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ニュートリノ観測可能な大口径「ハイブリッド型光検出器」を開発

June 5, 2012, 浜松--浜松ホトニクスの久嶋浩之 電子管事業部 技術部 電子管設計第1グループ グループ長と東京大学の相原博昭教授らは、ニュートリノ観測など大型実験施設に用いられる、受光面が直径8インチ(約20㎝)の大口径ハイブリッド型光検出器(HPD)の開発に成功した。これは、JST研究成果展開事業 先端計測分析技術・機器開発プログラムの一環として開発された。
ニュートリノなどの素粒子は、水と反応したときに発する極微弱な光(チェレンコフ光)をとらえることで観測できる。ニュートリノが水と反応する確率を高めるために巨大な水のタンクを用意し、その壁面を多数の超高感度・高精度の光検出器で埋め尽くすことで、精度良く観測できるようになる。こうした条件を備えた大型水チェレンコフ観測装置の光検出器としては、従来、受光面の大きな光電子増倍管(PMT)が用いられていた。光電子増倍管には、光子から変換された電子を増幅するための電極がいくつも組み込まれているため、数10から数100点の部品で構成されることから、量産が難しいという課題があった。近年、電子管の電子増倍部を光半導体素子に置き替えたハイブリッド型光検出器が開発された。ハイブリッド型光検出器は量産に向く上に高精度の測定が可能という長所があるが、感度の高い大口径のものを製造するには設計上の課題があった(現行のものは、口径が約15mm)。
開発チームは、わずか6点の部品からなる直径8インチの大口径ハイブリッド型光検出器の開発に成功。電子管の光電面と半導体素子間に8kVの高電圧をかけることで、従来から使われてきた同口径の光電子増倍管と比較して、1つの光子の測定精度が、エネルギー分解能で約2倍、時間分解能で10倍向上した。
この成果により、100万トン級の次世代大型水チェレンコフ観測装置用に必要な直径20インチのハイブリッド型光検出器の量産が可能となる。
今回開発したHPDは、直径8インチと大口径で、電子増倍部をアバランシュダイオード(AD)に置き換えただけでなく、バルブ全てをガラスで構成し、可能な限りネック部を短くした構造の真空容器にした。これにより、同じ口径のPMTに比べ、部品数を約10分の1(6点)に絞り、作業時間を短縮し製造コストを下げられる構造にした。HPDは高電圧を印加するため、ガラスの微小放電や発光によって耐電圧不良を起こす危険がある。その対策として、印加電圧を8kVに設定するなど、設計そのものを見直して耐電圧特性を改善した。また、光電面の形状と電極構造の最適化を行い、光子が電子増倍部に到達する時間のばらつきを最小限にとどめることで、高い時間分解能が得られた。
ADは第1段での電子増倍が非常に高いために、同じ口径のPMTと比べ、1光子エネルギー分解能が約2倍(同口径のPMTのエネルギー分解能を100%とした場合、47%)改善された。併せて、ADの採用により、同じ口径のPMTと比べ、1光子時間分解能が約10倍(同口径のPMTの時間分解能が2400ps、ADを採用した場合235ps)向上した。
同開発品では、加速した光電子がADに入射したときに、1個あたり約1600個の電子・ホール対が生成され、さらに、ADのアバランシェゲインにより約130倍のゲインが得られるため、最終的に約20万倍の増幅が得られる。
開発では、浜松ホトニクスが中核機関となって試作し、東京大学が参画機関となって評価し、世界トップレベルの検出器回路技術および評価技術を持つ高エネルギー加速器研究機構がモジュールの実用化評価をした。
HPDはPMTと比較して、より簡素化された過程で製造可能なため、優れた量産性が期待できる。その結果、PMTに代わり汎用性に優れた低価格で高性能な光検出器が実現できる可能性があり、産業分野での応用においても貢献が期待できる。

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