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NIMS、表面プラズモンを利用したフルカラーフィルタ開発に成功
April 1, 2009, つくば--物質・材料研究機構(NIMS)は、表面プラズモンを利用したフルカラーフィルタの開発に成功した。開発は、ナノテクノロジー融合支援センター、池田直樹主任エンジニアらの研究グループが、豊田中央研究所と共同で行った。
同研究では、可視光全領域で表面プラズモン共鳴が得られる金属材料としてアルミニウムを採用することで、電子線リソグラフィ法と反応性イオンエッチング法によりナノスケールの高精度な周期的なホールアレイを形成することが可能になり、単色性・透過率に優れた赤・橙・黄・緑・青の5色のカラーフィルタの開発に成功。これらのカラーフィルタは、ガラスや半導体基板のみならずフレキシブルな透明フィルム上にも作製可能。このため、将来の超高解像ディスプレイやイメージセンサへの応用が期待できる。また、発光ダイオード(LED)内に組みこむことで光取り出し効率の飛躍的向上も期待される。
特定の光を透過するカラーフィルタは、ディスプレイやイメージセンサをはじめとして、様々な分野・用途で用いられている。従来のカラーフィルタは、光をR(赤)・G(緑)・B(青)の3原色に分ける際、材料の吸収による遮光もしくは光の干渉により特定の波長のみを透過もしくは反射させる方式が用いられている。しかし、リソグラフィ工程を繰り返す、あるいは屈折率の異なる材料を積層するなど構造が複雑であるため、製造工程およびコストの削減が求められている。
一方で、近年、金属薄膜にナノスケールの微細加工を施した新たな構造における光の挙動、表面プラズモン共鳴による光の異常透過現象が注目を集め、波長フィルタやLEDの光取り出し効率の向上など様々な応用研究が進められている。これまでの表面プラズモン共鳴に関する研究の多くは、金属材料として銀や金を用い、集束イオンビームによってパターンの一つ一つを直接加工することによって進められてきたが、金、銀、銅といった貴金属材料は、プラズマ周波数が低すぎるためRGBすべてに対応するフィルタ特性を得ることは困難。作製プロセス・コストの面からも実用化に向けての課題は大きかった。
研究チームは、これらの課題を解決するために、従来の半導体技術により加工が比較的容易であり、可視光全領域において表面プラズモン共鳴が得られる材料としてアルミニウム(Al)を採用。ガラス基板上に成膜した厚さ150nm のAl薄膜に、電子線リソグラフィ法と反応性イオンエッチング法により光の波長の半分程度の周期的なホールアレイ(周期:300〜420nm、孔径:150〜210nm)を形成し、表面をシリコン酸化膜(SiO2)でカバーした。基板裏面から入射した光は、Alとガラスとの界面において、ホールアレイの周期によって決まる特定の周波数成分を持つ表面プラズモンを励起・伝搬するためカラーフィルタとして機能する。
今回作製されたAlを使った表面プラズモンカラーフィルタの優位性は以下の通り。
(1) フルカラーによる自然な色の再現が可能。
(2) 二次元的な構造であるため色(透過光の波長及び帯域幅)・輝度などの光学特性の制御が容易。
(3) 作製プロセスが単純であり、それぞれの波長に対応したフィルタを一括して形成可能。
(4) 薄く、構造が極めてシンプルであり、微細化が容易。
(5) 従来の半導体微細加工技術が利用可能であり、特に大面積・量産向けのリソグラフィには現状のナノ・インプリント技術が適用可能。
Al薄膜を使った表面プラズモンカラーフィルタは、ガラスや半導体基板のみならずフレキシブルな透明フィルム上にも作製可能であることから次世代のよりリアルな超高解像ディスプレイやイメージセンサを実現するものと期待される。NIMSは、「今後、様々な光デバイスへの応用を目的として光学特性の改善の他、動的制御など高機能化に関する研究を進めていく」としている。