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光環境で早産児の発達を促す「調光型光フィルタ」を開発

April 30, 2013, つくば--NEDO産業技術研究助成事業の一環として、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所・知的障害研究部・診断研究室 太田英伸室長は、産業技術総合研究所(産総研)サステナブルマテリアル研究部門・環境応答機能薄膜研究グループ、田嶌一樹主任研究員と共同で、早産児の睡眠・身体発達を促進する光環境を人工保育器内に実現させる「調光型光フィルタ」を開発した。
早産のため低体重で生まれた赤ちゃんは、24時間同じ明るさで育てるよりも、1日のうち一定の時間が暗い、昼夜のある環境で育てることで、より体重が増加することが報告されている。早産児では妊娠28週目ぐらいから光の明暗を感じるようになるが、早産児がいる新生児集中治療室(NICU)は、治療などのために夜間も完全に暗くならない病院も存在する。
これまでに研究グループは、妊娠40週目ぐらいまでの赤ちゃんは波長が600nm以下の光を主に知覚することを発見した。また、600nm以下の光だけを遮断する特殊な樹脂製光フィルタを開発した。この光フィルタを夜間、人工保育器に取り付けると、医療従事者は外から保育器中の様子を視認できるが、赤ちゃんは暗闇にいると感じ、睡眠発達・体重増加が促進されることを確認していた。
研究グループは、新たに電源のオン・オフのみで同様の発達効果を早産児にもたらすことを可能とする新型光フィルタ「調光型光フィルタ」を開発した。調光型光フィルタには、産総研が研究開発を行っている調光ミラーデバイスを応用した。調光ミラーデバイスはエレクトロクロミズムの原理により、数ボルトの電圧をかけることで透明性や色合いなど光学特性を切り替えることができる。今回開発した調光型光フィルタは、新たに調光ミラー層としてマグネシウム・イリジウム合金薄膜を用いることで、赤系統の透明性を発現し、600nm以下の光を遮ることができる。従来、保育器に使用されていた布製カバーに比べ、フィルタの頻繁な脱着が不要なため、抗菌性に優れ、早産児の緊急事態にもスイッチのオン・オフだけで適切に対応できる利点をもつ。
研究グループは、産総研・サステナブルマテリアル研究部門・環境応答機能薄膜研究グループがこれまで研究開発を行っている「調光ミラーデバイス」を基礎に、透明性を有する赤色、あるいは黒色に変わり、場合により鏡のような状態になる調光型光フィルタを開発した。このフィルタは室温においてスパッタ法を用いて作製できるため、基材としてガラスだけでなくプラスチック素材も用いることができ、人工保育器内の光環境の制御だけでなくさまざまな用途に応用できる。
調光型光フィルタの色合いは、フィルタを構成する多層構造[調光ミラー層(金属)/触媒層(金属)/固体電解質層(酸化物あるいは有機物) /イオン貯蔵層(酸化物)]に含まれる金属の種類・割合により決定される。
調光型光フィルタは、イオン貯蔵層中に水素イオンを蓄えており、印加する電圧の極性(プラス、マイナス)に応じて水素イオンが移動することで状態が変化する。調光ミラー層に向かって水素イオンが移動するように電圧をかけると、調光ミラー層と移動してきた水素イオンが反応して、金属水素化物に変化し、赤系統の透明フィルタを実現できる。透明性や色相・濃淡は材料組成、印加電圧の大小や時間によって制御可能。この変化は可逆変化であるため極性を反転させて電圧を掛けると、調光ミラー層中の金属水素化物から水素イオンが脱離し、調光ミラー層は元の金属に戻る。このようにして、当該フィルタは電圧印加により光の透過量を自由にコントロールすることが可能であり、特に早産児の発育に有効な明暗環境を構築することができる。
この調光型光フィルタで人工保育器の透明フード部分を作製することにより、今後、早産児にとって最適な光環境を電源のオン・オフだけで提供できる新しいタイプの人工保育器を開発することができる。この新型保育器により早産児の発達を全般的にサポートし、これまでの新生児医療の水準を更に底上げできることが期待される。

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