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レーザ穴あけの産業としての現状
ウルリッヒ・デュール
レーザ穴あけは加工品質と生産性の改善が用途を拡大している。
産業用レーザ材料加工のなかでレーザ穴あけの用途は約5%を占めている(1)。レーザ穴あけはレーザ光源(サーマル穴あけとアブレーション穴あけ)、ビーム操作、ビーム伝送、加工材料の取扱いなどに関係する加工技術の改善によって生産性が向上し、レーザ加工は全体としての高い効率と生産性が得られるようになった。
通し穴の用途には、ジェットまたはガスタービンの冷却穴、動力伝達機構の油穴、さらにはインジェクションノズル、空気ベアリング、シャワーヘッドなどの穴加工、さらにはフィルタの穴、こし器、パワートレインのセパレータ、食品(または非食品)のケミカルエンジニアリング、鋳物の通気穴なども含まれる。
めくら穴は手術針あるいは脆性材料に亀裂を入れたり割断したりするための最初の工程であるスクライビング加工の際に使われるが、ロッド、ベアリング、セラミックやサファイア基板などの標準的な接続加工法としても使われている。その他の用途には、表面の潤滑や医療インプラントの薬物貯蔵槽、急増している結晶太陽電池や半導体の接続用途の市場などが含まれる。
本稿は0.01 〜 1.5mm の直径と1 〜30 のアスペクト比(深さ/ 直系)をもつ通し穴に重点をおいて述べる。これらの通し穴は用途に応じて円柱から円錐、スロットあるいは複雑形状の穴までのさまざまな幾何学形状が必要になる。
図1(a)は加工材料当たりに必要な穴数に対して、代表的な用途の標準的な円形形状と公差を示している。図1(b)は固体レーザにより実現できる生産性に対して、これらの円柱形状と公差を示している。これらの図はレーザ穴あけ加工品質の調査結果にもとづいている。熱影響層(HAZ)、再凝固、マイクロクラック、粗面化、バリ発生などの特定の副作用は穴あけ加工法と製造方法に依存する。レーザ穴あけは、これらの副作用を最小に抑え、ユーザの要求を満たし、放電加工(EDM)のような他の穴あけ技術と競合しなければならない。
今日の主要な課題は、副作用の発生を減らしながら、より厳しい幾何学形状の公差と高い生産性との組合せを実現することにある。図1(a)と図1(b)は、このために必要となる技術と戦略の一部を示している。これらの図から、加工材料当たりの穴数が少なく穴あけ時間が短い用途では、送りと位置決めがシステム工学としての挑戦になることが分かる。一方で、加工材料当たり数百から数千の穴を高いアスペクト比で加工する時間のかかる穴あけでは、高効率の穴あけ戦略が必要になる。
産業用レーザ穴あけには、単一パルス穴あけ、パーカッション穴あけ、トレパニング穴あけ、螺旋穴あけなどの方式がある。レーザはマイクロ秒(熱パルス)からピコ秒(非熱パルス)の継続時間をもつパルス固体レーザおよび変調またはパルスファイバレーザが使用される(2)。一般に、品質の要求レベルが低くアスペクト比の高い穴あけには熱パルスが使われる。このようなパルスを発振するランプ励起レーザは5kHz以下のパルス繰返し速度をもつ場合が多い。高品質の穴あけには100kHz 以上の繰返し速度をもつ短パルスが使われる。
高速の精密回転光学系や薄膜材料(< 1mm)のガルバノメータなどの光ビーム操作技術の進歩とともに、高輝度半導体励起のCWモード固体レーザやファイバレーザを使う高速の多層「等高線上」トレパニング技術が登場している(3)。しかし本稿では、このような遠隔トレパニング方式について詳しく述べることはしない。
すべての熱的穴あけ加工の生産性は、品質、とくに再凝固やマイクロクラックなどの熱的副作用との妥協になる。穴あけ効率と穴品質に及ぼすパルス形状とパル変調の影響が詳しく検討され(4)、熱的穴あけにおける改善の可能性が明らかにされている。
単一パルス穴あけ
0.015 〜 1.2mm の直径をもつ穴あけは、ビーム品質M2=3〜60の産業用のランプ励起Nd:YAG固体レーザを使用して行われる。図2はこのような加工の作業範囲をアスペクト比と穴径を関数にした生産性で定性的に示している。アスペクト比は約10 になることが分かる。高い平均出力のレーザによる生産性の限界は利用可能なパルスの繰返し速度から決まる。
図2(a)は0.05mmの直径をもつ最大1200個の穴を必要とする0.05mm厚のステンレス鋼の自動車用フィルタを示している。これらの穴あけは2秒(s)以内に行われる。このような高い生産性を必要とする穴あけは、高速回転軸やその他の方法(例えばバッキング)を用いて、再現性のある穴出口の幾何学形状を実現し、バリ発生を防止することが必要条件になる。図2(b)は毎秒30穴の加工速度で穴あけした0.25mm厚(アスペクト比2.5)ステンレス鋼のコーヒーマシンの部品を示している。図2(c)は500W(パルス出力30kW)レーザを使用し、毎秒30穴の速度で加工した直径0.7mm の穴をもつピストンリングを示している。これらの公差は5 〜 10%の範囲に収められている。
レーザ穴あけは円形の穴ばかりでなく、レーザビームの光路に適切な光学部品を配置すれば、その他の形状も加工できる。このような用途の多くでは圧縮空気(<6bar)の加工ガスを使用する。深さ0.5mm以下、直径0.04mm以下の穴の場合は、5kHzまでの周波数のランプ励起システムが使われる。より高い周波数は変調CW 方式のファイバレーザやディスクレーザから得ることができる。再現性はパルス周波数(変調)と「オンザフライ」速度のいずれかが制約要因になる。これらの要因は形状が卵形になる限界以下に抑える必要がある(5)。
パーカッション穴あけ
図3に示すように、加工する穴は二つの状態、つまり少数のパルスしか必要としない小さなアスペクト比の穴(>1穴/秒)と深い穴とに大別される。例えば、タービンブレードでは多数のパルスと1秒以上の加工時間が必要になる。この場合は標準の「ストップ・アンド・ゴー」方式のコンピュータ数値制御( CNC )やロボットによる加工が適している。多くの場合、深い穴のパーカッション穴あけからは、材料に依存するが、深刻な再凝固が発生する場合が多い。再凝固を直径の20%以下に抑えるには、トレパニングが適切な選択肢になる。生産性が1穴/s より高い場合は「オンザフライ」パーカッション穴あけを利用できる。つまり、CNCまたはロボットが絶え間なく動き、それぞれのサイクル毎に1パルスだけが穴の位置に配送され、サイクル数は一つの穴の完成に必要なパーカッションパルス数に依存する。このような加工は図3(b)に示すような燃焼器を用いて行われる。パーカッション方式は熱がサイクル中に失われるため、その穴あけ効率は10%ほど低くなることが実験により分かっている。静止状態の「ストップ・アンド・ゴー」パーカッション方式は、熱伝導損失を補償する熱が累積されるため、穴の温度が高くなる。したがって、作業者は最高の効率が得られるように方式を選択すればよい。
図3(a)のように、タービンの羽根にあるような、大きなアスペクト比(>10)の少数の穴(<1.2mm)を持つ部品は、固定式パーカッションまたはトレパニングモードによる穴あけ加工が行われる。一方、図3(b)の燃焼器のような小さいアスペクト比(< 4 )の数千の穴をもつ部品は、「オンザフライ」方式を用いることで最高の穴あけ効率が得られる。図3(c)はパーカッション方式で穴あけした食品加工用の超硬合金肉挽き機の部品を示している。この部品はソーセージの風味が穴径の影響を受けると言われているイタリアのモルタデラ地方において使用されている。
直径<0.2mm、アスペクト比<10の穴の場合は、ナノ秒またはピコ秒レーザパルスによる非熱パーカッション(アブレーション)穴あけを行うと、加工品質が向上し、熱的副作用が減少する。このような場合、これらの産業用レーザは平均パワーが限定され、満足な加工時間が得られない。ナノ秒レーザは空気ベアリング、スロットル、結晶質太陽電池の接点穴などの加工に適している。
複雑形状の穴あけ
複雑な形状をもつ穴の利用が拡大している。ノズルのような穴はCNCまたはフレキシブル光学加工ヘッドを使用して貫通円錐状の穴の加工が行われている。タービンの冷却穴などの場合は出口を漏斗状にして、その冷却効率が同じ空気流を用いた円筒状の穴よりも良くなる加工をしている。簡単な円錐形状はミリ秒パルスレーザを用いることで加工できるが、より複雑な形状の場合はナノ秒アブレーションレーザを用いて加工する(6)。
螺旋穴あけ
円筒状と円錐状の螺旋穴の加工は2%未満の幾何学公差が必要になり、燃料注入ノズルなどの場合は再凝固やHAZのような熱的副作用が許されない。M2 > 1.5 のナノ秒パルスレーザと精密螺旋穴あけ光学系とを組合せた場合でも、レーザビームの回転が加わることで、現在の最終ユーザには許容されない熱的副作用が発生する(7)。そのため、ピコ秒レーザの適性を改良し、加工性能を改善するための取組みが行われているが(8)、その技術と加工は依然として産業用途に使える状態には達していない。
まとめ
ランプ励起固体レーザ、変調CWディスクレーザ、ファイバレーザなどの限られた方法による単一パルスおよびパーカッション穴あけは、加工品質と生産性の改善が実現された。しかし、新しい材料と熱的保護コーティングの開発が行われているタービン市場では、さらなる改善が必要になっている。この場合の選択肢はパルス成形やハイブリッド技術になると考えられる。高輝度レーザはガスなし遠隔のトレパニング穴あけ加工の分野にニッチ市場を期待できる。小さくて膨大な数量の穴あけでは、高ダイナミック精密ビーム操作技術を組合せた高出力ピコ秒パルスレーザビームに将来性があり、高い生産性と無視できるほど小さな熱的副作用を期待できるが、産業用途に使うにはさらなる改良が必要になる。