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産総研、ゲル電解質を用いたナノ粒子調光ガラスの電解質ゲル化に成功

March 30, 2010, つくば--産業技術総合研究所(産総研)ナノテクノロジー研究部門分子ナノ物性グループ、田中寿主任研究員、川本徹主任研究員は、山形大学と共同で、プルシアンブルー錯体のナノ粒子を用いた調光ガラスの電解質をゲル化することに成功した。
この調光ガラスは電気を流すことで、青色状態と無色透明状態を調整できるエレクトロクロミズムという現象を利用した素子。ナノ粒子を含むエレクトロクロミック(EC)層、ゲル電解質層、封止材のすべてを塗布工程により作製できるようになり、製造工程が簡略化され、安価かつ効率的に、大面積の調光ガラスを製造できる。ゲル化により破損時の電解液漏れの可能性も減少。また、この調光ガラスは電源を切っても色が変わらないメモリー性を示す。
 電解質をゲル化すると一般にイオン伝導性が減少してしまい、エレクトロクロミック素子の応答速度も低下するが、今回開発したゲル電解質では、材料の組み合わせや混合比率を最適化することによって、応答速度の低下を防ぐことができた。また、ゲル電解質自体が可塑性を持つため、樹脂基板(ポリマーフィルム)と組み合わせることでフレキシブルなエレクトロクロミック素子が作製可能。
 さらに、ゲル電解質に酸化チタン粉末などの白色粒子を混入して素子の片面だけの表示を見せることも可能。この素子はメモリー性を持つので電子ペーパーなどの省エネ型表示素子としても利用可能。
プルシアンブルー錯体ナノ粒子を用いた調光ガラスは、プルシアンブルー錯体に電気を流して酸化したり還元したりすると青と無色透明の間で色変化を起こす現象(エレクトロクロミズム)を利用した素子。酸化還元に伴う電子のやりとりと同時に、電荷のバランスを取って、錯体の酸化還元状態を保持するために、錯体と電解質の間でアルカリ金属イオンのような陽イオンの自由な出入りが必要となる。このとき、電子の移動速度と陽イオンの移動速度が速いほど、エレクトロクロミック素子の応答速度が速くなる。したがって電子と陽イオンの移動をいかに妨げないかが、実用レベルのエレクトロクロミック素子を実現するポイントとなる。一般に、電解質をゲル化するとイオン伝導性が減少して陽イオンの移動速度が低下してしまい、結果としてエレクトロクロミック素子の応答速度も低下するが、今回、ゲル電解質を構成する支持電解質塩、可塑剤、ポリマー(樹脂)の組み合わせや、各成分の混合比を最適化して、従来の液体電解質に遜色のない応答速度、メモリー性を持つゲル電解質調光ガラスの開発に成功した。
ゲル電解質超高ガラスは、2枚の透明電極(ITO:酸化インジウムスズ)基板上にそれぞれEC層I(プルシアンブルー錯体)とEC層II(ニッケル置換プルシアンブルー型錯体)を塗布し、それらを対向させ、間にゲル電解質を挟み込み、さらに周囲を樹脂で封止した構造となっている。ゲル電解質の粘度は室温で3万−10万 mPa•s程度であり、2枚の基板に挟まれた状態ではほとんど流動しない。この素子の基板間に1.5 V の乾電池を接続(EC層Ⅰ側が-)すると、3秒以内にEC層Iは青から無色へ、EC層IIは無色から淡黄色へと色変化し、素子全体として青から無色への色変化として認識される(25 mm角素子)。電圧を反転すると、逆方向の変化により青に復帰する。電流は色を変化させる時だけに必要で、通電を止めても色状態は保持される。1万回以上の繰り返し色変化後も劣化はほとんど見られなかった。また-20 ℃から100 ℃までの温度範囲での動作試験も行い、低温では動作に時間がかかるものの、問題なく動作することを確認。
今回のゲル電解質調光ガラスの作製には、バーコート法が用いられている。バーコート法とは、EC層を塗布した基板よりも少し厚みのあるガイドを基板両側に置き、基板に垂らしたゲル電解質をバーで延ばす手法で、大面積塗布に適する。ゲル電解質を使用することで製造工程は大幅に効率化される。
 現時点では、基材としてITOガラス基板を用いているが、将来的には透明電極付き樹脂基板(ポリマーフィルム)を用いることで、ロールツーロール法による大面積調光フィルムの製造が可能になると期待される。これまで調光ガラスは高価なために普及が進んでいないが、材料コスト・製造コストが安く、かつ大面積化が容易な今回の技術を用いれば、既存の窓ガラスに後付けではりつける調光フィルムも作製できるようになり、大きく普及が進むことが期待される。
今回開発したエレクトロクロミック素子は、調光ガラスだけではなく、表示素子としての応用も考えられる。ゲル電解質に酸化チタン粉末などの白色粒子を練り込んで反射材とし、背面(EC層II)を見えないようにしたエレクトロクロミック素子を試作。この素子はメモリー性をもつので、電子ペーパーなどに省エネルギータイプの表示素子として利用できると期待される。
(詳細は、www.aist.go.jp)

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