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整形外科用パーツの開発を加速する
デイビッド・ベルフォルテ
新しい技術によって、インプラントの試作品と、それを患者の体内に設置するために外科医が使用する器具の試作品が作られている。 もともとデピュー・マニュファクチャリング社として米国インディアナ州ワーソーに1895年に設立されたデピュー・スパイン社(DePuy Spine)は、骨折部位の固定に使用するファイバスプリントの最初の商用メーカーである。1993 年、デピュー社と独ビーデルマン・モテック社(Biedermann Motech)は脊椎インプラントの開発、製造、販売を担当するデピュー・モテック社を共同で設立した。この会社は1998年にクリーブランドを本拠地とするアクロメッド社(AcroMed)を買収し、脊椎デバイスでは業界2番手の会社になった。同年、米ジョンソン・エンド・ジョンソン社(Johnson & Johnson)によって買収され、1999年にはマサチューセッツ州のレインハムに移転し、今日に至っている。
この会社の革新的な製品は、変性疾患による奇形、精神的外傷、スポーツでの負傷など、様々な症状に苦しむ患者の外科的または非外科的治療用として整形外科医や脊椎外科医によって使用されている。同社が開発、製造した製品には、腰椎疾患用のロッド、スクリュー、フックなどのシステムと頚部ならびに脊椎安定化システムがある。
インプラントの試作品と器具の平均リードタイムは一般に6〜8週であり、製品コストは非常に高くなりがちだ。納品時に各項目が意図通りに機能する保証はなく、開発途中で変更が必要になることも多い。配送にも時間がかかるため、外科医チームの期限に間に合うように計画を立てるのは容易ではない。
ラピッドプロトタイピング
スタッフチームリーダーのピーター・オスティガイ氏(Peter Ostiguy)はデピュー・スパイン社でラピッドプロトタイピング(迅速試作)の操作を担当している。四つの装置で構成され、その中の二つはレーザを利用した装置であり、金属粉末用と高分子材料用とがある。他の二つは、UV光カット高分子材料を使うインクジェットマシンである。これらのユニットにおいて、新しいインプラントの試作品とそれらを患者の体内に設置するために外科医が使用する器具の試作品が製造される。試作品が承認されると、これらのモデルはソフトウエア化され、最終製品を生産する機械工場へとダウンロードされる。生産技術が最重要になってきた現在では、このラピッドプロトタイピングという言葉はラピッドマニュファクチャリング(迅速製造)という言葉に置き換わりつつある。デピュー・スパイン社におけるラピッドプロトタイピングとは、最終的に汎用加工機械で製造される試作品の大部分をこの会社のプロトタイピング設備で実施するプロセスのことだ。これまでのところ、インプラントもその器具も手術室の舞台では使われてはいない。しかし、オスティガイ氏によれば、外科医やエンジニアが具体的な計画を立てるために使用する脊椎インプラントと器具の試作品パーツは別であり、これらはすでに利用されている。
さらなる展開
デピュー・スパイン社は15年間ラピッドプロトタイピングを実施してきた。1992年に、3次元(3D)CADモデル、鋳造用のワックスパターン、ソフトツールなどを作成するために立体リソグラフィを導入した。2001年には、同社は、製品を組立て、材料の変換や修飾を実行できる高速インクジェット技術を利用する最初のプロトタイピングシステムとしてObjetユニットを発表している。
デピュー社はプロジェクトチームと会社所属の設計外科医が評価するための多数のプラスチック試作品を製造し、この技術がビジネスに与えるインパクトを同社自身で実証してきた。新しいラピッドプロトタイピング技術に対する関心は、医用部品に使用する金属材料を開発する会社の出現によって大いに高まった。
デピュー社は、サンプルをコバルトクロム(CoCr)で製造することに成功した後、17-4ステンレス鋼パーツを加工する機能をもつ直接金属レーザ焼結(DMLS)マシンを提供する独エレクトロ・オプティカル・システム社(eos)と連絡をとった。2007年2月に、デピュー社はeos M270金属粉末ユニットを導入し、約20のプロジェクトにおいて1日に1300個を超える部品生産に使用している。
eos システムでは、.STLファイルがCADによって生成されるため、製図は一切不要だ。この.STLファイルに従って作業台が準備され、20μmの厚さで分散する17-4ステンレス鋼粉末が作業台上に堆積される。レーザビームによる粉末の焼結が終わると、作業台は下げられる。この連続サイクルによって最終金属部品が製造される。
初期の成功例は開発中の器具であった。オスティガイ氏はいくつかの金属サンプルを模索していた。これらを製造するための見積りは5000ドルで、納期は6〜10週間であった。しかし、オスティガイ氏はeosマシンを使うことによって、1週間少々の納期とわずかなコストで実用試作品を作り上げ、続いて、試作品の売り手が最初に設定した納期よりも短い期間で2回以上繰返し作製することにも成功した。
オスティガイ氏のチームは、生産開始時にもロバストな設計であることを完全に確信できるよう、効率的に改造する能力を持ち合わせていた。これらの器具サンプルは、タイムリーな方法で外科医からのフィードバックを得るためにも非常に重要であったが、実際に外科トレーニングセッションでも有効利用された。
この初期の成功から後戻りすることは決してなかった。成功要因の一つは、組立後に部品を取り外し洗浄する技術に優れたスタッフたちの存在であった。組立てに成功したときの経験を用いて、彼らは、DMLSマシンでのサンプルの構築と続くいくつかの後機械加工を結合させた。こうして、この会社は「金属モデルの構築」から出発することができた。初期の試作品においてこれまでに行なってきた完全に詳細な図面の作成はもはや不要になった。
デピュー社はこの先どこに向かうのか。近い将来、熱処理可能なステンレス鋼材料が開発され、多数の新しい道が開かれると期待している。オスティガイ氏によれば、「この技術によって、部品設計法の基礎が一変した。これまでは“製造可能性に合せた設計”であったが、いまや“機能性のための設計”が可能だ。幾何学的な制約も緩和された」という。