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ディープエングレービングの正しい選択
レーザ光を用いるディープエングレービング装置の選択には、加工方法、材料、彫刻特性を注意深く考慮する必要がある。
ディープエングレービング(深彫刻)加工とは、工具や型材の表面に高精細の機械加工を行う処理である。このような材料の場合、非常に硬いため、従来のコンピュータ数値制御(CNC)工作機械による高速ルータ加工では、高額なツールが必要となってしまう。レーザによるディープエングレービング加工は、非接触方式のため、非常に優れた代替加工法となる。レーザによるディープエングレービング加工では、被加工物に対し非常に強度の高い光線を照射するが、この強度により、レーザ光線が照射された部分の材料は、溶融し蒸気になる。言い換えれば、レーザ光照射領域の圧力が上昇し、被加工物から溶融した材料あるいは蒸気化した材料が強制的に取り除かれる。
レーザディープエングレービング加工は、従来のディープエングレービング加工に対して以下の利点がある。
- 機械的彫刻ツールに見られる摩耗がない
- 非接触方式のため繊細な部分の彫刻も可能
- 熱処理された材料上でも彫刻加工スピードが速い
- スポットサイズが小さいため、極めて高い解像度を持つ
- レーザ彫刻では、加工しにくい場所でも加工可能
- プログラミングが柔軟
しかしながら、工具や型材などのためのディープエングレービング加工のツールとしては、標準的なレーザは最適ではない。ディープエングレービング加工法への投資を行う場合、正しい判断を下すためには、考慮すべき多くの要因がある。これらの要因は、重要度や規模に関して企業ごとに異なるが、ほとんどの場合において重要度が高いと言える。
ディープエングレービング加工にレーザを用いるのは新しいアイデアではない。この加工には、加工の表面状態によるが、通常40〜100kHzの範囲の非常に高い繰返し率のハイピークパワー変調レーザが用いられる。様々なレーザが市販されているが、工具や型材のディープエングレービング加工の場合、圧倒的に多いのは、波長1μmのレーザである。レーザによりその差はさまざまなため選択は困難であるが、パルス長、スポットの大きさ、繰返し率などが、重要な役割を果たしている。関連する要因を全て細かく検討すれば、選択した装置を実際に運用する際に、驚くような状況に陥ることはない。
市販されているレーザマーカであれば、どれでもディープエングレービング加工に対応できるという一般的な説がある。このような説は、過度に積極的な販売マーケティングの努力と、正しい情報に基づいて判断を行わないユーザによりますます一般化しているようだが、判断するにあたっては、以下の点を考慮する必要がある。
材料に対する考慮—加工する材料を注意深く考察することは、ディープエングレービング加工のレーザ光源を選択する際の判断に大きく影響する。
工具鋼のような材質やアルミ、銅、黄銅のような合金は、使用するレーザの平均出力およびピーク出力要件に大きく影響する。例えば、アルミは、炭素ベースの工具鋼よりも、短いパルス長と高いピーク出力パルスを必要とする。さらに、大きさ/重量/パーツの量(サイクルタイム)、取り付け取り外し、向き、固定方法などの、最終的な被加工物の物理的な特徴が、機械の構成を決定する。
彫刻の要因—彫刻深さが、モード構造、ビーム拡大、焦点距離、共振機設定等に関し、使用するレーザの構成を決定することになる。装置は、これらの領域で柔軟に対応できる性能を提供する必要がある。表面仕上げのような品質の問題は、全体的な処理のサイクルタイムと密接に結び付いている。除去率は、わずか1〜 5cm2から12cm2以上にまでわたることがある。
彫刻の公差は、彫刻パラメータが一定の場合、除去率に依存している。除去率が高ければ、一般的にそれだけ加工精度は低下する。公差要件が厳しければ、深度測定機器のようなサブシステムの追加が必要になる場合もある。使用される機器としては、機械的なプローブからレーザ測定ツールまである。これは、装置のコストに追加されるが、このようなツールは、加工処理が良いか悪いかの分かれ目になる。
彫刻の種類も、プログラミング機能について正しい選択を行う上では、考慮すべき点である。プログラミングソフトウエアに対する要求は、彫刻の種類により高まっている。ソフトウエアは、全体的な使いやすさに加え、強力なインポート/エクスポート機能を備えている必要がある。多くの市場に様々な製品を供給しているユーザは、ソフトウエア、プログラミング、ファイル管理、注文のトラッキングに関し、より高度な要求を持っているはずだ。選択するメーカーと機器は、様々な選択肢に対応できなければならない。レーザ彫刻ソフトウエアパッケージは、特定の顧客の用途のニーズを満たすためにカスタム化できる場合がある。これらのパッケージには、2Dまたは3Dのグラフィックモジュール、プロット、ハッチング、形状表示、表面テクスチャのための特別な機能、ガルバノメータプログラミングのための後工程等の選択肢が含まれている必要がある。
装置機能—ディープエングレービングレーザ加工機は、アプリケーション毎に異なるタスクに対応できるよう設計されている必要がある。市販されているすべての装置が、ディープエングレービング加工における重要な課題を考慮しているわけではない。既に説明した基本的なレーザの問題の他に、ディープエングレービング用レーザ加工機は、レーザの安全性要件(CDRH 要件別のレーザ分類)、人間工学的な要件(被加工物の重量やサイズ)、煙/スパッタ/不純物などの環境要因等に加え、廃棄物除去や臭いの排気、機械のサイズやプラント条件のような施設上の制約等の情報も提供する必要がある。
どのような機械であれ、特にレーザのディープエングレービング加工機の場合、正しい選択をするために、簡単な要件のマトリクスを作ると良い(表1)。顧客の要求やアプリケーションの要件に関する重要な要因をリスト化することで注意深く考察することができる。これらをマトリクスにリストアップし、重要ポイントを注目することにより、情報に基づく正しい判断を行うために非常に便利なツールとなってくれる。
この表は、決定要件マトリクスの一例であり、重要度によって上から下に並べられている。それぞれのカテゴリごとに0〜10ポイントのスコアを入れられる。最適な判断が下せるよう、注意深く偏りのない考察を行う必要がある。
注意深い選択
レーザのディープエングレービング加工は、レーザマーキングと同様、以前から使われているが、レーザマーカがディープエングレービング加工の解であるという説は正しくない。装置とアプリケーションの必要条件は、別世界と言えるほど離れていて、正しい選択判断には、注意深く簡潔な考察が必要となる。判断に際しては、加工法、材料、彫刻の特徴が、機械の特徴とともに重要なポイントとなる。
レーザの選択は、ユーザがロード/アンロード、設置、プログラムを行い、製造施設から届いた様々なサイズや材料の被加工物にディープエングレービング加工を施すことができる装置を購入する1ステップでしかない。最終的には、生産性とどれだけの製品を出荷できるかである。