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電極表面上に固定したSWCNTに量子ドットの一次元配列を発見
July 15, 2009, 和光--理化学研究所は、銀の電極表面上に固定した1本の単層カーボンナノチューブ(SWCNT)に、量子ドットが6.42nmの間隔で規則正しく一次元配列することを発見し、その形成メカニズムを解明した。
これは理研基幹研究所、川合表面化学研究室のシン・ヒョンジュン(Hyung-Joon Shin)客員研究員、シルバン・クレア(Sylvain Clair)日本学術振興会外国人特別研究員、金有洙専任研究員、川合真紀主任研究員らによる研究成果。
SWCNTは、炭素原子だけの単層からできた直径数nmの超微細な筒状の物質で、その独特な一次元構造や特異的な電子構造から、将来の高性能エレクトロニクス素子への応用が期待されている。そのため、SWCNTを用いた単分子素子の開発を目指して、熾烈な競争が世界各国で繰り広げられている。中でもSWCNTが発揮する量子効果により個々の電子を制御する機能は、単一電子で作動するトランジスタなどのエレクトロニクス素子を実現できると注目されている。この高機能・高性能エレクトロニクス素子を実現するためには、SWCNTに量子ドットを規則正しく配列する技術が欠かせない。
研究チームは、1本のSWCNTを銀の電極表面に直接吹き付ける「乾式接触法」で固定(接合)すると、銀原子の配列と炭素原子の配列の周期の違いを反映して、SWCNTに6.42nmの間隔で量子ドットが規則正しく、波状に現れることを発見した。同時に、この波状の形状に起因して、銀の電極表面とSWCNTとの間の電子のやり取りが、原子レベルで規則性を持って変化することを、原子レベルの空間分解能を有する走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いて明らかにした。これらの発見により、SWCNTのようなnmサイズの一次元物質を用いて、単分子スイッチや単分子トランジスタなどの単分子素子を実現する新たな原理を提案することになる。
研究成果
(1)清浄化した銀単結晶表面に直接SWCNTを固定: 研究チームは、溶媒を使わず、SWCNT粉末を電極表面に直接吹き付ける「乾式接触法」という方法を、金属の単結晶表面に初めて適用。10-8 Torrという超高真空の極めてクリーンな環境下で、銀の単結晶電極表面に1本のSWCNTを蒸着して固定化することに成功した。これにより、原子レベルで清浄な試料作製が可能な上、電極表面には化学的に不活性な単結晶の面を使わなくてはならない、という制限がなくなり、さまざまな電極材料の任意の表面上にSWCNTを直接接合し、電子状態などの物性を原子レベルで評価することができるようになった。
(2)SWCNT上に周期的に配列した量子ドットの発見: 乾式接触法で固定した1本のSWCNTの真ん中部分を、長さ方向に沿って高さを測定し、山と谷が6.42nmの間隔で周期的に配列していることが分かった。さらに原子レベルの空間分解能を有するSTMを用いて電気伝導特性を調べたところ、伝導帯と価電子帯の間隔(バンドギャップ)が一定に維持されるとともに、伝導帯と価電子帯の両方が、高さの周期と同調して波模様を形成することを観察。これは、約40年前に江崎玲於奈博士が予測した通り、一次元物質のバンド構造は周期的に制御することが可能であることを意味します。江崎博士のモデルによると、SWCNTのような一次元物質に、局所的に電子が集まる構造(量子ドット)を作ることができると、今回観測したような波模様のバンド構造が得られる、と提案している。今回、SWCNTに、6.42nmの間隔で周期的に配列した量子ドットを、世界で初めて発見した。
(3)SWCNT上における量子ドットの周期的配列のメカニズムの解明: 銀の電極と結合させた1周期分の長さのSWCNTをSTMで観察すると、SWCNTの直径は6.08Aで、SWCNTと電極表面の銀原子の配列の角度は16度で固定していることが分かった。さらに、SWCNTの波模様の形状の周期性は、電極表面の銀原子の配列とSWCNTの炭素原子の格子配列の周期がお互いに異なり、格子の整合性が 6.42nm間隔で一致することに起因することが明らかになった。これは、SWCNTと電極表面との電子的相互作用の違いが、原子レベルの空間分解能を持って局所的に存在し、その結果量子ドットが周期的に形成されたことを意味する。この一次元的に形成される量子ドットの間隔は、SWCNTの対称性や、電極表面の原子との相対的な角度を変えることにより、制御することができる。
研究チームは、絶縁体上にSWCNTを直接固定することにもすでに成功しており、今回の成果とあわせると、エレクトロニクス素子を開発する上で欠かせない、主要な要素技術を確立したことになる。今後、SWCNTを用いた単一電子トランジスタや量子コンピュータなど、量子効果に基づいた次世代超微細エレクトロニクス素子の開発に向け、新たな指針を与えることが期待されている。
(詳細は、英国の科学雑誌『NATURE NANOTECHNOLOGY』オンライン版7月13日付)