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金属を装飾するカラーレーザマーキング

ジャック・ガブズディル

製品の差別化を追及し、消費者のカスタマイズ嗜好に対応することで、カラーレーザマーキングの新しいアプリケーションが成功を収める。

 レーザマーキングは急速にマーキング技術の主流となり、考えられるほとんど全ての製品に対して応用を見出している。例えば、携帯電話、ペン、鍵束など、ポケットに入っているもののほとんどはレーザでマーキングされている。シャツのボタンも同様だ。しかし、これらの製品の多くは単色でマーキングされ、機能的には満たされているが、審美的なアピールには欠ける。つまり着色されていない。
 レーザで金属をカラーマーキングするコンセプトは新しいものではない。Industrial Laser Solution誌の1999年1 月号の表紙には、金属製品や宝石を審美的に加工するさまざまな技術を確立したアン・マリー・キャリー氏によってレーザカラーマーキングされたニオブ合金の皿の美しい写真が掲載された(図1)。それ以降、製品を装飾する応用への関心は次第に高くなっている。コンシューマプロダクトのメーカーは、自社の製品が目立つようなマーキング技術を探している。そこではカラーが差別化の重要な鍵になる。
 金属上にカラー層を形成する従来の方法は、さまざまなカラーの酸化物層を注意深く制御して化学的発色を行なう陽極酸化法に基づいている。この酸化物層は干渉膜として作用する光学被膜になる。この被膜を眺めると、酸化物層の厚みに依存した色が現われる。他方、酸化物にレーザの局所エネルギーを注意深く照射すると、その制御された成長が起こり、陽極酸化と同様の原理によるカラーマーキングが可能になる。異なる角度から眺めると、そのわずかな角度変化によってさまざまな色が現われる。
 表面のモルホロジーが色に影響を与える場合もある。目に見える色はマーキング工程から生じる表面粗さと残留線の影響を受ける。残留線が非常に精密な間隔で形成されると、ブレーズ格子の効果が現われる。この効果は残留線に対して垂直の方向から眺める場合に明瞭となり、試料を傾けるとレインボー効果が生じる。残留線と平行の方向から眺めると、このような色の変化は現われない。同様の回折格子効果は間隔が狭い点を用いたときにも発生し、この場合の効果は直交した二つの方向に現われる。
 このような発色を実現するには、熱入力の精密制御が必須になる。このような応用ではNd:YAG およびNd:YVO4レーザの1.06μmの基本波長とその第2、第3 および第4 高調波が使用されてきた。最適なマーキングを実現するには、広い範囲の周波数、速度およびパワーレベルで動作するレーザの使用が必須になる。
 最近のファイバレーザの製品化によって、レーザマーキングの応用には新しい市場が生まれた。英SPIレーザーズ社の直接変調パルスファイバレーザは、金属上にカラーマーキングを行なうための汎用装置になったと考えられる。このレーザはCWから500kHzまでのパルス周波数で動作する。この広いパルス周波数をもつファイバレーザは、従来のQスイッチパルスレーザよりもはるかに高い柔軟性と従来の能力を上回る機能を得ることができる(図2)。このレーザの広範囲のパルス周波数、パルスエネルギーおよびピークパルスパワーの組合せと、平均パワー、移動速度、焦点位置、重なり軌跡などの特性は、カラーマーキング工程を最適化して制御するための大きな利点になる。
 カラーマーキングに使用できる材料にはステンレス鋼やチタン、クロム、ニオブなどの金属板が含まれる。材料の品質と表面仕上げは材料の厚みと同様に、マーキング工程に対して大きな影響を及ぼす。ブラシ仕上げされた表面は、表面粗さの山/谷の深さが酸化物に形成される深さよりも大きいため、安定した色のマーキングが難しくなる。研磨された表面ははるかに安定したカラーマーキングを行なうことができる。
 カラーマーキング工程は熱誘起に基づくため、材料の厚みも工程に大きな影響をもたらす。肉厚の材料は熱がバルクの深さ方向に移動する固有の能力を備えているが、薄い材料はさまざまな熱影響を受ける。熱が蓄積されることによって、製品には歪が生じ、色の変化が進む。薄い材料で最適の結果を得るには、熱入力と熱移動を注意深く制御しなければならない。
 この分野の初期の加工材料はマーキングが比較的容易で鮮やかに発色するチタンであった。しかし、コンシューマ市場でチタンが使われるのは宝石や高級時計などに限られ、この分野でのレーザマーキングの利用はかなり限定される。ステンレス鋼は携帯電話、カメラ、個人用音楽プレーヤーなど、より多くの製品に使われている。高い繰返し速度のファイバレーザを使うことで、ステンレス鋼の表面に多色のカラーパレットが形成できるようになった(図3 )。これにより、贈答品にロゴを入れて付加価値をつけたり、より多くの製品に特注マーキングを施すことが可能になる。大型の構造物の用途では装飾された標識を作製することができる(図4 )。
 カラーマーキングはクロムの金属板にも使えることが明らかになり、現在ではいくつかのツールがマーキングされている。しかし、低いパルス周波数の場合に作成できるカラーパレットは、淡黄色と金色に限られる。周波数を250kHz 以上に高くすると、さまざまな色が得られるようになり、商品への利用が可能になる。カラーマーキングが高い機能性を発揮するアプリケーションは、例えば浴室に使われる給水金具だ。この場合は温水と冷水を示す審美性と機能性の両方を備えた製品が必要になる。現在、これは単色マーキングまたは着色プラスチックの挿入によって行なわれているが、レーザカラーマーキングも十分に応用できる。
 このようなアプリケーションに使われるレーザは、最大のレーザパワーにおいて非常に高い繰返し周波数を得られることが重要になる。Q スイッチングをしないということは、つまりQ スイッチの限界がないということだ。ファイバレーザおよび半導体レーザ励起による直接変調方式の独自の構成からは、500kHz の繰返し周波数を維持しながら、最大で20W の平均レーザパワーを確保できる。つまり競合するレーザ方式の場合に起こりえるデッドゾーンが生じない。500kHz であっても40 μ J のレーザ出力が得られるが、このことは非常の低いパルスエネルギーと非常に高いスポット重なりを必要とするカラーマーキングにとって直接的な利点となり、基板のそれぞれの場所での多重温度マーキングが可能になる。その結果、レーザカラーマーキングに必要な広い範囲の光学と表面化学の効果がもたらされ、表面酸化物の増加と改質が行なわれる。
 かなり広く使われている産業用のマーキング用レーザの場合を考えてみよう。このようなレーザは焦点距離163mm の通常のレンズを使用して、レーザビームを3.7倍と、それほど大きくない直径へと拡大する。3.1mmの直径と1.8のビーム品質M2 をもつビームからは、レーザマーキングに適した30μmのスポットサイズが得られる。表面を加熱して着色効果の発生に十分に高い温度を得ようとすると、一般に<100μJの低いパルスエネルギーと>90%のスポット重なりが必要になる。SPIレーザーズ社の直接変調MOPA レーザは80μJ の特性を250kHz の繰返し速度で得ることができる。
 もう一つの応用は、濃淡の褐色が好まれるステンレス鋼に適したグレースケールのマーキングだ。カラーマーキングの代替としてのグレースケールマーキングを特定の条件下で行なうには、表面の酸化物レベルを制御して、褐色と金色の広い範囲の濃淡を生成する必要がある(図5 )。これは多くの用途においてはさほど大きな問題とはならないが、過酷な環境あるいは消毒を必要とするような環境での応用では、腐食に対するマーキングの耐性を評価する必要がある。

図1 金属と宝石を装飾するさまざまな技術を確立したアン・マリー・キャリー氏が初めてカラーマーキングしたニオブ合金の皿を示している。

図2 SPI レーザーズ社の直接変調ファイバレーザは金属上にカラーマーキングを行なう汎用の装置になったと考えられる。

図3 高い繰返し速度のファイバレーザを使用して、鮮やかなカラーパレットがステンレス鋼の表面に実現された。

図4 ステンレス鋼の表面に装飾カラー標識がマーキングされた。

図5 表面の酸化物レベルを制御することで、広い濃淡をもつ褐色が鮮やかにマーキングされている。

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