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アルミナセラミックの精密穴あけ加工
ロナルド・D ・シェーファー、ゲイバー・カルドス、オレグ・デルカフ
ガルバノ式の355nm レーザがアルミナセラミックの精密加工を提案する。
アルミナセラミックの穴あけや切断には現在多くの台数のレーザが使用されている。この用途には、他の光源に対して比較的低価格で使いやすく加工速度が高いという理由でCO2レーザが選ばれている。しかし、CO2レーザや他の“レッド”レーザには、到達可能な最小穴サイズでの形状品質やシャープさの点で、この波長特有の短所があり、熱的過負荷もある。
われわれは、穴あけ時間、穴品質、装置コスト、ユーザの使い易さなどに留意しながら、アルミナセラミックのレーザ穴あけ加工に使用される各方式の比較を行った。また、詳細の観察は半導体レーザ励起固体(DPSS)レーザの3倍波を使用して行った。
レーザ
CO2(10μm):このレーザはセラミックの穴あけ、切断、スクライビング、マーキングでは他のレーザと比べて最も多く使用されている。フレキシブルビーム、ガスアシスト機構を利用する加工速度は非常に高く、使い易さやコストも許容範囲だ。短所は、熱レーザのため局所加熱によって材料を弾き飛ばし、そのためマイクロクラックを発生させる点だ。また、長波長のため、ほとんどの用途向けには最小穴サイズが大きすぎる。たとえばプローブ用途で必要とされる穴サイズとピッチ(穴直径< 100μm、ピッチ< 200μm)はCO2レーザでは恐らく達成できない。速度は良いが、品質面は許容範囲ではない。
YAG 基本波(1064nm):このレーザ波長は白色アルミナではうまく行かなかった。われわれはいくつもの異なるレーザや組合せで何度も試みたが、穴には多くのテーパが見られ、UVレーザに比較すると形状品質もかなり低かった。このレーザはアルミナ加工への候補には適さない。
YAG 2倍波(532nm):この波長はこの材料には適している。われわれは4ナノ秒(ns)パルス幅を用いてこの波長を調べた。短い波長とパルス幅のため、より長波長のレーザを用いる場合よりも観察した熱損傷はかなり少なかった。
YAG 3倍波(355nm):これは20WまでのQスイッチモデルが市販されており、穴品質も良く熱損傷も少なくて使い易い、最も便利なUVレーザ波長だ。レッドレーザよりも加工速度はずっと低いが、UVレーザの中では最も経済的な波長だ。一般に材料が厚さ約250μm以上になると加工速度が落ちる。10W355nmレーザと500WCO2レーザを同様に実験したところ、355nmレーザの結果のほうが数段よかったが、速度面では18倍の差がついた(CO2レーザは1時間、355nmレーザは18時間かかった)。
YAG 4倍波(266nm):このレーザは非常に良い加工品質を見せたが、3W以下の製品しか市販されていない。また、355nmレーザよりもコストがかかるが、それに見合う品質は得られないし速度も低い。このレーザは非常に高い品質が要求される用途で薄い材料に緻密なパタンを加工するような用途に限って使用できる。
248nmエキシマレーザはマスクイメージング法で使用される高パルスエネルギー、低繰返しのレーザだ。最も高い解像度が得られ、適した光学系を用いると確認されるテーパも非常に小さい。われわれは厚さ1mm のアルミナに直径4ミル(約100μm)の穴を入口約4.2 ミル、出口約3.8 ミルで加工した。エキシマの主な短所は加工速度の低さ(1穴につき1分)と操作の複雑さだ。
光学系/ビームデリバリ
ガルバノ:ガルバノメータはビームを操縦する最も高速な方法で、ガウシアンビームプロファイルのレーザと一緒に使用される。ガルバノの使用によって、穴から穴への移動時間は最短に抑えられる。ただ、ガルバノ式のビーム搬送系ではテーパが発生してしまい、加工穴入口が出口よりも若干(通常7〜10°程度)大きくなる。355nmレーザのターゲット上のビームサイズは25μm以下だが、たとえば532nmレーザは長波長のため、1.5倍の大きさ(約37μm)になる。ガルバノの位置決めは、与えられた全領域内に多数の穴あけ加工をする場合、±10μm(領域のサイズに依存。つまり、領域が大きくなると精度が低くなる)という精度に制限される。穴から穴へのステッピングはステージを利用して、各穴の加工にのみガルバノを使用すれば、より良い位置決めトレランス(公差)が得られるが、全体の加工速度が犠牲になる。この方法による位置決めトレランスはステージの精度とエンコーダに依存するが、0.1μmのエンコーダではミクロンオーダの精度になる。
固定ビーム:この方法は、通常は同軸のアシストガスとともに固定ビームが使用され、穴あけはステージの動作を利用して行われる。主にCO2レーザが使用され、最も一般的な方法だ。
ボーリングヘッドまたは穿孔ヘッド:この方法は、調整可能な二つのくさび形プリズムを回転させる光学デバイスで構成される。一つ目のプリズムは希望する穴サイズを得るために調整できる。ターゲット上のビーム径よりも大きければどんな直径サイズでも可能だ。二つ目のプリズムはテーパをコントロールする。この設計の特徴の一つはテーパをコントロールできることだ。適切な環境下ではポジティブ・テーパ(出口より入口が大きい)、ネガティブ・テーパ、テーパなし、“砂時計効果”(進行方向の位置でサイズが異なること)が得られる。ボーリングヘッドは高圧ガスアシストと一緒に使用される。位置精度はステージ動作によって決められるため、かなり高くなる。適切なレーザを使用すれば加工速度もかなり高いが、穴から穴への移動はガルバノに比べると遅い。この技術には多くの利点があるが、複雑さ、使い難さ(ガルバノのほうがかなり使い易い)、コストの点などで不利である。しかし、“テーパなし”やポジティブ・テーパ以外の穴あけ加工であれば、この技術は利用可能だ。
実験
ここからは、品質対速度のバランスが良いガルバノ式の355nmレーザに限って論じる。実験では、他のレーザも使用し、他のセラミックやセラミック様の材料についても考察を行った。
使用したレーザは米コヒレント社のAvia。実験では1.5W、3.0W、10Wを使用したが、多くの場合において全出力が速度を高めることを見出した(穴の間隔が非常に狭い場合を除く)ため、10Wレーザの結果について述べたい。パルスは約30ns。厚さ400μmのアルミナに直径約200μmの穴をあけた。まず、走査用に最適化を行った上で、一連の穴あけ加工を行い、それぞれの穴ごとに同じ動作条件下で比較を行った。この走査では10Wの全出力を使用し、一つの穴にかかった加工時間は6秒だった。この加工は4秒で行うこともできたが、数千の穴あけを行う場合、貫通しない穴も出てしまう。それを避けるために加工時間を長く設定した。厚さ200μmのアルミナでは2秒で穴あけ加工を行う。しかし、厚さ500μm以上になると加工時間は急速に上昇し、1mmを上回るともはや貫通することはできない。また、テーパも増加する。より厚い材料が必要な場合には、薄い材料をいくつか穴あけ加工し、それを重ね合わせるほうがずっと経済的である。また、アラインメントの精度がよければ両面から連続的に穴あけ加工する方法も有効だ。標準的なClassI装置は約30万ドル程度だ。図1と図2は厚さ400μmのセラミックの入口と出口。入口は205〜214μm、出口は162〜169μmまでさまざまだ。
結果と提案
ガルバノまたは固定ビーム方式を用いた355nmレーザは使い易く良好な加工結果が得られる。ボーリングヘッド方式はそれよりも注意を要する。図3は100μm穴のアレイ。各穴間のリブはわずか20μm。これは355nm 10Wレーザによる結果だ。
図4 と図5 は穴の入口と出口を拡大したものだ。われわれはこのアレイをクラッキングなしで加工するために、レーザを減速させた。つまり、高精密用途には一般的に長波長よりも355nmのほうが器用で多用途だといえる。
周波数3倍化DPSSレーザはオペレーションコストが低く、薄い材料では加工速度も許容範囲だ。また、稼働時間も長く信頼性もある。厚さ250μm以下のアルミナ材料では多少のHAZ(熱影響部)は見られるものの、高い密度で穴あけ加工が可能だ。ただ、加工品質とHAZに妥協できれば、他のレーザ光源を用いてより高い加工速度を達成することも可能だ。新しいレーザ光源を用いて他の材料に対する調査も進行中だ。