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産総研、レーザ援用インクジェット法で微細な配線の高速描画に成功

July 6, 2009, つくば--産業技術総合研究所(産総研)は、インクジェット描画中にレーザ照射を行うことで、従来の工業用インクジェット技術では困難であった、描画線幅の微細化と線厚みの厚膜化の関係を両立させ、重ね塗りすることなくアスペクト比(配線厚/配線幅)が1以上、線幅10μm以下の微細導体パターンを10mm/secの速さで描画することに成功した。
開発にあたったのは、産総研先進製造プロセス研究部門、明渡純主幹研究員(兼)集積加工研究グループ長と遠藤聡人産総研特別研究員。産総研では、この技術をレーザ援用インクジェット法(Laser assisted Ink-Jet printing: LIJ)と呼び、数百μmの段差がある凹凸基板や異なる材質、表面粗さの基板上に、基板表面状態の影響をほとんど受けずに、金属超微粒子インクなどによる微細かつ高アスペクト比の配線を描画できることを確認した。
 レーザ援用インクジェット法を用いて描画した配線は、配線幅10μmで高アスペクト比の形状になり単位長さ当たりの抵抗値が6Ω/cmと低くなるため、これまでの工業用インクジェット技術の課題であった、金属超微粒子インクによる微細配線の高い抵抗値(配線幅10μmのとき70Ω/cm)を大幅に低減できた。
今回開発した技術により、チップとメイン基板間のインターポーザ(中継基板)、フレキシブルな樹脂部材上への配線、金属部材を用いた場合の段差接続や曲面上での高密度配線に対して、低抵抗値の配線を高速で描画でき、微小電子部品の製造・開発の高効率化が期待される。
今回の成果では、シングルノズル型のインクジェット・ヘッドから吐出された、直径25μm(8.2ピコ・リットル)程度のインク液滴を用いた。この液滴は、通常の家庭用インクジェット機で吐出される液滴よりもサイズが大きい。これにCO2レーザを照射して局所的な加熱を行い、液滴の流動制御や液滴中の溶媒の乾燥を促進し、吐出液滴径より小さな線幅約5〜10μm、配線厚み10μm、アスペクト比(配線厚/配線幅)で1以上の微細Ag(銀)配線をガラス基板上に直接描画。重ね塗りをせずに線幅を微細化すると同時に、高アスペクト比の配線を描画でき、1ノズルあたりの描画速度も10mm/secと大幅に向上させることに成功した。これは、吐出インク液滴径より小さな線幅がインクジェット法で描画できる可能性を初めて示したもので、レーザ照射の無い従来の工業用インクジェット法で表面処理を施さない基板に描画した配線と比較して、アスペクト比で250倍以上の改善となっている。さらに、バルジ効果と呼ばれる、着弾時の液滴の不均一な濡れ広がりやコーヒーリング現象と呼ばれる膜厚の不均一を抑えることもできている。用いたインクは、Agナノ粒子が有機溶媒に分散された市販のもので、例えば線幅10μmのAgパターンで、単位長さ当たりの配線抵抗値は、レーザ照射の無い場合の70Ω/cmから6Ω/cmへと、大幅に低減。金属超微粒子インクによる微細配線の高い抵抗値を改善するためには、導電インクで形成された配線パターンの体積抵抗率の低減だけでは限界があるが、このように配線厚みを増加し高アスペクト比化することで低抵抗の微細配線が可能となる。
これまでインク液滴の乾燥を促進させる方法としては、基板自体を加熱する方法があるが、基板からの熱によってインク吐出ノズルの開口部付近が乾燥し、ノズルの詰まりが起こりやすく、また、熱による対流の影響で飛翔中の液滴の軌道が狂い、高い着弾精度が得られなかった。一方、微細パターンを描画するために、液滴サイズそのものをサブフェムト・リットルまで微細化して、液滴体積に対する比表面積を増加することで乾燥を促進させる手法が知られるが、微細な液滴を吐出するノズル開口自体も微細化するため、インク乾燥によるノズルの詰まりが発生しやすいといった実用上の困難があった。これに対して今回のレーザ援用インクジェット法は、液滴サイズが数ピコ・リットルと微細配線用としては比較的大きいノズル開口サイズが使用可能で、局所加熱の影響によるノズル開口部の乾燥や飛翔液滴の軌道変化も少ないため、インク乾燥によるノズル詰まりも生じにくく正確なインク液滴の着弾が可能となる。実用性が高く精度の高い微細パターン描画を提供できることが大きな特徴。
現在までに、この技術を用いて導電性材料の2次元パターン描画やポストアニール無しの導電配線の形成、また、コプレーナー型高周波線路を形成し、40GHzまで良好な伝送特性が得られること、配線幅30μm、配線長さ80mmの微細Agパターンを通し、LEDを定格電流20mAで駆動し、十分な輝度で点灯できることも確認されている。さらに、酸化物材料などのさまざまなインク材料でも、上記導電材料と同等のレーザ照射効果によるアスペクト比の向上が確認された。
 産総研では、このレーザ援用インクジェット法でレーザ照射条件やインク材料の最適化をはかり、より微細なパターン描画を目指すとともに、マルチノズル・ヘッドへの適応を検討するなどの改良を進め、さらなる技術の向上を目指す。また、共同開発を進める民間企業を広く募集する予定で、さまざまな材料への適用、用途展開を進め、実装コストの大幅な低減や設計・仕様変更あるいは、カスタムメードに対応できる実装技術に発展させる。
(詳細は、www.aist.go.jp)

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