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東京大学、光パルス照射で磁気の波の発生と伝播制御に成功
September 11, 2011, 東京--東京大学生産技術研究所の研究グループは、東北大学原子分子材料科学高等研究機構の齊藤英治教授、ウクライナ科学アカデミーのボリス・イワノフ室長と共同で、磁石に光パルスを照射するだけで磁気の波(スピン波)を発生させ、さらに光のスポット形状を変えることで波の伝播方向を制御することに成功した。
(東京大学研究グループ:佐藤琢哉助教、黒田和男教授(現在は宇都宮大学特任教授/東京大学名誉教授)、志村努教授)
電子のスピン自由度を利用する新しい技術“スピントロニクス”において、スピン波は情報を伝達する媒体としての役割が期待されている。また、そのスピン波を用いたスイッチング素子を実現する上で、スピン波の伝播方向を制御する技術が望まれている。
研究では磁性体に円偏光パルスを照射することで瞬間的にスピン波を発生させ、それを時間・空間分解して観測することに成功。さらに発生したスピン波の源は、照射する光パルスのスポット形状に依存し、それを利用してスピン波の伝播方向が制御できることを理論的・実験的に実証した。光パルスのスポット形状がスピン波の源を決定するというこの発見は、計算機ホログラムによる種々の形状の光スポットで自在にスピン波を時空間制御する技術につながり、スピントロニクスにおける光-磁気スイッチング素子への展望が拓かれる。
現代の情報社会を支えるエレクトロニクスでは、電子の持つ電荷の自由度やその流れ(電流)が情報を担ってきたが、電流に伴う発熱が避けられず、デバイスの高密度化が限界に達しつつある。一方、電子が持つもう1つの自由度であるスピンを積極的に利用しようという技術をスピントロニクスといい、盛んに研究されている。個々の電子スピンは方向をもち、ある軸の周りに歳差運動する。その集団運動(スピン波)は、電流と違って原理的には発熱の問題がないことから、新しい情報媒体として期待されており、スピン波の伝播に関する制御技術の確立が望まれてきた。これまでスピン波は微細加工されたアンテナからのマイクロ波か、スピン偏極電流によって誘起されてきたが、一旦アンテナや電極が加工され、磁場が印加されると、スピン波の伝播特性を直接変えることはできない。
研究グループは、約100フェムト秒(fs)のパルス幅を持つ光パルスを磁性体に集光することでスピン波を発生させる方法を提案した。光パルスを用いることで、超高速にスピン波を誘起できる。光スポットを自在に動かし、スポット形状を成形することで、より自由度の高いスピン波制御が可能になる。また別の光パルスでスピン波を検出することにより、高い空間分解能(1~10μm)、時間分解能(100fs)での測定ができる。
光アイソレータとして広く使われている鉄ガーネット単結晶に、面内に強さ1キロエルステッドの磁場を試料表面と平行に印加。試料表面に高強度の円偏光パルス(ポンプ光)を直径50μmの円形スポットに集光すると、逆ファラデー効果によりスポット内でスピン歳差運動が始まる。その様子を時間遅延をつけた低強度の直線偏光パルス(プローブ光)のファラデー回転角を測定することで時間分解測定。また歳差運動は、ポンプ光のスポット外にもスピン波として2次元的に伝播していきく。ポンプ光に対するプローブ光の相対位置を試料上でスキャンすることで、スピン波伝播を時間・空間分解して観測することにも成功した。スピン波の波長は200~300μm、群速度は約100km/s。ポンプ光パルス照射によって誘起されたスピン波の初期状態の空間分布は光パルスのスポット形状によって決まる、というモデルに基づいたシミュレーションは、実験結果をほぼ完全に再現することができた。
このモデルに基づくと、スピン波の伝播方向を制御するには、試料表面での光スポット形状を最適化すればよいことが予想される。ポンプ光の集光レンズの前側焦点面に長方形の開口を挿入し、試料表面でのスポット形状を楕円形にした。さらに、楕円の長軸が印加磁場に平行・垂直のとき、スピン波は磁場に対して垂直・平行方向に伝播することを実験およびシミュレーションで実証。このように、光のスポット形状に依存して波の伝播方向を制御することに成功した。
微細加工が必要なマイクロ波や電流を一切使わず、空間成形された光パルスのみでスピン波を発生させ、その伝播方向が制御可能になったことで、スピントロニクスの設計自由度が大きく広がることが期待される。この成果は、例えば計算機ホログラムによる種々の形状の光スポットで自在にスピン波を時空間制御する技術につながり、スピントロニクスにおける光-磁気スイッチング素子への展望が拓かれる。
また、今回実証された原理は、スピン波のみならず、光で誘起可能なあらゆる波に対して適応可能であるため、例えば弾性波の方向制御も期待できる。
(東京大学研究グループ:佐藤琢哉助教、黒田和男教授(現在は宇都宮大学特任教授/東京大学名誉教授)、志村努教授)
電子のスピン自由度を利用する新しい技術“スピントロニクス”において、スピン波は情報を伝達する媒体としての役割が期待されている。また、そのスピン波を用いたスイッチング素子を実現する上で、スピン波の伝播方向を制御する技術が望まれている。
研究では磁性体に円偏光パルスを照射することで瞬間的にスピン波を発生させ、それを時間・空間分解して観測することに成功。さらに発生したスピン波の源は、照射する光パルスのスポット形状に依存し、それを利用してスピン波の伝播方向が制御できることを理論的・実験的に実証した。光パルスのスポット形状がスピン波の源を決定するというこの発見は、計算機ホログラムによる種々の形状の光スポットで自在にスピン波を時空間制御する技術につながり、スピントロニクスにおける光-磁気スイッチング素子への展望が拓かれる。
現代の情報社会を支えるエレクトロニクスでは、電子の持つ電荷の自由度やその流れ(電流)が情報を担ってきたが、電流に伴う発熱が避けられず、デバイスの高密度化が限界に達しつつある。一方、電子が持つもう1つの自由度であるスピンを積極的に利用しようという技術をスピントロニクスといい、盛んに研究されている。個々の電子スピンは方向をもち、ある軸の周りに歳差運動する。その集団運動(スピン波)は、電流と違って原理的には発熱の問題がないことから、新しい情報媒体として期待されており、スピン波の伝播に関する制御技術の確立が望まれてきた。これまでスピン波は微細加工されたアンテナからのマイクロ波か、スピン偏極電流によって誘起されてきたが、一旦アンテナや電極が加工され、磁場が印加されると、スピン波の伝播特性を直接変えることはできない。
研究グループは、約100フェムト秒(fs)のパルス幅を持つ光パルスを磁性体に集光することでスピン波を発生させる方法を提案した。光パルスを用いることで、超高速にスピン波を誘起できる。光スポットを自在に動かし、スポット形状を成形することで、より自由度の高いスピン波制御が可能になる。また別の光パルスでスピン波を検出することにより、高い空間分解能(1~10μm)、時間分解能(100fs)での測定ができる。
光アイソレータとして広く使われている鉄ガーネット単結晶に、面内に強さ1キロエルステッドの磁場を試料表面と平行に印加。試料表面に高強度の円偏光パルス(ポンプ光)を直径50μmの円形スポットに集光すると、逆ファラデー効果によりスポット内でスピン歳差運動が始まる。その様子を時間遅延をつけた低強度の直線偏光パルス(プローブ光)のファラデー回転角を測定することで時間分解測定。また歳差運動は、ポンプ光のスポット外にもスピン波として2次元的に伝播していきく。ポンプ光に対するプローブ光の相対位置を試料上でスキャンすることで、スピン波伝播を時間・空間分解して観測することにも成功した。スピン波の波長は200~300μm、群速度は約100km/s。ポンプ光パルス照射によって誘起されたスピン波の初期状態の空間分布は光パルスのスポット形状によって決まる、というモデルに基づいたシミュレーションは、実験結果をほぼ完全に再現することができた。
このモデルに基づくと、スピン波の伝播方向を制御するには、試料表面での光スポット形状を最適化すればよいことが予想される。ポンプ光の集光レンズの前側焦点面に長方形の開口を挿入し、試料表面でのスポット形状を楕円形にした。さらに、楕円の長軸が印加磁場に平行・垂直のとき、スピン波は磁場に対して垂直・平行方向に伝播することを実験およびシミュレーションで実証。このように、光のスポット形状に依存して波の伝播方向を制御することに成功した。
微細加工が必要なマイクロ波や電流を一切使わず、空間成形された光パルスのみでスピン波を発生させ、その伝播方向が制御可能になったことで、スピントロニクスの設計自由度が大きく広がることが期待される。この成果は、例えば計算機ホログラムによる種々の形状の光スポットで自在にスピン波を時空間制御する技術につながり、スピントロニクスにおける光-磁気スイッチング素子への展望が拓かれる。
また、今回実証された原理は、スピン波のみならず、光で誘起可能なあらゆる波に対して適応可能であるため、例えば弾性波の方向制御も期待できる。