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大面積のマーキング
ロビン・バルベロ、キャンディダ・コロナ
レーザマーキングは調理用コンロにその居場所を見つけた。
欧州におけるキッチン用品の大手サプライヤであるスウェーデンのエレクトロラックス社傘下のザヌーシ社(Zanussi)は、1916年、アントニオ・ザヌーシ氏によって家庭用コンロメーカーとして創立された。同社のもともとの歴史は、テラコッタ製ヒーターを生産していた1858年まで遡る。北イタリアのポルデノーネ市にあった同社は、営業網を発展させ生産性を向上させ、1936年には3000m2の工場に100名の従業員を抱えるまでに至った。
ザヌーシ社がAZP鉄製コンロを設計していた時期は、国際的に成功を収めた。第2次世界大戦後、同社の製品ラインは拡大し、冷蔵庫や洗濯機なども加わった。1959年には、Grandi Implanti部門を設立することによって飲食店や工場などを相手にする巨大な業務用マーケットに参入した。この時点では、同社はイタリア国内第2位の家庭用サプライヤになっていた。
同社は、1970年に別のイタリアのサプライヤ、ゾッパス社に買収され、1984年にはスウェーデンの巨大器具メーカー、エレクトロラックス社に吸収合併され、エレクトロラックス社のザヌーシブランドとして同社のキッチン用器具、清掃用器具の一部門になった。それ以降、同社は、ユニークでトレンドセッター的な製品で評判を得てきた。現在では、IKEAやExpertなど国際的な販売組織のブランド名を冠した製品を製造している。
同社の製品の中には、デザイン上、一定のカーブを描く表面形状になっているステンレススチールの電気/ガス調理用レンジもあり、こうした表面にロゴや型番、ON/OFFマークや温度調節の数字、取引先ブランドの特定のマークなど、消えないマーキングが要求される。ザヌーシ社は、これらのマーキングのために一般的なシルクスクリーン技術を使用していた。しかし、これでは、ユーザによる度重なる洗浄によってマークが拭き取られてしまう可能性があり、安全性の目的から指令される「消えない」ことへの要求は満たせなかった。ザヌーシ社は、この問題の解決のために多くの塗料や化学薬品を試みたが、いずれも「消えない」マークを保証できなかった。
1995年、ザヌーシ社は複数のレーザマーキング装置サプライヤに接触した結果、具体的なマーキングパラメータを特定し、最終的にターンキーなレーザマーキングシステムを提案したイタリアのサプライヤ、Lasit 社を選択した。Lasit社は80W Nd:YAGレーザビームの“Pre-scan”マーキング装置を開発している。二つのガルバノスキャナで焦点調節が可能な光学システム(ZDynamic)からのφ35mmスポットを走査する。マーキングエリアは最大500×500mmが可能だ。集光品質は、マーキングエリアが100×100mmの一般的なフラットフィールドデバイスと同等だ。
フラットフィールドのレンズシステムでは、集光系はミラーのすぐ後に置かれるが、Pre-scanの集束系はガルバノミラーの後方に置かれる。レンズは、入口レンズ(直径が最小)の小さな動きが焦点距離の大きな変動になるように設計されている。Z-dynamicと呼ばれるリニアステージは、X/Y操作ミラーの実際の位置に応じて、レンズを高速に動かすために使われる。DSP方式の電子計算によって、Z-dynamicの動きはレンズの位置によってリアルタイムで制御される。ビームを35mmに拡大することによって、長い焦点距離であっても小さなスポットサイズが作り出される。小さなスポットサイズは、高いコントラストで鮮明にマーキングするために必要だ。この装置によって、500×500mmの面積へのマーキングが可能になった。また、そのデバイスは、焦点位置が曲面上の焦点を制御するために開発されたコンピュータプログラムによってリアルタイムで調節されるため、部分的な曲率を補償することができる。これによってザヌーシ社の調理用コンロのグラフィック上の問題が解決できた。マークは消えず、何度も連続して洗浄しても判読可能なままだ。
しかし、一つ問題が残されていた。コンロのプレートは大きく、重く(4〜6kg)、鋭く尖っている。加えて、マーキングされる表面は、普通、プレートに対して斜めになっている。また、通常1日の生産数は、コンロのタイプやマーキングする図柄にもよるが、1シフト当たり450〜700 台だ。Lasit社は人間工学の面からも安全面からも操作を確実にするため、1200mmの移動が可能なシャトルを備えたマシンを設計し、物理的歪みなくロード/アンロードが遂行されるような方法でマーキング部分をマーキングチャンバの外に運び出せるようにした。
傾斜面へのマーキングは、また別の問題だ。Lasit社には二つの選択肢があった。一つはコンロの角度を変えてマーキング面をスキャナに対して平行にすること。もう一つはスキャナを回転させ、コンロに対して平行にすることだ。同社は後者を選択し、機械的手段ではなく、ソフトウエアで冶具備品の角度を調節できるようにした。0.3mm以下の精度でマーク位置を確定できるよう、超精密なスキャナの回転装置が設計された(図1、2)。
操作では、一度スタートボタンが押されると、後はレーザ装置が自動的に選択されたコンロのデザインによって正しい距離と角度でスキャナの位置を合わせる。シャトルはマーキングチャンバのドアが開いている間にローディング位置に移動する。シャトルが所定の位置に来ると、オペレータはコンロのプレートをロードし、サイクルコマンドのスタートボタンを押す。シャトルによってマーキング面がマーキング位置に運ばれ、騒音レベルの低減と労働環境の改善のため、マーキング加工の間だけ排気用扇風機が動かされる。
マーキング時間は、図柄やロゴの複雑さによって20〜48秒とさまざまだ。完璧な焦点と安定したレーザ出力が、薄い(0.8〜1.2mm)ステンレス上に確実に高いコントラストの黒いマークを描いていく。これは三つのパスのマーキング工程で完成される。1パス目は低周波、高ピークパワーのパルスで数マイクロメートル(μm)の深さで金色のマークを作る。2パス目はより低い速度、より高い周波数で、金属を溶かしたり気化させたりすることなく黒いマークを作る。3パス目は適度な速度、高い周波数で滑らかに仕上げる。マーキングが完了するとシャトルはアンロード位置に戻る。
ソフトウエアは、「図柄の急激な変化」「マーク位置の変化」「曲面の変化」「印字する材料、表面仕上げ、反射率の多彩さ」など、ザヌーシ社からのマーキングの要求に合わせて開発された。
カスタムデザインのユーザインタフェースをもつマイクロソフトのAccessデータベースは、図柄のタイプ、マークの位置、レーザパラメータ、軸パラメータなど具体的なマーキング情報を提供してくれる。このソフトウエアは、ビームパワーレベルの測定やマーキング回数をモニタし、完璧なマーキングを約束する。
初期の導入期とその立ち上げの期間を過ぎると、この装置は高い生産速度で完璧なマークを施したコンロの生産を開始した。現在、ザヌーシ社は、広いマーキング面積と回転スキャナヘッドのコンセプトに基づき2000年および2002年にも追加導入したLasit社のマーキング装置を稼動させている。また、興味深いことに、別のイタリアのコンロメーカーも同じ装置を使用している