All about Photonics

Home > Magazine > Articles

関連イベント

関連雑誌

Articles バックナンバー記事

新しい車体材料の接合

マリアナ・G ・フォレスト、フォン・ルー

自動車修理工場は亜鉛鋼鈑のゼロギャップレーザ溶接をすぐにでも実行できるだろうか?

 車体の組み立てにレーザを使うという構想は、1970年代の後半に米フォード・モーター社のR&D グループによる初期の概念開発研究の一部として登場した。それ以降、自動車の無塗装車体(BIW)の組立加工におけるレーザ溶接の利点はよく理解されるようになり、ほとんどの自動車OEM会社はレーザ溶接技術の調査と開発を行い、製造現場への導入に成功した。
 BIWレーザ溶接からは、車体剛性の増加、設計の柔軟性、寸法の制御性、重量の低減などの著しい製品の品質改善、生産性の改善およびコスト低減などのメリットやチャンスが得られる。現在使われている抵抗スポット溶接(RSW)加工と比較した場合のレーザ溶接の経済的な実現性は、欧州と日本、そして最近の米国におけるBIWレーザ溶接応用の継続的な数量増加によって証明されている。しかしながら、自動車修理工場へ広く導入されるには、レーザ溶接の品質や装置/加工のコストが今でも制約要因になっている。これらの課題が解決されれば、レーザ溶接は車体の設計と組立の革新的な手段になると期待されている。

課題

 現在、車体の構成に最も広く使われている材料は亜鉛めっき鋼板であり、最も広く使われている接合方式は重ね継ぎの構造だ。亜鉛被覆鋼を接合面ギャップの制御なしに重ね継手構造でレーザ溶接するときの問題は、ポーラス(空孔)の形成および亜鉛ガスの放出によって生じるスパッタ現象に関係している。この亜鉛ガスの放出は亜鉛の沸点(約906℃)と鋼の溶融温度(約1500℃)との著しく大きい差に原因がある。その結果、亜鉛ガスが逃散する何らかの機構がなければ、亜鉛ガスは溶融池のなかに閉じ込められる。
 当初から、特殊な加工具や予備加工の付加コストなしに亜鉛めっき鋼板への高品質溶接を行うことは大きな課題であり、レーザ溶接の経済的な実現性を保証するためにはそれが必要であった。そのため、レーザ溶接は自動車修理工場への導入が進まなかった。多額の資本投下、熟練工の採用の難しさ、変化に対する一般的な抵抗などの問題も導入が遅れる原因になった。
 亜鉛めっき鋼板はその耐食性によって車体組立に広く使われているため、どのような技術的解決策も亜鉛めっきに対して対応でき、また、自動車設計者が指定したさまざまなめっき方式に対して、鋼鈑供給産業が与える許容度の範囲内で互換性が得られる。
 現在、車体のレーザ溶接の用途に使われている主なアプローチには、接合面のギャップ管理、めっきの種類と厚み制御、表面の前処理などの技術がる。一般的に、これらのアプローチのそれぞれに欠点が挙げられる。
 ギャップ管理に最も使われているアプローチは複雑な加工具と治工具が必要で、これらが対応可能な付加コストと設計に対する制約要因になっている。また、ギャップ管理法はギャップの変化に対して敏感であり、溶接品質に問題をもたらす工程の不安定性を引き起こす場合が多い。このような難点があるにもかかわらず、現在の欧州における生産の大部分ではギャップ管理法が使用され、このアプローチにもとづいて十分に開発された治工具の供給基盤が確立されている。
 第2のアプローチはめっきなし鋼鈑、片側めっき鋼板、より薄いめっき、特殊なめっきなどの利用に依存している。これらは一般に、設計の仕様や材料を選択する際の制約要因になり、耐食性にも影響を及ぼす。
 結論的には、鋼鈑の溶接の接合面の前処理を行うことが実行可能でロバストな技術的解決策になることが実証されたが、残念なことに、この方法はコストと加工時間が増大するため望ましいアプローチにはならなかった。

技術開発

 この問題のロバスト性に優れた解決策を見出すことの重要性とめっき鋼板の溶接性を十分に考慮して、独ダイムラー・クライスラー社のクライスラーグループは多年にわたる研究を行い、BIWとスタンピング組立生産の用途に使用できる新しい溶接工程を開発して、生産に適用可能な解決策を見出した。
 他のグループによる初期の研究をレビューした結果、従来の単一ビーム溶接には厳しい限界があり、上述したコスト低減の解決策の一つが必要になることが分かった。ギザギザの表面をレーザで前処理する方法、楕円ビームを使用する方法、銅箔を接合面に挿入する方法など、既に実施され発表されている研究による代替策にも欠点と限界があった。

ゼロギャップ溶接

 表面の前処理と付加材料の使用は大量生産にとって好ましくないため、亜鉛ガスの排出を可能にするために最も適したキーホール形状の探索に重点が置かれた。クライスラーグループはEWI グループが研究資金を助成して2001年に終了した2ビームゼロギャップレーザ溶接法のプロジェクト研究に参加した。この溶接法は2ビームのそれぞれのパワー配分と直径を等しくした平行ビーム配置を使用する。その成果は有望であったが、生産用途に対する理解が不十分で、ロバストではなかった。そこで、クライスラーは溶接プロセスの物理学の基本的理解にもとづく独自のモデリング方式の内部開発を開始した。その結果、材料とめっきの相互作用に対するレーザビームの理解、種々の加工パラメータの組み合わせから生じるキーホール形状の予測、および亜鉛ガスの排出機構の評価が可能になった。このモデリングの結果は実験によって検証され、モデリングから得られた知見を利用して、より広い溶接条件を得るための実験によるプロセスパラメータの設計が行われた。

画期的な技術成果

 上述の新しい方法は、まずEWI‐GSPの研究結果の深い解析に使用され、二つのビームのパワーと直径が等しい平行2ビーム配置の場合は、主導ビームのパワーが追随ビームよりも高くなければならないことが分かった。
 図1は侵入深度の関数として計算されたパワー消費を示している。この図から、主導ビームは接合部のなかに完全には侵入せず、追随ビームのパワーが十分に利用されないことが分かる。このことはパワーを等しく配分する考え方がエネルギーを高い効率で利用する方法にはならないことを明瞭に示している。さらにモデルからは、滑らかに液流にとって好ましくないキーホール前面の階段状の構造が形成され、溶接プロセスは不安定になることが分かった。このことは実験によって確認された。主導ビームのパワーを強くした後に、1.2mm/1.2mmの全体溶接厚みまでの各種の溶融めっき(HDG)鋼鈑を使用して、非常に良好な溶接品質がより速い溶接速度で達成された。しかし、実験を重ねた後に、解決を必要とする難題が三つ存在することがわかった。すなわち、ビーム間の距離パラメータに対して非常に敏感でロバスト性に欠ける(許容範囲が狭い)こと、パワーレベルを高くしても厚い溶接部の形成が難しいこと、ガルバニール(GA)亜鉛合金めっき鋼鈑の溶接は非常に難しいことだ。
 図2に示すように、こうした難題は、一部予測されたキーホール形状にも現われた。つまり、溶融池内部のキーホール背面壁の追随ビームによる凹面の発生を防ぐには、ビーム間の距離を小さな値に制限しなければならない。これは明らかに、安定な液流を得るには望ましくない制約であり、実験で確認されたようにスパッタや溶接品質の劣化を引き起こす。
 キーホールの凹面化の問題を解決し、工程をさらに改善するために、図3に示すような傾斜した追随ビームの配置が提案された。この提案の背後にある発想は、追随ビームを主導ビームが生成するキーホール裏側の壁形状に沿って傾斜させれば、凹面化の問題はビーム間の距離がより大きくなっても解消され、安定なキーホール形状が実現されることにある。
 この発想は、まず、分離されたレーザ光源からそれぞれレーザビームが得られる二つのレーザ溶接ヘッドを組み合わせた双ヘッドシステムを使用して検討された。主導ビーム(鋼鈑の表面に対して垂直)は4.5KWの独ロフィンシナール社Nd:YAGレーザの400μmと600μmの二つの異なるファイバから、また、追随ビームは3.0KWの独トルンプ社Nd:YAGレーザの600μmファイバから伝送された。集光ヘッドのサイズに関係する精密固定の問題によって、実現できた二つのビーム間の最小傾斜角度は21.5°であった。この固定角度ですべての試験は行われ、非常に有望な結果が得られた。この構成によって、レーザビーム間の距離に対して必要なロバスト性が確保され、より厚い接合部(1.4mm/1.4mm HDG)が最大毎分3.5mの溶接速度で得られるようになった。
 上述のツインヘッドシステムから得られた成功に続いて、同一のビーム構成が単一のファイバ入力パワーから得られる集積レーザ溶接ヘッドがプロセス開発用に作製された。この開発されたヘッドは、ビーム間距離、ビーム間角度、主導ビームと追随ビームのパワー比などの主要なパラメータを広い範囲で連続して調整することができる。
 この最初に開発されたヘッドによって、ビーム間の距離変動に対するプロセスのロバスト性はさらに改善されたが、それでもGA鋼鈑の溶接の問題を解決することはできなかった。また、三層接合(3T オーバーラップHDG 鋼鈑)の溶接にも利用できなかった。これらの問題を解決するために、キーホールの形状をさらに改善して、キーホールを通した亜鉛ガスが良好に放出できる空気力学システムを実現するための努力が続けられた。これは光学系をさらに最適化することによって達成された。この改良された機能をもつ第2のレーザヘッドのプロトタイプの設計と試作が行われた(図4)。このヘッドには最初のレーザヘッドで実現されたすべての調整機能が引き継がれ、また、焦点位置のロバスト性を保証し、生産への応用開発を可能にする圧力ホイールシステムも採用された。
 第2のヘッドを用いた実験によって、溶接品質は最初のヘッドよりも著しく改善されることが分かった。3層HDG鋼鈑をギャップがゼロの良好な品質で溶接できる十分なパワーを得ることもできた。図5は0.76mm/0.76mm/0.76mmの3T溶接部の断面を示している。
 GA鋼鈑の場合も第2のヘッドを使うことによって大幅な改善が実現された。図6は1mm/1mm GA鋼鈑の溶接部の断面を示している。GAめっき鋼鈑は広く使われているため、現在はGAめっき鋼鈑の溶接品質をさらに改善する努力が進められている。
 接合面の管理されたギャップの品質とゼロを意図したギャップの溶接との比較から、改善された構造性能のもう一つの利点が明らかになった。特に、接合面に意図したギャップがある場合とない場合での1.4mm/1.4mmのHDGDP980鋼鈑による予備的な機械試験から、張力はギャップの存在に関係なく同様であっても、接合面ギャップの存在によって、疲労性能は間違いなく劣化することが分かった。これは、この新しいプロセスには製品の耐久性を改善する利点があることを示している。

明るい展望

 これまでの研究は、この新しいレーザ溶接技術が各種の材料、めっきおよび接合部において品質に優れた溶接が実現できる基本的機能を備えていることを実証している。この新しい技術を用いることで、接合面のゼロギャップを意図した2Tおよび3Tラップ接合配置での0.76mmから2.0mmの範囲の厚みをもつDQSK、IF、DP600、DP800、DP980などの鋼鈑の溶接は、溶接部の厚みと利用可能なパワーに応じて、毎分1.3mから6.1mの範囲の速度で可能になった。このプロセスはめっき鋼鈑ばかりでなく、将来の軽量車両用の材料として関心を集めているマグネシウム鋳物などの軽量材料の高速溶接にも有望だ。
 現在の開発はGAめっき鋼鈑の溶接工程のさらなる最適化と生産用加工具のロバスト性とコスト効率の改善に注力され、生産現場へのできるだけ早期の技術移転が計画されている。
 BIWレーザ溶接の大きな利点(構造剛性の向上、設計と加工の柔軟性、生産性の向上)を考えると、この新しい溶接技術から得られる溶接の品質と性能の改善によって、レーザ溶接の自動車BIWとスタンピング部品組立への適用は急速に加速するだろう。

図1 それぞれのビームの侵入深度を関数としたパワー消費。

図2 ビーム間の距離を大きくしたときのキーホール背面壁における凹面の形成。

図3 提案した追随ビームの後方傾斜による2 ビーム配置。

図4 2番目に開発した追随ビームの形状調節機能をもつ2 ビームレーザ溶接ヘッド。

図5 2番目に開発したヘッドで溶接した0.76mm/0.76mm/0.76mm HDG DQSK 鋼鈑の断面。

図6 2番目に開発したヘッドによる1mm/1mm HDG DQSK 鋼鈑の断面。

Welding一覧へ

TOPへ戻る

Copyright© 2011-2013 e.x.press Co., Ltd. All rights reserved.