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232℃の低温で光素子を基板に接合できる鉛フリー薄膜はんだ技術開発
March 11, 2009, 東京--日立製作所(日立)は、光通信機器や光ディスクドライブに用いられる光素子を、従来より40℃以上低い232℃の低温で基板に接合することで、製造時における歩留まりの低下の抑制と、はんだ表面の酸化防止を実現した鉛フリー薄膜はんだ技術を開発した。
開発した薄膜はんだは、融点の低い錫(スズ、Sn)薄膜を母体とし、Snの拡散を防ぎ酸化の防止に貢献する銀(Ag)薄膜を加え、酸化を抑制する金(Au)薄膜で挟み込むSn/Ag/Auの三層構造とすることで232℃の低温による接合とはんだ表面の酸化防止を両立させたものである。
これにより、従来光素子と基板を接合する際に用いられていたAu-Sn合金の薄膜はんだ(融点278℃)と比べ、40℃以上低い温度での接合が可能になり、熱による歪みが30%低減できることから、製造時の歩留まりを低下させる原因となる光素子の特性の変化を抑えることができる。加えて、薄膜はんだの表面に酸化膜が形成されないため、光素子の性能を劣化させるフラックス処理が不要で、これまで以上に信頼性が高く環境負荷の少ない光素子の基板への実装作業を実現する。
この技術は、日立協和エンジニアリング(日立協和)と共同で開発した。
光素子は、大量の情報を高速に伝達する光通信機器やDVD、BD(Blu-Ray Disc)などの光ディスクドライブに必要な光源であることから、放送と通信の融合の実現に不可欠なものとなっている。光素子はいったん基板に接合された後、入出力端子を実装した光モジュールの形で光ディスクドライブなどの装置に組み込まれる。従来、光素子の基板への接合は、あらかじめ基板上に厚さ 1〜5μmのAu-Sn合金の薄膜はんだを形成し、そこに光素子を押し当て280℃以上に加熱することで行なっていたが、基板と光素子の熱膨張率に差があるため、接合後に室温にもどると光素子が歪み、光素子の特性が変化する場合がある。このため、より低温の薄膜はんだ技術が望まれていた。また、薄膜はんだに融点が低いSnを使うためには、表面に形成される酸化膜を溶剤で除去するフラックス処理を施す必要があるが、この処理を行なうと、溶剤の残りが光素子に付着してレーザの進路を妨げ、性能を劣化させるという問題があった。
このような背景から、今回、日立は日立協和と共同で、従来のAu-Sn合金の薄膜はんだに比べ40℃以上融点が低く、薄膜はんだ表面の酸化を防ぐ鉛フリー薄膜はんだ技術を開発した。
開発技術の詳細
(1)低融点と酸化抑制の両立: 低融点とはんだ表面の酸化の抑制を両立するために、融点が低いSnを母体とし、表面の酸化を抑制する効果のあるAuで被覆する構造とした。
(2) Sn/Ag/Au三層構造によるSnの拡散の抑制: SnとAuは拡散が速いため、Sn/Auの二層ではSnがAuの層を通り抜け表面が酸化する。Snの拡散を抑制して表面の酸化を防止するために、(1)に加え、Snの拡散を防ぐAgを間に挟み、Sn/Ag/Auの三層構造を有する薄膜はんだを開発した。
開発した薄膜はんだは、232℃以上に加熱すると、はんだ全体が瞬時に溶融して接合することができる。室温へ冷却した際に、光素子に発生する歪みを 30%低減できるため光素子の特性の変化を抑制することが可能。また、AgとAuによる酸化防止効果により、はんだ接合時のフラックス処理が不要。さらに、材料に鉛を含まず、希少資源である金の使用量を従来のはんだに比べ96%抑制することなど、環境負荷の低減にも貢献する。今後、日立と日立協和は、さまざまな光部品の実装分野への展開を進めていく予定。