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東京大学、完全な光量子ビットの量子テレポーテーションを初めて実証
August 15, 2013, 東京--東京大学工学系研究科の古澤明教授と武田俊太郎大学院生らの研究グループは、「光量子ビット」に「光の波動の量子テレポーテーション装置」を適応させる革新的手法により、世界で初めて完全な光量子ビットの量子テレポーテーションの実証に成功した。
量子力学の原理を応用することで、現代技術の限界を超える究極的な大容量通信(量子通信)や超高速コンピュータ(量子コンピュータ)が実現できると予測されているが、その実現には、光子に乗せた量子ビットの信号を遠隔地へ転送する量子テレポーテーションの技術を確立することが最重要課題の一つ。しかし、従来の光量子ビットの量子テレポーテーション装置は、転送成功判定として転送後の量子ビットの測定が必要となる「条件付き」であり、なおかつ量子ビットの転送効率も原理的に低く制限される、不完全なものだった。
新方式では、無条件で量子ビットの転送が可能となり、量子テレポーテーションの応用可能性が大きく広がった。さらに、従来の100倍以上の転送効率61%が達成されており、原理上、100%近くにまで効率向上が可能。この装置を基本ブロック単位とし、2ブロック、3ブロックと拡張したシステムを構築していく場合、従来方式に比べ1万倍、100万倍と桁違いの効率の向上が見込める。この成果は超大容量光通信や超高速量子コンピュータの実用化への突破口となるもので、量子情報処理の長年の課題を一挙に解決したマイルストーンと位置付けられる。
東京大学工学系研究科の古澤明教授と武田俊太郎院生らは、画期的な新方式で光量子ビットの量子テレポーテーションを実現し、上の問題点を一挙に克服することに成功。用いた方法は、従来の手法の延長や改良ではなく、それと全く異なる、「光の波動の量子テレポーテーション」の技術を光量子ビットに適用させる、ハイブリッド方式。光の波動のテレポーテーション装置は、もともと光量子ビットのような光子の状態ではなく、光の波としての状態(振幅や位相)を転送する装置。この装置は、従来のような条件付きでない、無条件の転送が可能であることが知られている。さらに、このテレポーテーション装置は従来と異なり、常に動作する(動作確率100%)。これは、量子テレポーテーションで用いる量子エンタングルメントを、高エネルギーの光ビームを結晶中で2つの光ビームに変換する過程を用いて常に生成する技術を用いていることによる。しかしこの技術では、物理的制約から完全な量子エンタングルメントを生成することができず、この不完全性のために、転送時に光の波動に雑音が加わってしまうという問題点もあった。
今回、この光の波動のテレポーテーション装置を光子の量子ビットに対して適用することで、この問題点が解決され、無条件・高効率で、かつ量子ビットの情報を雑音で乱すことなく転送することが可能となった。従来方式では量子ビットの転送効率は原理的に上げることが不可能だったが、新方式では用いる光のエネルギーを高めていくことで原理的には限りなく100%に近づけることができる。この点が従来法と比べた、新手法の本質的かつ決定的な強みを生み出していると言える。
このハイブリッド方式のアイデア自体は10年以上も前に提案されていたが、光子の量子ビットと光の波動のテレポーテーション装置は相容れない物理的性質を有しており、これらを組み合わせるには高い技術的ハードルがあった。研究グループでは、長年開発してきた要素技術を結集して、光子の量子ビットと光の波動のテレポーテーション装置の2つを組み合わせ、世界で初めてハイブリッド方式での量子ビットのテレポーテーション装置を開発し、それが無条件かつ常に(確率100%で)動作することを検証した。さらに、この組み合わせの下では、従来の量子ビットテレポーテーション装置には存在しない古典情報チャネルゲインを適切に調整することで、量子ビットの情報を劣化させることなく転送できることを発見・実証した。これらは、従来の常識を覆す歴史的な成果と言える。達成した量子ビット転送効率は約61%であり、従来方式の100倍以上と見積もられる。今後、より高エネルギーの光を用いて高品質な量子エンタングルメントを生成できれば、原理的に100%近くにまで転送効率を高めることが可能となる。
(参考文献)
Shuntaro Takeda et al., 「Nature」Deterministic quantum teleportation of photonic quantum bits by a hybrid technique
量子力学の原理を応用することで、現代技術の限界を超える究極的な大容量通信(量子通信)や超高速コンピュータ(量子コンピュータ)が実現できると予測されているが、その実現には、光子に乗せた量子ビットの信号を遠隔地へ転送する量子テレポーテーションの技術を確立することが最重要課題の一つ。しかし、従来の光量子ビットの量子テレポーテーション装置は、転送成功判定として転送後の量子ビットの測定が必要となる「条件付き」であり、なおかつ量子ビットの転送効率も原理的に低く制限される、不完全なものだった。
新方式では、無条件で量子ビットの転送が可能となり、量子テレポーテーションの応用可能性が大きく広がった。さらに、従来の100倍以上の転送効率61%が達成されており、原理上、100%近くにまで効率向上が可能。この装置を基本ブロック単位とし、2ブロック、3ブロックと拡張したシステムを構築していく場合、従来方式に比べ1万倍、100万倍と桁違いの効率の向上が見込める。この成果は超大容量光通信や超高速量子コンピュータの実用化への突破口となるもので、量子情報処理の長年の課題を一挙に解決したマイルストーンと位置付けられる。
東京大学工学系研究科の古澤明教授と武田俊太郎院生らは、画期的な新方式で光量子ビットの量子テレポーテーションを実現し、上の問題点を一挙に克服することに成功。用いた方法は、従来の手法の延長や改良ではなく、それと全く異なる、「光の波動の量子テレポーテーション」の技術を光量子ビットに適用させる、ハイブリッド方式。光の波動のテレポーテーション装置は、もともと光量子ビットのような光子の状態ではなく、光の波としての状態(振幅や位相)を転送する装置。この装置は、従来のような条件付きでない、無条件の転送が可能であることが知られている。さらに、このテレポーテーション装置は従来と異なり、常に動作する(動作確率100%)。これは、量子テレポーテーションで用いる量子エンタングルメントを、高エネルギーの光ビームを結晶中で2つの光ビームに変換する過程を用いて常に生成する技術を用いていることによる。しかしこの技術では、物理的制約から完全な量子エンタングルメントを生成することができず、この不完全性のために、転送時に光の波動に雑音が加わってしまうという問題点もあった。
今回、この光の波動のテレポーテーション装置を光子の量子ビットに対して適用することで、この問題点が解決され、無条件・高効率で、かつ量子ビットの情報を雑音で乱すことなく転送することが可能となった。従来方式では量子ビットの転送効率は原理的に上げることが不可能だったが、新方式では用いる光のエネルギーを高めていくことで原理的には限りなく100%に近づけることができる。この点が従来法と比べた、新手法の本質的かつ決定的な強みを生み出していると言える。
このハイブリッド方式のアイデア自体は10年以上も前に提案されていたが、光子の量子ビットと光の波動のテレポーテーション装置は相容れない物理的性質を有しており、これらを組み合わせるには高い技術的ハードルがあった。研究グループでは、長年開発してきた要素技術を結集して、光子の量子ビットと光の波動のテレポーテーション装置の2つを組み合わせ、世界で初めてハイブリッド方式での量子ビットのテレポーテーション装置を開発し、それが無条件かつ常に(確率100%で)動作することを検証した。さらに、この組み合わせの下では、従来の量子ビットテレポーテーション装置には存在しない古典情報チャネルゲインを適切に調整することで、量子ビットの情報を劣化させることなく転送できることを発見・実証した。これらは、従来の常識を覆す歴史的な成果と言える。達成した量子ビット転送効率は約61%であり、従来方式の100倍以上と見積もられる。今後、より高エネルギーの光を用いて高品質な量子エンタングルメントを生成できれば、原理的に100%近くにまで転送効率を高めることが可能となる。
(参考文献)
Shuntaro Takeda et al., 「Nature」Deterministic quantum teleportation of photonic quantum bits by a hybrid technique