20nmのNi層における2 本の30μm溝の0.8W@2MHzでのNi薄膜の加工が実証されている。この場合も下層の高分子への損傷がまったく発生しなかった。
 図9 は膜厚100nm のAl 層に2 本の30μm溝を3W@2MHzで加工した例を示している。この加工も下層の高分子への損傷がまったく発生しなかった。

結論

 コンシューマエレクトロニクス市場のダイナミックな発展によって、レーザによるマイクロ加工は急速に成長している。これらの応用の典型例は薄膜パターニングだ。MHzの繰返し速度で動作するピコ秒ファイバレーザは薄膜加工に非常に適している。産業用グレードの高い加工速度と加工品質とを組み合わせることによって、このレーザは魅力的な産業用ツールとなる。

図1 パルスレーザによる材料加工

表1

図2 マイクロ加工レーザ

図5 いずれも10Wの平均パワーをもつMHzとkHz のUSPレーザによる物質の加工

図6 ITO 上の20μm 溝

図7 SnO 膜に加工した2本の12μm

図8 Ni 膜に加工した2本の30μm

図9 Al 膜に加工した2本の20μm 溝

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