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日立、カーボンナノチューブを探針に用いた近接場光学顕微鏡を開発
September 19, 2013, 東京--日立製作所(日立)は、カーボンナノチューブ(CNT:Carbon Nanotube)を探針(プローブ)に用いた近接場光学顕微鏡(NSOM:Near-field Scanning Optical Microscope)を開発し、波長850nmのレーザ光を用いて、幅5nmの金のパターンの画像化に成功した。
開発したNSOMは、4nmに尖らせたCNTの先端に近接場光と呼ばれる物体表面近くだけに存在できる特殊な光を生成し、これを走査することによって物質表面から反射する光を分析・画像化する技術。光による計測は大気中あるいは液中で、物質にダメージを与えることなく組成や分子構造を測定できることから、今後、生体細胞や先端高機能材料のナノメートル単位の分析に道を拓く技術として期待される。
細い針を移動させて物質表面の状態を調べる走査プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)は、1986年にGerd BinnigとHeinrich Rohrerがノーベル物理学賞を受賞した走査型トンネル顕微鏡(STM:Scanning Tunneling Microscope)や原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)などが、すでに産業分野に応用されている。これらのSPMは、原理的に物質表面の凹凸は測定できるが、物質の組成やどのような分子構造であるかなどの分析はできない。これに対して、プローブの先端から細い光を出し物質表面から反射する光の情報を分析するNSOMは、微小部分の組成や分子構造を知ることができる。また、大気中や液中で測定を行えるため、生きている細胞などの計測に適している。
一方、NSOMの最大の課題は、微小な光スポットを作り出すこと。例えば、人間の目に見える光の波長は約500nmなので、数nmの対象物を観察するためには、これを数百分の一に絞らなければならない。今回、日立は、プローブにCNTを用いることで、数nmの大きさの金のパターンの画像化に成功した。
技術の詳細
(1) 微小な近接場光スポットの生成と測定再現性の向上
プローブには、磨耗しにくく、かつ先端を4nmに尖らせた外径約20nmの円筒状多層CNTを用い、金の薄い膜をコートしたシリコン製の三角錐チップの先端に固定。さらに三角錐チップを、カンチレバーと呼ばれるシリコン製の片持ち梁(一方を固定し、他方を固定しない薄い板)の先端(自由端)に固定。カンチレバーの背面からレーザ光を照射すると三角錐チップの金薄膜中にプラズモンと呼ばれる自由電子(束縛を受けず、電気伝導や熱伝導を担う電子)の集団的な振動が発生し、このプラズモンによって、三角錐チップの先端に直径数百nmの近接場光が生じる。この第一の近接場光の電界がCNTプローブ先端に集中することにより、プローブ先端に先端径と同程度の4nmの第二の近接場光スポットが生じる。先端を尖らせた磨耗の少ないCNTを用いることで、極微細パターンの画像化と測定の再現性向上(同じ画像が繰り返し得られる)を実現するとともに、直径数百nmという小さな近接場光で測定用の近接場光スポットを生成するので、余分な光による画質の劣化を軽減できる。
(2)近接場光の画像化と分解能の評価
CNT プローブの先端に生じた近接場光スポットを測定用光スポットとして非接触で物質表面上を走査しながら、各走査点でプローブ先端と試料との間で散乱する光を検出することにより、近接場光画像を作る。今回、波長850nmのレーザ光を用いて、幅5~30nmの金のパターンを厚さ50nmのSiO2層(二酸化ケイ素)で挟みこんだ表面が平らな試料を観察。幅5nmの金パターンを材質の違いとしてSiO2から明瞭に分離して画像化でき、その分解能は3nm以下となることを実証した。
今後、開発したNSOMを、生体細胞の蛋白質などの構造、機能、化学結合状態(分子や原子の結合状態)の解析に活用することにより、再生医療を始めとするヘルスケア分野の研究・開発に寄与していくとともに、社会イノベーション事業を支える次世代ナノ材料の物性・構造解析など基礎研究分野にも応用していく予定。
(詳細は、 www.hitachi.co.jp)
開発したNSOMは、4nmに尖らせたCNTの先端に近接場光と呼ばれる物体表面近くだけに存在できる特殊な光を生成し、これを走査することによって物質表面から反射する光を分析・画像化する技術。光による計測は大気中あるいは液中で、物質にダメージを与えることなく組成や分子構造を測定できることから、今後、生体細胞や先端高機能材料のナノメートル単位の分析に道を拓く技術として期待される。
細い針を移動させて物質表面の状態を調べる走査プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)は、1986年にGerd BinnigとHeinrich Rohrerがノーベル物理学賞を受賞した走査型トンネル顕微鏡(STM:Scanning Tunneling Microscope)や原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)などが、すでに産業分野に応用されている。これらのSPMは、原理的に物質表面の凹凸は測定できるが、物質の組成やどのような分子構造であるかなどの分析はできない。これに対して、プローブの先端から細い光を出し物質表面から反射する光の情報を分析するNSOMは、微小部分の組成や分子構造を知ることができる。また、大気中や液中で測定を行えるため、生きている細胞などの計測に適している。
一方、NSOMの最大の課題は、微小な光スポットを作り出すこと。例えば、人間の目に見える光の波長は約500nmなので、数nmの対象物を観察するためには、これを数百分の一に絞らなければならない。今回、日立は、プローブにCNTを用いることで、数nmの大きさの金のパターンの画像化に成功した。
技術の詳細
(1) 微小な近接場光スポットの生成と測定再現性の向上
プローブには、磨耗しにくく、かつ先端を4nmに尖らせた外径約20nmの円筒状多層CNTを用い、金の薄い膜をコートしたシリコン製の三角錐チップの先端に固定。さらに三角錐チップを、カンチレバーと呼ばれるシリコン製の片持ち梁(一方を固定し、他方を固定しない薄い板)の先端(自由端)に固定。カンチレバーの背面からレーザ光を照射すると三角錐チップの金薄膜中にプラズモンと呼ばれる自由電子(束縛を受けず、電気伝導や熱伝導を担う電子)の集団的な振動が発生し、このプラズモンによって、三角錐チップの先端に直径数百nmの近接場光が生じる。この第一の近接場光の電界がCNTプローブ先端に集中することにより、プローブ先端に先端径と同程度の4nmの第二の近接場光スポットが生じる。先端を尖らせた磨耗の少ないCNTを用いることで、極微細パターンの画像化と測定の再現性向上(同じ画像が繰り返し得られる)を実現するとともに、直径数百nmという小さな近接場光で測定用の近接場光スポットを生成するので、余分な光による画質の劣化を軽減できる。
(2)近接場光の画像化と分解能の評価
CNT プローブの先端に生じた近接場光スポットを測定用光スポットとして非接触で物質表面上を走査しながら、各走査点でプローブ先端と試料との間で散乱する光を検出することにより、近接場光画像を作る。今回、波長850nmのレーザ光を用いて、幅5~30nmの金のパターンを厚さ50nmのSiO2層(二酸化ケイ素)で挟みこんだ表面が平らな試料を観察。幅5nmの金パターンを材質の違いとしてSiO2から明瞭に分離して画像化でき、その分解能は3nm以下となることを実証した。
今後、開発したNSOMを、生体細胞の蛋白質などの構造、機能、化学結合状態(分子や原子の結合状態)の解析に活用することにより、再生医療を始めとするヘルスケア分野の研究・開発に寄与していくとともに、社会イノベーション事業を支える次世代ナノ材料の物性・構造解析など基礎研究分野にも応用していく予定。
(詳細は、 www.hitachi.co.jp)