Articles バックナンバー記事
パワードリリング
キング・レオン
レーザや加工技術の進歩が穴あけ加工の能力や品質を牽引している。
広範囲なパルスや出力の能力をもつロバスト(堅牢)なレーザが入手可能になった。ここでは、製造用途に適したパルス固体レーザの最新動向を要約してみる。ロバストで正確な穴あけ加工用途からの要求と、それに使用される異なるタイプのレーザの考察の後、穴あけ加工におけるレーザのアプリケーションの簡単な論評をしたいと思う。特定の穴あけ加工にどのレーザが適しているのかを潜在的なユーザでも評価できるよう、新しいレーザやその能力についての基礎的情報も加えている。
初期段階の技術では、商用の穴あけ加工にはパルスルビーレーザや長パルスNd:glassレーザが使用されていた。その後、1970年代初めにはフラッシュランプ励起Nd:YAGレーザが登場し、1976年にはQuanta-Ray社によって初の1ジュール(J)/パルスを発振するロバストで高性能なパルスNd:YAGレーザが発表された。1980年代には、JKレーザ(後のルモニクス、現在のGSIグループ社)のパルス整型パルスNd:YAGレーザがこれに続き、主に航空宇宙産業での穴あけ加工に280台以上も販売され、最も成功した産業用穴あけ加工用レーザとなった。この他、アプリケーションとしては送油のための深く角度のある穴あけ加工やコネクタロッドのスクライビング加工などが挙げられる。最近、Convergent Prima P-50のように、より高いピークパワーをもつパルスNd:YAGレーザが発表されている。ラサーグインダストリアルレーザーズ社も、穴の形状品質を改善するためにパルス変調機能を加えた独自の機種を発表している。ほとんどの装置は、フレキシブルファイバ伝送が可能で、最近発表されたJK300D(GSIグループ社製)は高いピークパワーを出すことができる。
現在、穴あけ加工用にランプ励起および半導体励起のパルス固体レーザが幅広く揃っている。その他、CO2レーザ、銅蒸気レーザ、エキシマレーザのようなパルスガスレーザも選択肢になるが、ここでは、比較的最近開発された半導体励起固体(DPSS)レーザに限定して議論していきたい。半導体励起は、ランプ励起に比べてパルスエネルギーが大幅に低いにもかかわらず、ポインティングの安定性、高い繰返し、小さな設置面積、ロバスト性の面で優れている。そのため、特にマイクロ加工用途の高速精密穴あけ加工に最適だ。
表1は、現在入手可能な異なるタイプのDPSSレーザと、ランプ励起のミリ秒Nd:YAGレーザの比較一覧だ。パルス幅は、フェムト秒(fs)からミリ秒(ms)。パルスエネルギーはランプ励起装置の150Jに対して半導体励起では数十mJだ。半導体励起レーザは、基本的な周波数のみ記載している。周波数逓倍により2倍波、3倍波、4倍波とすることによって、各約50%の割合で周波数を短くすることも可能だ。このような周波数は、材料によっては吸収が高く、熱影響層(HAZ)が小さくなるなどの利点が得られる可能性がある。一般に、周波数が長くなるほど高いパルスエネルギーが得られ、深い侵入が可能になる。ここでは、高スループットの用途に適しているという理由で、繰返しが数キロヘルツ(kHz)のレーザだけをリスティングしている。低繰返しのタイプでも、深い侵入が可能な高パルスエネルギーをもつタイプが入手可能だ。表2には、異なるパルスレーザのサプライヤの一例を示している。
穴あけ加工の基礎
穴をあける最も簡単な方法は、集束レーザパルスを被加工材料の同じ場所に続けて送ることだ。これは普通、パーカッションドリル(振動穴あけ)加工になる。この方法は、主に集束スポット径大きさの穴を開ける場合に用いられる。集束ビームのスポットサイズよりも大きな穴を開ける場合には穿孔加工が用いられる。この方法では、被加工材料を貫通する穴があけられ、その後、妥当なサイズの穴が切り抜かれるまで回転させる。このバリエーションとして、ビームか被加工材料のどちらかを回転させて、開いた穴の輪郭をトレースするという方法もある。ビームが回転されるため、材料はらせん状に切り抜かれていく。そのため、ヘリカルドリル加工と呼ばれる。
集束ビームが穴を開けるのか、それとも切断するのかを決める基本的なレーザパラメータは、パルスの放射照度と持続時間だ。放射照度は、集束スポットエリアによって分割されるパルスエネルギー。吸収エネルギーが材料を溶融/気化するのか、それとも周囲に伝わりHAZを招くのかは、こうしたパラメータによって決まる。HAZの大きさはパルスの持続時間と材料の熱伝導率に関係する。加工の形態(加熱、溶融または気化)はその放射照度を適用した時間の長さによって決まる(図1)。
1MW/cm2までの放射照度と1msまでのパルス幅では、溶融が中心になり、気化は少ない。しかし、十分なパルスエネルギーがあれば、溶融された質量の放出が起こり、結果的に穴があく。このような状況では、HAZは1mm以下でリキャスト層はわずかに小さい。ミリ秒あたり数十Jが可能であれば、航空宇宙アプリケーションで通常行われているような、高いアスペクト比の穴を開けることができる。図2はミリ秒パルスで開けられた接続ロッド内の油穴だ。図1で明らかなように、HAZとリキャストを低減する、または加工する穴の品質を改善するためには放射照度を上げ、パルス幅または相互作用時間を短くする。したがって、10nsオーダのパルス幅をもち1GW/cm2の放射照度があるQスイッチレーザは、より高品質の穴を開けることができる。低いパルスエネルギーでは加工する穴の深さが数mmに制限されてしまうが、このようなQスイッチレーザであれば半導体励起の安定性と高繰返しが得られるため、高いスループットのマイクロ加工が可能になる。
図3は、Nd:YLFレーザを使用して100nsパルスで加工した高アスペクト比の試験孔だ。この加工はガス検知センサの開口を作製するために利用される。高いビーム強度により、カーボンやプラスチックなどの難しい材料も最小限のHAZで穴あけ加工できる。フェムト秒およびピコ秒レーザの出現により、リキャストやHAZは無視できるようになった。図4にはピコ秒レーザでモリブデンに加工した高品質な穴を示している。
加工品質
たとえフェムト秒レーザであっても、高品質な穴を作り出すためにはプロセスの開発と最適化が必要だ。フェムト秒パルスであれば極端に高い放射照度(>1015W/cm2)も発生可能だが、真空では発生しない非線形効果が外気では顕著になり、加工品質に影響を与える。結果として、このような非線形効果を制限するためにパルスエネルギーが抑制されてしまう。実際問題として、高いスループットを得るためには、100J未満の低いパルスエネルギーと10kHzよりも高い繰返しが必要とされる。米ポーラーオニキス社(PolarOnyx)が最近発表したフェムト秒レーザは、このニーズに対応したものだ。フェムト秒レーザに近い加工品質を生み出せるピコ秒レーザもプロセスの最適化が必要だ。フェムト秒レーザに比べると低いコスト、高いパワーと繰返しをもつピコ秒レーザは多くの精密マイクロ加工用途に最適なレーザだ。しかし、フェムト秒レーザも、特に透過材料の加工など、特定の分野では引き続き優位を保つかもしれない。
パルスが長くなるにつれ、HAZとリキャストは顕著になり、最高の品質を達成するためには入念なプロセス開発が要求される。たとえば、最適化されたパラメータでのヘリカルドリル加工が用いられ、最近ではマイクロ秒(μs)でダブルパルスが発生している。パルス放射照度と繰返しの最適化に加え、穴あけ加工技術の進歩とパルスエネルギーの向上が、パーカッションドリル加工における穴のテーパ形状を抑えることも示されている。もっとも高い繰返しの半導体励起レーザに可能なパルスエネルギーには制限があるため、侵入深度は数mmが限界だ。深い侵入は、現在でも、パルスあたり数十Jが可能なmsパルスレーザの担当領域だ。パルス整形およびパルスエネルギーと繰返しの制御は、リキャストとHAZの大きさを制限するために使用される。
多くの選択肢
現在の潜在的ユーザにとっては、穴あけ加工用に検討可能な多彩なパルスレーザが存在する。最適なレーザとは、サイズや穴のアスペクト比、要求される品質、加工速度、投資/運転コスト、装置の信頼性など、多くのパラメータによって決まる。レーザ技術の継続的な向上によって、パルスエネルギー、繰返し、パワーは上昇している。技術面での革新が投資コストを引き下げ、プロセスの改善と開発が加工される穴の品質を向上させる。