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プラスチックのレーザマーキング

スコット・R ・サブリーン

トータルなソリューションがシックスシグマの製造結果を可能にする。

 最新世代のプラスチック材料科学とレーザシステムを基盤に、従来のインク印刷に代わって、消えないレーザマーキングへの需要が産業界で拡大している。プラスチックへのレーザによるダイレクトマーキングは非接触デジタルプロセスのため、多くの産業アプリケーションに計り知れない利益をもたらす。しかし、ロバストなプラスチックレーザマーキングを実施するためには、ポリマ樹脂の選択や化学的調製からシステムインテグレーションに至る広範なエンジニアリング領域の専門知識、すなわち、材料科学と化学、最初の成形作業、レーザ技術、システムインテグレーションを含むトータルソリューションが不可欠だ。
 近赤外(NIR)の1064nmで動作するビーム操舵Nd:YAGレーザ(アークランプまたは半導体励起)は、その発振波長、パワー性能、汎用性によって、レーザマーキング業界で広く利用されている。Nd:YAGレーザを使えば、高いマーキング速度、高いマーキング品質、一層の量産が可能だ。特定のアプリケーションとプラスチック樹脂調製では、バナデイトレーザやファイバレーザでも許容範囲の結果が得られる。しかし、多様なプラスチックマーキングを可能にする汎用性の点で、これらのレーザはNd:YAGレーザには及ばない。ちなみに連続波(CW)CO2レーザは10.6μm(遠赤外)の波長で動作するが、ピーク出力がかなり低く、多くのプラスチックへの高コントラストマーキングは不可能に近い。
 ビーム操舵レーザマーキングの基本的なメカニズムは、1060〜1070nmの波長を使って高エネルギーのレーザ光をポリマに照射することだ。放射エネルギーは材料によって局所的に吸収され、熱エネルギーへと変換される。この熱エネルギーが材料基質内の反応を次々に誘起する。NIR波長域を利用することによって、炭化、アブレーション、化学変化を含むいくつかのタイプの反応が可能になる。どの程度のマーキングコントラスト結果を所望するかによるが、希望するタイプの反応を得るためにさまざまに異なる化学およびレーザ装置パラメータを選ぶことができる。

材料科学と化学

 マーキングするプラスチックのタイプとコントラストや鮮明/微細などのライン品質に対する最終利用要件にもよるが、最適化されたレーザ方式が常に必要であるとは限らない。場合によっては、波長とレーザのタイプを適切に選択するだけで所望のマーキング品質を達成できる。その結果は、ポリマ樹脂固有のグレードと性質、着色剤や充填剤の成分、レーザのタイプ(波長、ビーム品質、出力モード、光学配置、パワー密度、ピーク/平均パワー、マーキング速度など)、基材の光沢と表面テクスチャ、リグラインド含有量などの因子によって決まる。同じ属性群であってもスチレニクス(Styrenics)などの特定の合成樹脂グレードは劇的に異なる結果をもたらすことがある。
 他方、レーザ添加剤を添加するか否かを検討する際に見落としがちなメリットは、最適化されたレーザ方式が、装飾性あるいは機能性マーキングのコントラストや品質ではなく、マーキング速度を高めることだ。レーザ添加剤の採用は、ほぼ常にマーキングサイクル時間の短縮と使用されるレーザパワーの低減を可能にする。これらの因子はコスト削減と生産性向上を意味する。
 プラスチックレーザマーキングに最適な材料科学の化学調製を達成するためには、ポリマ、ポリマ群内の性質グレード、着色剤、溶解度に相対的な顔料と染料、粒度、しきい値凝縮限界、レーザ添加剤による色整合、および規制認証(GRAS, FDA Direct/Indirect Food Contact)に関する専門知識が必要だ。材料科学の解決ソリューションは、費用効率が高く、使いやすく、ポリマの物理的化学的性質に悪影響があってはならない。例えば、雲母や他の添加剤(酸化アンチモン、銅のリン酸塩や硫酸塩のような金属塩、黒色顔料)は、樹脂のレーザマーキングのコントラストを高めるために利用されるが、これらの添加剤は長期的な機械的性質や基質樹脂との色整合を損ないがちである(1)。
 炭化反応は、吸収されたエネルギーによって吸収サイト周辺の材料の局所的温度がポリマの熱劣化温度以上に達した時に起きる。酸素が存在するとポリマは燃焼してしまうが、加工中の製品に供給する酸素の量を制限すれば、ポリマを炭化させ、黒色マークを形成できる。マークの暗さの程度は、材料の熱劣化経路と吸収されたエネルギーに依存する(図1)。
 アブレーションは、ポリマが劣化と劣化の副産物である蒸発を起こす温度まで加熱された時に起こり、エッチングされた領域が形成される。このタイプのマーキングは、通常コントラストが低いか、そもそも存在しない。
 劣化によって蒸気を放出する添加剤を使用すると、その化学変化によって、ポリマ内に気泡が発生する。発泡過程で、レーザエネルギーは発泡剤に近接する添加剤によって吸収される。この吸収体からの熱が発泡剤を分解して蒸気を放出させる。発泡剤の例としては、水酸化アルミニウムや様々な炭酸塩がある。この機構では、ポリマの炭化を防ぐために、発泡添加剤の分解温度よりも高い温度で初めて分解するポリマが必要になる(図2)。レーザ動作パラメータの厳密な制御によって、高品質で耐久性に優れた明るいマークを暗色の基材上に形成できる。貧弱なレーザ制御では、脆く低いコントラストのマークしか形成できず、それらは容易に傷ついてしまう(低耐久性)。
 さらに、別のレーザマーキング法では、NIRレーザエネルギーを使って着色剤混合物中の一つの着色剤を加熱、分解して、色の変化を誘起する。その一例はカーボンブラックと安定な無機着色剤の混合物である。加熱すると、カーボンブラックが除去され、無機着色剤が後に残る。これらの混合着色剤系は、特定の着色剤の安定性に依存し、あらゆる色変化が可能なわけではない(2)(図3)。
 材料科学の化学開発のフェーズが完了したら、光学、ビームモード、コリメーション、パワー要求、パルス繰返し周波数、速度などのレーザパラメータを精密に決定する必要があり、これによってレーザ装置の的確な仕様設定が可能になる。

最初の成形作業

 次のフェーズは、実際の生産用金型と、「レーザ最適化」プラスチック樹脂とカラーコンセントレート、プレカラーまたは液状カラーとの適切な降下比を使って成形を試みることだ。この工程は、各成形または射出パーツ内の最適色マトリックスの均一な分散と分布を保証するために重要である(図4)。
 成形後、初期調製結果を確認するために、製造部品にレーザマーキングを行なう。一つの技法として、製品の表面全体をレーザが連続的にマーク(スキャン)するようにプログラムを組む方法がある。射出成形したコンポーネントの場合、ゲートの設計とその位置が重要な因子になる。射出成形機の圧力を適切に設定することで、バラツキの問題は解決できる。最高約20%までのリグラインドを利用しても、一般にマーキングが困難にはならない。しかし、リグラインドの割合をバッチ間で一致させる必要がある。

レーザ技術

 すべてのビーム操舵レーザが同等に生成されるわけではない。レーザメーカーがその装置に組込んだハードウエアとソフトウエアのコンポーネントによって、マーキング品質、速度および汎用性に大きな差が生じる。唯一普遍的なソリューションは存在しない。各用途とも、プラスチック樹脂基板の構成や色ならびに希望するマークコントラストに対して独自性がある。
 レーザは、マルチモード(MM)、横電磁モード(TEM00)、あるいは低次モード(LOM)を含む仲介モードとしてメーカーから供給される。ビーム品質出力モードはレーザビーム内のエネルギー分布に関係し、マーキング性能に決定的な役割を果たす。これらの出力モードは、レーザビームの発散や動径パワー分布などの因子に関係する。TEM00レーザビームは集束光学系が許容する最小スポットに集光させることができ、そのエネルギー分布は中心が最も強く、中心からエッジに向かって均一に漸減する。
 TEM00レーザ出力は最高のビーム品質を提供する。マルチモードレーザ出力のビーム品質が最も低い。
 低次モードとTEM00レーザは、非常に高いパワー密度をもつ小さな集束スポットを形成する能力によって十分なエッジをもつ非常に微細な線を高速で描画できるため、英数字の一筆書き、トゥルータイプ(TrueType)フォントの塗りつぶし、複雑なグラフィックスの高速ベクトルマーキングなどに特に適している。ほぼ全てのプラスチック応用では、TEM00に近い、もしくはTEM00レーザビームの利用が最適である。
 パワー密度(単位面積あたりのレーザパワー;W/cm2)は集束レーザスポットサイズの関数であり、レーザの生の出力パワーとは異なる。任意の焦点距離のレンズとレーザ波長での集束レーザスポットサイズはレーザビームの発散の関数であり、これはレーザ配置、モード選択の開口サイズ、ビーム拡大器の倍率によって制御できる。パルス繰返し周波数(音響光学Qスイッチングによる)とピークパワー密度は、マークを形成し最適なコントラストと速度を達成するための重要なパラメータである。
 低い周波数での高ピークパワーは急速に表面温度を上昇させ、材料を蒸発させるが、基材への熱伝導は最小である。パルス繰返し周波数を増して、ピークパワーを低くすると蒸発が最小になり、熱発生が増大する。ビーム速度(ワークの表面を横切るレーザビーム速度)も重要な因子である。
 マーキング装置では、レーザ制御ソフトウエアが全てのハードウエアコンポーネントと同様に重要である。先進ソフトウエア/アルゴリズムは未曽有の速度を可能にする。ビーム操舵レーザマーカは、時折不当にも(デスクトップ)プリンタとみなされることがあるが、実のところはプロッタである。個々のピクセルを配置して英数字またはグラフィクスを生成するのではなく、レーザは、鉛筆と紙を使った描画とほぼ同様に、線を描く。レーザマーキング対象の制作に使用されたファイル形式に関係なく、すべてのマーキングは最終的に最も単純な形式、すなわち走査ヘッドで描かれレーザによってマークされるベクトル線のリストへと還元される。
 設計技師がしばしば利用する複雑な入力ファイル形式が最良のベクトルレーザマーキングを生成するとは限らない。図5 は、十分に形の整った線と鋭いエッジを実証する黒色上白色の複雑な図形のベクトルマーキング(起泡化学変化機構による)の立体顕微鏡像である。

システムインテグレーション

 トータルソリューションの最終フェーズはレーザマーキング装置と材料操作の統合であり、これはインラインQC検査と特殊照明を含む。究極のオートメーションシステム、ロボット工学、マシンビジョンなどの可能性は「オンザフライ」マーキングにおいても存在する。どのような配置のCDRH準拠のクラス1 またはクラス4 レーザであっても、安全性はANSI Z136標準に準拠しなければならない。
 消えないプラスチックレーザマーキングへの需要が延びている理由の一つは部品のトレーサビリティ、つまり製品の固有ID(UID)に対する要求が増加していることだ。米国防総省には、資産についての標準慣行としてMIL-STD-130Mがある。Micromarkingや2D Data Marixあるいはバーコードなどのマシンビジョンコードが、シリアル化、トレーサビリティ、偽造防止用にしばしばプラスチック部品にマーキングされる。
 最近の進歩の一つに丸い部品の円周に180度まで機械的回転なしでマーキングが可能な円筒レーザマーキングがある。この能力(歪み補正とも呼ばれる)は、検流計走査ヘッドとレーザ操作ソフトウエアによるものだ。すべてのレーザメーカーが新しい装置でこの技術を提供するわけではない。特定のタイプのレーザには、この特徴ある能力を後から容易に付与できる。
 大多数のアプリケーションでは、英数字、ロゴ、概略線図、マシンビジョンコードなどのマーキングは部品やコンポーネントの表面領域に限定される。ロバストなシックスシグマの製造作業は、実際のマーキング詳細のサイズと複雑さに関係なく、全レーザマーキング製品に対して人またはマシンビジョンによって100%読み取り可能であることを要求する。初期のプロジェクト開発における先を見越したトータルソリューション法は、システムインテグレーションの成功を確実にする。なぜなら、全てのアプリケーション要求を満たすため、最適化された材料科学、成形作業およびレーザ技術が、同時並行的に処理されているためだ。参考文献
(1)B. Mulholland and S. Sabreen, "Enlightened Laser Marking," Lasers & Optronics(July 1997).
(2)J. B. Carroll Jr. and S. Sabreen, "Laser Marking Additives and Technology," SPE TOPCON(2007).

図1 明色上の暗色マーキングコントラスト

図2 暗色上の明色マーキングコントラスト

図3 特別注文の金色マーキングコントラスト

図4 一番左の射出成形したペンは高コントラストの黒色上金の色度を示し、中央の二つは色度の分散分布が劣り、一番右の走査されたペンは優れた分散性能を示す。

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