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XFEL照射タンパク質微結晶中の硫黄原子からの異常シグナル検出
February 20, 2013, 播磨--マックス・プランク研究所、東北大学、京都大学、広島大学、理化学研究所と高輝度光科学研究センターによる合同研究チームは、X線自由電子レーザー(XFEL)をタンパク質分子の微結晶に照射して得られるX線回折において、タンパク質分子内に天然に含まれる硫黄原子による微弱な異常散乱信号を検出することに成功した。
これまでに多くのタンパク質分子の構造がシンクロトロン放射光施設においてX線結晶構造解析法を用いて決定されてきたが、結晶化が困難なために未だに構造が決定されていないタンパク質分子も多々ある。XFELの非常に強力なX線パルスを用いると非常に小さな結晶や結晶化していない試料からでもX線回折像を得ることができるため、これまで構造が決定できなかったタンパク質分子の構造が決定できると期待されている。しかし、XFELで得られるX線パルスのX線回折データから構造未知のタンパク質分子の構造を決定するためには、X線回折現象を表す構造因子の位相を決定する方法の確立が必要。今回のタンパク質微結晶を用いた研究で検出された異常散乱信号を用いると位相を決定できるため、今回の研究はXFELを用いたタンパク質分子の構造決定に向けた第一歩に繋がると期待される。
研究では、構造がすでにわかっているリゾチームタンパク質微結晶にSACLAで得られる強力なX線パルスを照射した。SACLAの非常に強力なX線パルスを微結晶に照射すると微結晶は損傷を受けるが、SACLAで得られるX線パルスの幅は10フェムト秒(fs)程度と非常に短いため、損傷の影響が微結晶に現れる前のX線回折像を得ることができる。ただし、ここで解決すべき問題がひとつある。SACLAでは1秒間に数十発のX線パルスが供給されるため、各々のX線パルスが新しい微結晶を照射するように次から次へと微結晶を供給しなければならない。ここでは、粒径が1μm程度の微結晶の高濃度白濁液を直径5μm程度の液体ジェットとして真空中に導入して1μm程度に集光したX線パルスを照射し、X線パルス毎にX線回折像を記録した。シリアルに微結晶を導入してXFELの極短X線パルスを用いて微結晶が損傷を受ける前にX線回折像を記録するこの手法はシリアルフェムト秒X線結晶構造解析法と呼ばれている。今回の研究のポイントはシリアルフェムト秒X線結晶構造解析法で記録したX線回折像の各回折斑点の積分強度を精密に評価して、重原子からの異常散乱信号を検出できるかどうかを見極めることにある。2日かけて約600,000枚のX線回折像を撮ったが、このうち微結晶にXFELが命中できたと思われるものが約420,000枚、このうち各回折斑点の積分強度の解析に使用出来たX線回折像が約44,000枚。これをコンピューター上で重ね合わせてX線回折像の回折斑点の積分強度を精密に見積もった結果、タンパク質に天然に含まれている硫黄原子からの異常散乱を検出することに成功した。
今回は、SACLAによるタンパク質微結晶のシリアルフェムト秒X線構造解析が可能であること、シリアルフェムト秒X線構造解析においてX線回折像の回折斑点の積分強度を評価して特定の原子からの異常散乱信号を評価できることを示した。この研究成果によって、これまで構造が決定されていない新規タンパク質についても、SACLAを光源としたタンパク質微結晶のシリアルフェムト秒X線構造解析法に従来から用いられている重原子同型置換法、多波長異常散乱法といった方法を組み合わせることによって構造を決定する道筋がついたと言える。結晶化が困難なために未だに構造が決定されていないタンパク質の中には、創薬ターゲットとなる膜タンパク質も多く含まれていることから、創薬分野への大きな貢献も、期待される。
この研究はマックス・プランク研究所Ilme Schlichting教授らのグループ、東北大学多元物質科学研究所上田潔教授のグループ、京都大学大学院理学研究科八尾誠教授のグループ、広島大学大学院理学研究科和田真一助教、理研放射光科学総合研究センターXFEL研究開発部門ビームライン研究開発グループ矢橋牧名グループディレクター及び高輝度光科学研究センターXFEL研究推進室利用技術開発・整備チーム登野健介チームリーダーのグループ等からなる合同研究チームによる成果。
(詳細は、科学雑誌『Acta Crystallographica Section D』)
これまでに多くのタンパク質分子の構造がシンクロトロン放射光施設においてX線結晶構造解析法を用いて決定されてきたが、結晶化が困難なために未だに構造が決定されていないタンパク質分子も多々ある。XFELの非常に強力なX線パルスを用いると非常に小さな結晶や結晶化していない試料からでもX線回折像を得ることができるため、これまで構造が決定できなかったタンパク質分子の構造が決定できると期待されている。しかし、XFELで得られるX線パルスのX線回折データから構造未知のタンパク質分子の構造を決定するためには、X線回折現象を表す構造因子の位相を決定する方法の確立が必要。今回のタンパク質微結晶を用いた研究で検出された異常散乱信号を用いると位相を決定できるため、今回の研究はXFELを用いたタンパク質分子の構造決定に向けた第一歩に繋がると期待される。
研究では、構造がすでにわかっているリゾチームタンパク質微結晶にSACLAで得られる強力なX線パルスを照射した。SACLAの非常に強力なX線パルスを微結晶に照射すると微結晶は損傷を受けるが、SACLAで得られるX線パルスの幅は10フェムト秒(fs)程度と非常に短いため、損傷の影響が微結晶に現れる前のX線回折像を得ることができる。ただし、ここで解決すべき問題がひとつある。SACLAでは1秒間に数十発のX線パルスが供給されるため、各々のX線パルスが新しい微結晶を照射するように次から次へと微結晶を供給しなければならない。ここでは、粒径が1μm程度の微結晶の高濃度白濁液を直径5μm程度の液体ジェットとして真空中に導入して1μm程度に集光したX線パルスを照射し、X線パルス毎にX線回折像を記録した。シリアルに微結晶を導入してXFELの極短X線パルスを用いて微結晶が損傷を受ける前にX線回折像を記録するこの手法はシリアルフェムト秒X線結晶構造解析法と呼ばれている。今回の研究のポイントはシリアルフェムト秒X線結晶構造解析法で記録したX線回折像の各回折斑点の積分強度を精密に評価して、重原子からの異常散乱信号を検出できるかどうかを見極めることにある。2日かけて約600,000枚のX線回折像を撮ったが、このうち微結晶にXFELが命中できたと思われるものが約420,000枚、このうち各回折斑点の積分強度の解析に使用出来たX線回折像が約44,000枚。これをコンピューター上で重ね合わせてX線回折像の回折斑点の積分強度を精密に見積もった結果、タンパク質に天然に含まれている硫黄原子からの異常散乱を検出することに成功した。
今回は、SACLAによるタンパク質微結晶のシリアルフェムト秒X線構造解析が可能であること、シリアルフェムト秒X線構造解析においてX線回折像の回折斑点の積分強度を評価して特定の原子からの異常散乱信号を評価できることを示した。この研究成果によって、これまで構造が決定されていない新規タンパク質についても、SACLAを光源としたタンパク質微結晶のシリアルフェムト秒X線構造解析法に従来から用いられている重原子同型置換法、多波長異常散乱法といった方法を組み合わせることによって構造を決定する道筋がついたと言える。結晶化が困難なために未だに構造が決定されていないタンパク質の中には、創薬ターゲットとなる膜タンパク質も多く含まれていることから、創薬分野への大きな貢献も、期待される。
この研究はマックス・プランク研究所Ilme Schlichting教授らのグループ、東北大学多元物質科学研究所上田潔教授のグループ、京都大学大学院理学研究科八尾誠教授のグループ、広島大学大学院理学研究科和田真一助教、理研放射光科学総合研究センターXFEL研究開発部門ビームライン研究開発グループ矢橋牧名グループディレクター及び高輝度光科学研究センターXFEL研究推進室利用技術開発・整備チーム登野健介チームリーダーのグループ等からなる合同研究チームによる成果。
(詳細は、科学雑誌『Acta Crystallographica Section D』)