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エレクトロスプレー・デポジション法で有機EL薄膜パターンを形成

July 2, 2009, 東京--独立行政法人理化学研究所(理研)は、新しいタイプのエレクトロスプレー・デポジション(ESD)法を確立し、有機EL材料などの品質低下を招くピンホールなどの問題を解消した、高品質な薄膜パターンを形成することに世界で初めて成功した。
これは、理研知的財産戦略センターVCADシステム研究プログラム加工応用チームの山形豊チームリーダーと東京大学大学院工学系研究科精密機械工学専攻の樋口俊郎教授らによる研究成果。
有機EL材料をはじめとする有機高分子半導体材料は、フレキシブルで高機能化が容易なだけでなく、フイルムのように大量生産が可能なことから、次世代のディスプレイや有機半導体デバイス、さらには有機太陽電池など幅広い分野への応用が期待されている。しかし、薄膜を形成する手法は、真空や高温を必要とするプロセスが主流で、真空や高温に弱い高分子系の材料にはダメージを与える可能性が高く、また、低コスト化や製造エネルギーの軽減といった材料本来の特長を生かすことができなかった。ESD法は、常温・大気圧という穏やかな条件で薄膜形成が可能なプロセスで、生体高分子材料や有機高分子材料などにダメージを与えることなく薄膜化・パターン化でき、サンプルの利用効率が極めて高く、微細なパターン形成が可能であるという特長も兼ね備えているが、従来のESD法では、良好な電気的特性を得ることは困難。これは、基板にスプレーした溶液の微細な液滴が乾燥する際に、ナノ粒子ができて薄膜を形成するため、薄膜上にピンホールが発生するからだ。
研究グループは、2種類の蒸発速度の異なる溶媒を適切な割合で混合することで、ピンホールのない優れた品質の薄膜形成を可能にする条件を発見し、この課題を解決した。新たに開発したESD法で製造した薄膜の表面粗さは、JIS規格の算術平均粗さで1nmもの平滑さを達成し、スピンコート法などの従来の手法を上回る品質を実現した。
新たに開発したESD法に基づき、有機半導体材料の1つpoly(2-methoxy-5-(2-ethylhexoxy)-1,4-phenylenevinylene)(MEH-PPV)を用いて、厚さ約120nmの薄膜をITO電極上に形成。電子顕微鏡などによる表面状態の観察から、薄膜は、溶媒の混合比率やサンプルの濃度によって、パーティクルモードとウエットモードのほかに、それらの間の高品質なフィルムモードをとることが判明した。パーティクルモードでは、従来のナノパーティクルの集積からなる多孔状の薄膜となる、ウエットモードでは、液体を基板上に塗布して乾燥させた際に発生する不均一な薄膜が形成する。一方、フィルムモードは、この2つのモードの課題を克服し、平滑な薄膜を形成する。
今回検証した30種類の条件のうちのいくつかは、算術平均粗さで1nm以下となっており、極めて高品質な薄膜を形成可能であることが分かった。さらに、この手法によって100×340μmの薄膜のドットをITO基板上に形成し、電気的特性や発光特性を測定したところ、スピンコート法で形成した薄膜と同等以上の性能を示すことを確認した。これにより、今回開発した新手法は、スプレーすることで広範囲に薄膜を形成することが可能となるとともに、微細なパターンをも効率的に形成できることが分かった。
ESD法は、有機材料ばかりではなく、さまざまな物質で広範囲に適用が可能な手法。今後の展開について理研は、「より大規模な製造設備への適用を進めると共に、さまざまな有機半導体デバイスの製造手法として基礎的な科学研究から、ものづくりの現場まで適用範囲を広げることを予定している」。

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