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複数のレーザ装置導入で生産体制を強化
ジャクソン・ヒレンブランド
自動レーザの導入によって、コーラー・パワー・システムズ社は完全な環境管理を実現している。
米コーラー・パワー・システムズ社(Kohler Power Systems)が電源および発電機事業に参入したのは、今から約90年前となる第1次世界大戦直後のことである。同社はこの事業における需要の伸びを確信し、1920 年にコーラー・オートマチック・パワー・アンド・ライトを設立した。同社の電源設計は、
他のいかなる電源供給ユニットとも異なる新たな設計を採用しており、110Vの電力を送電線から直接出力できるほか、電力需要に応じて自動的に装置の電源のオン/オフを行うことができた。当時一般的だった発電機の発電量はわずか32V で、発電機の駆動には電池を用いていた。
コーラー社の発電機は、その簡易性と高い信頼性によって、従来の送電線以外の発電装置として商業用途や工業用途で人気を博した。例えば、1920年代および1930年代にリチャード・バード少将が行った南極探検のほか、第2次世界大戦時には米軍で活用された。革新的な発電機の成功により、コーラ
ー社は発電機業界のリーダーとなった。同社はディーゼル発電機の登場に伴ってより強力な発電機を開発し、1950 年代と1960 年代にもさらなる成長を遂げた。一方、病院や政府系施設、工場などではバックアップ電源への需要が高まっていた。当時、バックアップ電源といった補助電源に関しては世
間の認識が低かったため、同社の試みは非常に革新的であった。
コーラー社の現在
現在、コーラー社は海洋や住居、商業、工業、非常時向けのほか、データのバックアップ、移動車両市場といったさまざまな分野に向けて発電機を供給している。同社では現在、5kW 〜2.8MW までの発電量にそれぞれ対応する発電機をそろえている。
コーラー社の製造拠点は米国ウィスコンシン州のシボイガンに程近いモーゼルという街にある。33万平方フィートの工場は、1日につき3シフト制で稼働する。この拠点では、生産を手掛けるほかに、技術部門やマーケティング部門、営業部門といった機能も備えている。同社の金属加工センターの電気
セル部門でマネジャーを務めるビル・ハンマン氏は、同社の革新的で活気あるスピリットを支え続けてきた技術者の1人だ。高まり続ける発電機への需要に対して真摯に取組んできた。自社の成功に向け、ハンマン氏と彼の技術チームは、製品のリードタイムやアウトソーシング、製品関連コストに関して、
長期的な視点に立つことが求められた。
発電機製品における最も大きな課題は、「スキッド」と呼ばれる発電機のフレームである(図1 )。ハンマン氏によると、コーラー社では年間4000台以上のスキッドを生産する。このスキッドの生産管理をより徹底し、生産性の向上と生産プロセスの改善を実現することが同社とハンマン氏の命題であった。
生産自動化への移行
コーラー社は、従来の生産方法から、自動レーザセルを使った生産方法へと移行させることで生産管理を強化した。採用した自動レーザセルはアマダ・アメリカ社(Amada America)製である。コーラー社では、この自動レーザセルを採用する以前は他の発電機メーカーと同様の生産方法を採っていた。
つまり、スピードが遅く、古い技術を使ったスタンドアロン型の生産方法である。旧来の生産方法では、部品は一つの作業台から、待機ストレージ領域である「WIP(Work-In-Progress)」に入り、そして次の工程へと移動し、最終的にはWIP へと戻る。同社が高い生産性を実現するためには、二つの大
きな課題に直面していた。それは製造装置の活用とスループットの向上である。
同社はレーザ技術に関して知見が無かったわけではない。実装部門では、旧式のスタンドアロン型レーザ装置が2台稼働していた。さらに、シアー部(せん断部)へのブランキング(帰線消去)とスタンドアロン型のタレットパンチプレスも2 台使用していた。ハンマン氏によると、同社では1 回のシフトに
つき1 人の技術者が、2 台のレーザ装置を操作していたという。タレットパンチプレスが3 シフト稼働する一方、シアー部は手動で1 シフト稼働していた。 この生産プロセスでは、垂直の架台ユニットから材料と部品を継続的に出し入れするための材料管理者のほか、2 次金属仕上げを手掛ける複数の
人員も必要だった。
コーラー社では、0.25 インチから18ゲージといった寸法で、さまざまな種類の材料加工を手掛けていた。発電機用スキッドは主に7 ゲージと10 ゲージで製造された。典型的な部品は、ブランキングから、曲げ、溶接、そして液体/ 粉体塗装という生産プロセスを経る。同社の課題は、年産4000 台以上
のスキッドを生産するためにこれらの生産プロセスをいかに効率化するか、そして現行の自社生産設備でいかに対応するかということにあった。
そして同社は、アマダ製の完全自動式の3台のレーザ装置を導入した。このシステムは、原材料用タワーを1 台備えている。しかし、新たなシステムの導入を決定した後も、二つの課題が残っていた。一つは、この新しいシステムを現行工場のフロア・レイアウトにどうやって合わせ込むかということ
である。これについてハンマン氏は、アマダ製システムの簡易さを実現している柔軟性とモジュール性に着目した。二つ目の課題は、工場において進行中の生産を阻害することなくいかに新しいシステムを導入するかということだった。
2007 年5 月、同社はFO3015NT レーザ装置を初めて導入した(図2 )。さらに同年6 月にはこれまで使用していた旧式のスタンドアロン型レーザ装置を撤去し、2 台目のFO3015NT を追加した。翌月にはもう1 台の旧式レーザ装置もFO3015NT に置き換えた。自動システムを取り入れたことで、同
社では一つのレーザセルの中で3 台のレーザ装置を一つに組合せることが可能になった。そして2007 年9 月、同社の一貫生産ラインが完成した。生産システムの移行について、ハンマン氏は「とてもスムースに実現できた」と語っている。
生産性が向上
ハンマン氏によると、新たなレーザ装置を導入した結果はほどなく現れた。コーラー社が掲げていた、すべてのスキッドを生産するという第一の目標は達成された。さらに、自動化によって装置の利用効率が高まったほか、タレットパンチプレスを使った場合には5 日だったリードタイムは2 日に減
少した。WIPで待機する部品の増加量は実質的に無くなった。コーラー社は、原材料の保管とWIP 向けに使用していた垂直架台ユニットのうち20 〜 30セクションを廃止することに成功した。現在は、3 台のレーザ装置に供給するための原材料の保管を、この新しいシステムの一部である、一つの原材
料タワーでまかなっている。完成部品はタワーには戻らずに、レーザ工程から次の工程に搬送する移動コンベアへと迅速に送られる。
レーザ加工を施した製品は、新システムが稼働し始めてから短期間で3 倍に増加したとハンマン氏は述べる。さらに驚いたことに、コーラー社は従来使用していた2台の旧式独立型レーザ装置を取り除いただけでなく、タレットパンチプレスとシアー部のブランキングも廃止し、新しいレーザセルを使
ったシステムにこれらすべての工程を集約したのである。部品はすべて、新たに導入した50 トンのパンチ・レーザ複合装置での加工に移行した。エッジの品質は非の打ち所がなく、従って、部品はレーザ工程からプレス・ブレーキへと滞ることなく流れた。ハンマン氏によると、従来の工程ではレーザセル
とパンチ・レーザ複合機を含めて、1シフトを完了するまでに5 人の人員を必要としていた。ハンマン氏は、新たなシステムの導入によって、2 人の人員で1 シフトを完了することが可能になったと強調する。付加工程や原材料の管理者、2次仕上げ用の人員を無くすことで、コーラー社は、生産量と品質
の向上、リードタイムの削減という最終目標を実現した。このため、熟練した技術要員を工場内で再配置することも可能になった。
しかし、コーラー社とハンマン氏はこの結果に満足せず、市場の需要に対応するべく自社の生産プロセスのさらなる改善を目指している。同社は製造装置向けの大規模プログラムを自動化するため、自社拠点の生産プロセスに新たなシステムを導入中である。新システムはレーザセルの利用にわずかな
障害も生じることなく、今や自動的に生産プロセスに組み込まれている。
アマダのレーザセルという一貫生産技術は、コーラー社にとって発電機の生産環境と同社自身の成長の強力な支えとなっている。コーラー社は目下、新たな市場に向けた発電機と、より高容量の発電が可能な新製品の開発を計画中である。