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セラミック基板の加工
ブレット・ムーン、リチャード・バッド、ジャック・ガブズディル、グレゴリー・フリン
新しい技術がセラミックのスクライビング加工とマイクロ加工への近赤外ファイバレーザの利用を可能にする。
エレクトロニクス産業ではレーザ技術が30年にわたりアルミナ(Al2O3)および窒化アルミニウム(AlN)セラミック基板の加工に広く使われてきた。セラミック基板を個々の部品に分離するには、レーザを用いた一連の部分的(めくら)スクライビング(穴あけ)加工が厳しい公差で行われる。これらの穴は基板のほぼ3分の1の深さに達し、次の工程の基板破断に必要な割れ目の線になる。スクライビング以外にも、基板へのビア、スロット、位置決め機構、複雑なパターンなどの微細加工が可能になる(図1)。
ほとんどのセラミックには、その吸収特性によってCO2レーザが選択されてきた。パルスCO2レーザビームのエネルギーはセラミック表層の短い相互作用長のなかで吸収され、局所的な加熱、溶融、蒸発をもたらす。図2はアルミナにスクライビング加工した0.0045インチの穴の列と熱影響層(HAZ)を拡大して示している。このHAZは、使用する比較的長いパルス時間(厚みに依存するが約75〜300μs)をもつレーザビームのガウス分布周辺部の低いエネルギーからの部分溶融によって生じる。
ガスフローCO2レーザを1年間にわたって使用すると、そのガスとエネルギーの消費はかなりの量になり、定期的な保守も必要になる。また、この加工用途に必要なパルスパラメータからはシールドチューブ型CO2レーザは適していないことが分かる。CO2レーザの性能は過去数年間で大幅に改善されたが、その信頼性と保守作業の問題によって、現在でも代替技術が必要だと考えられている。また、保守作業の期間内に生じるビーム品質の変化も問題になる。つまり、得られる最小スポットサイズが長波長になるほど変化する。CO2レーザはセラミックのレーザビーム吸収特性のみによってセラミック加工の市場を支配してきたと言っても過言ではない。
新しいスクライビング技術
Nd:YAGレーザをセラミック加工に用いるという以前の試みは失敗に終わったが、それは1.064μmの吸収が非常に弱く、表面層に吸収されるエネルギーでは所望の効果が得られないことが原因だった。この問題に対応するために、米シンクロン・レーザ・サービス社(SynchronLaser Service)は、このような短波長でもセラミックのレーザ光吸収が増強される表面改質法を開発した。この改質法はセラミック表面のわずかな部分に迅速な浸透加工を行い、近赤外(NIR)レーザパルスのエネルギーが表面下の十分短い距離に蓄積できるようにして、加工に必要な溶融と蒸発を引き起こす。この特許出願された表面改質技術と英SPIレーザーズ社(SPILasers)のファイバレーザ技術とを組合せることで、CO2レーザをはるかに超える加工技術が実現された(図3)。
この表面加工ではセラミック表面へのファイバレーザビームの結合が増強されて穴あけが始まる。レーザパルスと材料表面との相互作用の増強されたダイナミクスと特注の高解像ビーム伝送システムとの組合せによって、表面での一定のスポットサイズが保証され、セラミック基板の非常に精密な加工が可能になる(図4)。シンクロン社は、より精密に加工できるその他いくつかのレーザ技術も検討したが、ファイバレーザによる独自技術と同等の加工速度を実現することは難しく、場合によっては10分の1以下の速度に低下してしまうことが分かった。
CO2レーザに比べると、ファイバレーザによるマイクロ加工はより良い再現性と信頼性が得られ、破断後のエッジ品質が3倍以上に改善される(図3と図4を参照)。図5は矢じり形状の切り欠きを例にして、実現できるエッジの品質を示している。重要なことは、新しい加工法を用いることで、CO2レーザでは実現できないスループット速度でこのような結果が得られることだ。
現在のスクライビング速度は0.0150インチ厚のアルミナ基板の場合に毎分1300インチを超える。この速度はCO2レーザの場合の約2倍(いずれも30%の侵入深度)になり、加工速度はほとんどの場合にCO2レーザと同等ないしはそれ以上になる。シンクロン社によれば、現在の加工スループットはレーザではなく、動き制御システムによって制約されている。
このようにして、アルミナと窒化アルミニウムの両方のセラミック加工が可能になる。アルミナの場合は、加工できる基板の厚みが約0.060インチまでに限られるが、長期的にみると、物理的損傷がより大きい用途ではさらに厚い材料の加工が必要になる。例えば、高輝度LEDの用途では厚い基板ほど放熱が大きくなる。
窒化アルミニウムのセラミックは熱伝導率が大きいので、その加工はアルミナよりも難しく、厚みに比例したパワーの増加が必要になる。しかし、加工はビームの最大強度の部分のみで行われるため、より精密な細部形状を得ることができ、材料の高い熱伝導率によって、ビームの周辺部に発生するHAZは最小になる。新しい方法を用いた初期の結果は良好で、現在はこの材料加工の細部調整が行われている。
プロセスの改善
ファイバレーザは、材料加工の用途に対してさまざまな利点をもたらす一連の独自な特徴が得られる。例えば、信頼性の高いガウスビーム分布(TEM00)は、材料表面での一定の焦点スポットサイズの実現と維持にとって極めて重要な役割を果たしている。これはファイバレーザの大きな特徴で、実現できるパルスパラメータ範囲のすべての出力パワーにわたって、きわめて優れた高品質ビームプロファイルが得られる。その結果、広い作動距離(スタンドオフ)が確保される。小さい集光スポットサイズと高いビーム品質が焦点の高い輝度に変換されることも利点になる。この高い輝度によって、精度と信頼性に優れた加工が最小のHAZで可能になる。
ファイバレーザは維持費が低い、アラインメントと較正が不要になる、動作時間が長い、製造品質がより高いスループットでも改善される、などの効果が組合されて、運用コストが最小になる。また、小型でロバストなため、産業用途のほとんどの難しい課題に対応できる。
シンクロン社が特許化した技術は、他の材料加工技術の進歩では達成できなかった新しい加工基盤を構築することで、コンシューマ製品の製造には不可欠なものとなる。大きな企業は比較的少ないが、高いコスト競争力が必要で、しかも消費者ニーズに対する柔軟性(変化)が必要になる産業分野では、どのような加工上の利点でも大きな利益をもたらす。
ファイバレーザと特許化された表面加工工程との組合せから得られる加工形状の小型化によって、毎月1000万個を超えることもある電子用セラミックのより精密な加工が可能になり、携帯電話や音楽プレーヤーなどのコンシューマ製品あるいはバックライトや車載用の高輝度LEDを大量生産するニーズへの対応が容易になる。その証拠として、セラミック基板に0.003インチ以下の穴を0.0005インチ以上の精度で加工する仕様の産業分野もある。このレベルの分解能をCO2レーザで実現することは容易でないが、シンクロン社の新しい加工法では大量生産でも容易に達成できる(図6)。
表面処理はスプレー、ディッピイング、ローリングなどの塗装法を利用でき、乾燥時間も長くはない。セラミックへの表面処理の応用では、CO2レーザ加工において確立され広く使われているめっき工程(通常は飛散防止層)のような追加の加工を必要としない。さらに、新しい加工法からのデブリの発生はかなり不活発で量も少ないため、スパッタの問題を回避できる。
セラミック基板に非常に微細な形状を高いスループット速度で形成する能力は、電子産業に対して設計、性能およびコスト上の利点をもたらす。ファイバレーザは競争力の確保に必要な基本的基準のより良いバランス、つまり有効な光学性能、工程の柔軟性、高い製品歩留り、長期のシステム稼動時間、優れた信頼性などの複雑な組合せの実現に役立つ。シンクロン社の場合はファイバレーザの支援によって従来は達成できなかったセラミックの加工性能レベルを実現している。