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サブナノ1分子コンピュータ内の情報書き換えに成功

April 12, 2011, 東京--自然科学研究機構分子科学研究所の大森賢治研究主幹/教授の研究チームは、分子1個の中で波のように広がった量子力学的な原子の状態(波動関数)に書き込まれた情報を、10兆分の1秒だけ光る高強度の赤外レーザパルスを照射することによって一瞬で書き換える技術を開発した。この研究は、JST 課題解決型基礎研究の一環。
大森教授の研究チームはこれまでに、0.3nmサイズの分子の中の波動関数を使って、従来のスーパーコンピュータの1000倍以上の速度でフーリエ変換を実行することに成功し、分子1個が超高速コンピュータとして機能し得ることを実証している。これは、従来のシリコントランジスターを基盤とした情報デバイスよりも100倍以上コンパクトで、1000倍以上速い革新的な情報処理技術として、国内外で知られている。しかし、この時点では、分子内の複数の波動関数に書き込まれた情報が、分子固有の性質に従って自発的に時間変化することを用いて計算していたため、数種類の特定の論理演算しか実行することができなかった。任意の演算を実行するためには、分子内の情報を外部から書き換える新たな技術の開発が必要となる。
研究チームは今回、従来は干渉しないと考えられていた分子の中の異なったエネルギー状態の波動関数が、10兆分の1秒だけ光る高強度の赤外レーザパルス照射によって混じり合い干渉するという、全く新しい物理現象を発見。さらに、この干渉現象を用いて、分子内の複数の波動関数の強度を変化させることで、それらの強度の組み合わせとして書き込まれた情報を外部から書き換えることに成功した。
この成果は、分子コンピュータで任意の論理演算を実行するための基盤技術として期待されるほか、固体や液体の中で乱された波動関数を復元するための基盤技術の開発にも役立つものと期待される。
この研究では、ヨウ素原子2個でできているヨウ素分子がコンピュータとして用いられた。10兆分の1秒程度の時間幅を持つ波長540nm程度の緑色のレーザパルスを0.3nmサイズのヨウ素分子に照射し、エネルギーの異なる複数の波動関数を分子1個の中に同時に発生させた。さらに、同じく10兆分の1秒程度の時間幅を持ち高強度の波長1.4µmの赤外レーザパルスを照射し、各々の波動関数の強度がどのように変化するかを観察。その結果、従来は干渉しないと考えられていた1個の分子の中の異なったエネルギー状態の波動関数が、高強度の赤外フェムト秒レーザパルスによって混じり合い干渉することを発見。研究チームは今回、この全く新しい物理現象を世界で初めて発見し、「高強度レーザ誘起量子干渉(SLI)」と名付けた。このSLIを用いて、分子1個の中の複数の波動関数の相対的な強度を赤外レーザパルスの照射のタイミングを調節することによって変化させることにも成功。1個の分子の中の複数の波動関数の強度の組み合わせは「ポピュレーションコード」と呼ばれ、従来のコンピュータにおける(101)、(010)といったバイナリーコードのように分子コンピュータにおける重要なコードの1つ。研究チームは今回、このポピュレーションコードを世界で初めて外部から書き換えることに成功した。
研究成果は、分子コンピュータで任意の論理演算を実行するための基盤技術として期待される。また、固体や液体の中で周囲の原子や電子との相互作用によって乱された波動関数を復元する基盤技術の開発にも役立つことが期待される。さらに、分子コンピュータを固体内で動作させたり、原子や電子の波としての側面と粒子としての側面がどのように共存しているのかなどの謎を解き明かす実験にも役立つことが期待される。
(詳細は、2011年4月10日英国科学雑誌「Nature Physics」オンライン速報版)。

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