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高効率の高出力半導体レーザクラッディング

バルデマー・マリン、スチュワート・ウッズ

アメリカ溶接協会の賞を授賞した研究によって、船用ポンプの支持鋼鈑表面へのアルミニウム青銅による線材供給レーザクラッディングの開発が可能になった。

船上の可動部品は長期の磨耗と海水による腐食の両方の影響を受ける。金属表面を被覆するクラッディング加工は、このような部品の寿命を延ばすには有用な方法だ。本稿では、米アリオン・サイエンス・アンド・テクノロジー社(Alion Science & Technology)ロックフォード製造技術研究センターが米国海軍のピュジェサウンド海軍造船所中間保守施設(PSNS/IMF)と共同して、アルミニウム青銅の低摩擦層による鋼ポンプ部品のレーザクラッディング技術をどのようにして開発したかを解説したい。この技術は少量生産性(Low Volume Productivity;LVP)プログラムのもとで、米コヒレント社(Coherent)の高出力ダイレクト半導体レーザ(HPDDL)を自動化されたレーザセル(ALC)、つまり柔軟で効率のよいロボット装置の中核部品として使用している。本稿で取上げる研究はアメリカ溶接協会から賞を受賞しているが、一連の厳しい制御条件のもとで作製された試験サンプルの非常に精密な特性評価も含まれている。

レーザクラッディングとは何か?

 表面処理は溶接、蝋付け、溶射などを使用し、特定の材料の層を基板表面に形成して所望の性質と寸法を確保する加工法だ。材料を堆積して腐食耐性や耐熱性を確保する加工法はクラッディングと呼ばれ、磨耗耐性が得られる加工法は表面硬化と呼ばれている。
 クラッディングは部品に望ましい表面特性を与えたり、機械加工後に摩滅した部品を元の寸法に復元するために広く使われている方法である。前者の場合、基板の表面には異なる材料(フィラー金属ではない)の層が付加される。理想的なクラッディング加工は、堆積材料と基板材料との混合(希釈と呼ばれる)が最小に抑えられ、両者の結合が非常に強く(真の金属結合)、加工された部品の熱歪みが最小でなければならない。生産性、工程の互換性、加工費用などの実用的な要件を満たすることも必要になる。
 レーザを用いて基板の表面や粉体または線材のフィラー材料を融解するいくつかのクラッディングの用途では、レーザの競争力や優位性が証明されている。レーザクラッディングは伝統的にCO2 レーザや各種のNd:YAG レーザに依存し、最近ではファイバレーザも使用されているが、いずれのレーザにも何らかの限界がある。例えば、以前行われたピュジェット湾における磨耗シャフトを修復するクラッディング加工では、海軍は2台のNd:YAGレーザクラッディング装置を用意したが、さまざまな問題のためにその使用は中断されている。
 しかしながら、継続的な技術の進歩、設置面積の縮小、既存の生産ラインへの統合が容易になったことなどにより、HPDDL は現在は非常に魅力的なレーザとして評価されている。さらに、このレーザが発振する近赤外波長によって、合金化や物理的歪みなどの熱影響の低減において好ましい結果が得られる。
Nd:YAGや、特に中赤外CO2レーザに比べると、このレーザは波長が短いため、クラッディング材料による吸収が大きいことがその理由の一つだ。このことはCO2 レーザよりもかなり少ない出力パワーでどのような材料の融解でも可能になることを意味している。
 HPDDL は他のレーザに比べると加工コストの低減効果もかなり大きい。一つには、電気的効率(入力される電気エネルギーから利用可能な光出力への変換効率)がCO2レーザの4 倍、半導体励起Nd:YAG レーザの約3倍、ファイバレーザの約2 倍になることがその理由である。このような高い変換効率とクラッディング材料による高い吸収とが組合されて、堆積効率は高く、運用コストは低く、炭素の排出量は少なくなる。
 さらに、基板表面に入射するHPDDLの方形(線形)のビーム形状も一般的にクラッディング加工の利点になる。例えば、粉体や線材によるクラッディングでは、線形ビームの方向が基板の進行方向と垂直になるため、広い面積を迅速に加工することが可能になる(図1)。

アリオンによるアプローチ

 海軍の支援による今回のプログラムの当初の目標は、船用ポンプの中核部品となる新しい軸受鋼を対象にしたレーザクラッディングの改良技術の開発であった。従来の支持鋼鈑は伝統的なクラッディング技術による蝋付け、つまりローズバッドトーチを使用して部品を加熱し、フラックスとフィラー金属(銅合金)塊を鋼鈑上の特別に加工されたポケットに溶かし込む。次に長い時間をかけて冷却する。蝋付けの全工程は最大50分を要する。蝋付けされたブランクは目標の公差に達するまで機械加工される。
 この手動に依存する蝋付けにはいくつかの問題がある。例えば、
・溶着物は気孔率が高い。この問題を解決するには、ブランク内のポケットは0.280 インチの深さが必要になる。この深さは最終の機械加工後の青銅溶着物として必要になる0.093インチに比べるとはるかに深い。
・溶着物の品質を予測できない。熱源の制御が難しいので、基板温度が変動し、溶接作業者による蝋付け終了の決定も曖昧になる。その結果、品質が変動する。
・安全性に問題がある。高温、雑音および有害ガスの放出には溶接作業者の安全を損ない、環境を汚染する危険性が潜んでいる。
・この方法は労働集約型のため、生産性が低く(時間当たりの加工部品数)、コストが高くなる。
 これらの問題を解決するために、アリオン社はクラッディングと表面硬化に適したALCを開発した(図2)。このALCはコヒレント社の4 キロワットHPDDLがレーザ支援システムと一緒にパナソニックのロボットアームに搭載されるロボットシステムとして構成される。レーザ支援システムには溶融池の実画像を監視スクリーンに表示する画像システム、溶融池とワイヤとの相対位置を遠隔操作するワイヤ位置決めシステム、ブランクの温度を測定する赤外温度センサ、特別に開発された固定具などのシステムとデバイスが取付けられている。
 ALC の操作、レーザヘッドの移動、溶接パラメータなどのシーケンス制御は、新規に開発されたロボットプログラムにもとづいて行われる。このALCの構造と技術は参考文献(1)に詳しく記載されている。
 溶接の自動化(溶接や蝋付け用途など)において重要な規範の一つに、自動加工が可能になるように、必要があれば部品の溶接部を常に調整することがあった(2)。軸受鋼の原型ブランクは、手動による炉外での蝋付けを目的にして設計され、以下のいくつかの理由によって、新しいALCを用いた自動レーザクラッディングに適したものではなかった。
・ポケットの構造はALCを用いる連続HPDDLクラッディングには適していない。
・手動による蝋付け加工の不完全性を補うために、機械加工には過剰な交差が設定されている。
・ブランクの設計には固定具による正確な位置決めを可能にする参照部が全く含まれていない。 こうした理由のために、ブランクの設計は修正されたが、その修正では最終の寸法と形状が影響を受けないように配慮された。図3は元のブランクと修正されたブランクを比較して示している。
 アルミニウム青銅は摩擦が小さく、塩分を含む水蒸気や酸などのほとんどの大気条件に曝されても、表面性状の顕著な劣化や機械的特性の大きな低下が生じない。したがって、どのようなクラッディング材料であっても、船舶の用途に適している。そこで、この場合の用途には8.5 〜 11%のアルミニウムを含む銅合金EU CuAl-A2 が選択された。
その結果、希釈や蒸発による損失を考慮しても、クラッディング後の表面層は最小>7%のアルミニウム濃度が確実に保証された。

性能の最適化と評価

 ALC を操作する際のブランクは、まず固定具に取付けられて水冷される。次にロボットのプログラムが起動し、クラッディングの自動連続加工のサイクルが始まる。図4 はブランク上に堆積したアルミニウム青銅の青銅層を示している。それぞれのビードはポケットのより短いエッジに沿って堆積する。
この堆積が終わると、レーザヘッドはU ターンし、このようなクラッディング加工が繰返されて、ポケットは完全に充填される。
 精密な厚み(0.125インチ+0.020インチ/−0.015 インチ)にもかかわらず、均一な溶接幅(5/8 インチ±1/32 インチ)を表面欠陥(亀裂、細孔、未充填スポット、過剰リップル、酸化など)なしに得ることができた。充填するポケット全体の堆積の平坦性を確保することも重要であり、ブランクの表面下0.015インチにはスポットの存在が許されない。所定の厚みの平坦面を得るには、22のビードを55%の重なりでポケットの全面に堆積させることが必要であった。
 溶接したブランクから切り出した試料を複数の方法で解析し、化学組成、アルミニウムと鉄の分布、硬度および微細構造を含めて、堆積した金属の冶金学的性質と機械的性質を系統的に明らかにした。
 冶金学的試験の結果から、このレーザクラッディング技術によるアルミニウム青銅堆積物の品質は非常に高いことが確認された。機械加工した青銅堆積表面の鉄の濃度は、供給したワイヤよりもごくわずかに高い値であった。このことは、この技術による希釈が本質的に非常に低い(0.3%)ことを意味している。堆積物の鉄分が高いことは、クラッディングした表面の硬度が向上したことを明示しており、対応する鋼材の磨耗が加速される可能性がある。
 堆積物の厚み方向に鉄が分布することは、減摩性/耐磨耗性が要求される用途にとって好ましい。鉄の濃度が高い青銅‐鋼鉄界面は冶金学的結合が強くなる。同時に、鋼鉄ギアと接触する表面の鉄の濃度は線材よりもわずかに高くなるが、このことはギアの過剰な摩擦の防止に役立つ。
 アルミニウムの損失(希釈と蒸発による)も最小になる。機械加工した表面のアルミニウム濃度は、望ましい二相合金微細構造を保証する7%以上になる。アルミニウム青銅のクラッディングによる堆積物の硬度は、現在の蝋付けおよび通常の伝統的なアーク溶接よりも確実に高くなる(それぞれ6% と17%)。
さらに重要なことは、機械加工した堆積物の表面は局所的硬度がかなり均一になり、硬度の高い場所が局所的に存在しないことだ。

結論

 アリオン社のHPDDLクラッディングを応用して船用ポンプの軸受鋼を製造すると、8.5〜11%のアルミニウム濃度をもつ青銅の堆積が可能になることが判明した。堆積した金属の品質は従来の方法から得られる品質を確実に上回っている。また、加工時間と銅合金の消費量も半減し、クラッディング後の機械加工の時間も大幅に短縮され、安全性や汚染の問題も低減できた。

図1 HPDDLからのレーザビームの線形プロファイルは、粉体および線材供給クラッディングの用途に適している。

図2 アリオン社のALC はクラッディングと表面硬化の用途を支援する。

図3 軸受鋼のブランクの従来のブランク( A )と自動クラッディング用に改良したブランク( B )の設計を示している。

図4 支持鋼鈑の表面に堆積したアルミニウム青銅の層を示している。この図は説明のために、堆積した最上層は除去している(左側)が、右側は溶接された状態で残している。

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