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ツールボックスに入れたい新しいツール

バーンハード・クリムト

微細加工用のピコ秒レーザは、数多くの産業関連材料の高速で信頼性の高い生産性を構築すると共に、基本的に非熱除去加工を行うことができる。

 超短パルスレーザは1990年代の初めから商品化された。そのパルスは材料の固有の熱プロセスよりも速い光と物質の相互作用を引き起こす。その結果、熱衝撃が最小になり、バリ、再凝固、熱誘起マイクロクラックなどの発生がない優れた微細加工品質を確保できる。
 10 ピコ秒(ps)パルスのイットリウム・バナデート(Nd:YVO4)レーザは、ほとんどの材料を高い品質で微細加工でき、繰返し速度が数百kHzで非常に優れたビーム品質をもつ高い出力パワーは産業用の微細加工の要求を満たしている。
 産業用の微細加工用途にとって最も重要なレーザパラメータは、パルスエネルギー、スポットサイズ、レーザ波長およびパルス・オン・デマンドの動作だ。基本的な事象は集光スポットで生じる材料表層のアブレーションである。高い加工品質はしきい値に近いアブレーションで実現され、そこでのレーザパルス当たりのアブレーション深さは数十ナノメートル(nm)オーダのため、高い分解能での加工が可能になる。この基本的な現象を適切に重ね合わせ、産業用ピコ秒レーザの高いパルスレートで反復することによって、すべての3Dマイクロミリング(マイクロフライス削り)を実現することができる。
 この基本的なアブレーションの現象は、1J/cm2のオーダ(10psパルスの場合)のしきい値で可能になり、金属では0.2J/cm2、ガラスとセラミックスでは数J/cm2になる。エネルギー密度はパルスエネルギーとスポットサイズで制御できる。パルスエネルギーはスポットサイズに対応させて1J/cm2のしきい値の基準に合せる必要がある。つまり、直径10ミクロン(μm)の微細加工では約1μJが必要になる。
 しきい値に近いきれいなアブレーションを行うには、繰返し速度を高くして高い平均パワーとスループットを実現しなければならない。実験からは、平均パワーが一定であっても、より高いパルス速度とより小さいパルスエネルギーとの組み合わせによって、優れた品質がより高いアブレーション速度で得られることが分かっている。バーストモードパルスのレーザはアブレーションに対してより効果的に動作する。短い波長を発生すると、パルスエネルギーの変換効率は約50%になり、集束性も向上する。一般に、金属は1064nmの放射波長でも十分に加工できるが、その他の材料では532または355nmの波長での加工が必要だ。
 微細加工用途のスループットはアブレーション速度とレーザパワーの関数になる。経験的に言うと、8Wのピコ秒レーザは毎分1mm3の材料(鋼鉄)を除去できる。その他の材料も浅い構造であれば同様であり、加工速度は毎分わずか0.1mm3 程度だが、きれいなエッジを得ることができる。
 このような8Wピコ秒レーザを使用するときの全体コストは時間当たり約15ドルになる。従って、精密なアブレーション/除去で十分な付加価値を確保するには、1mm3:1分:0.25ドル(8Wピコ秒レーザの場合)の関係を成立させて利益を確保しなければならない。この関係はピコ秒レーザを使う微細加工では十分に実現できる。

応用例

 ピコ秒レーザを特殊材料の穴あけ、切断および薄膜構造に使用すると、非常に正確なサイズをもつ開口、電極、接触層などを形成できる。このような加工は半導体産業用のマスクや試験板の製造に利用されている。また、医療用ステントの切断、インクジェットノズルや燃料噴射ノズルの穴あけにも使われている。カーバイドチップやその他の超硬合金工具の加工に使用すると、それらの品質と繰返し利用の寿命を改善することができる。ピコ秒パルスは摩擦を軽減するための機械部品の表面処理や回折格子の機械加工にも利用できる。さらに、半導体、太陽電池、ディスプレイなどの技術に使われる同定マスクの製造と薄膜構造を行うこともできる。
 金属の精密加工:ピコ秒レーザを使用して、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、真鍮、モリブデン、チタン、タングステンおよびその他のさまざまな合金の切断、穴あけ、ミリング、構造化などが高い精度と最小の熱影響のもとで行われた。これらの材料のアブレーションしきい値は0.2〜0.5J/cm2の範囲になる。図1 は1W@500kHz、1064nmレーザの20μmスポットで精密加工した微小金型を示している。約2mm(長さ)× 700μm(幅)×600μm(深さ)の材料除去が行われ、計算から求めたアブレーション速度は約0.1mm3/分であった。
 図2は0.55W@355nmのレーザを使って100μm厚のモリブデン箔に穴あけした直径170μmの細孔を示している。加工時間は8秒であった。
 円形の幾何学形状、鋭いエッジ、小さいテーパ構造、バリや再凝固がないことなどは、SEM(走査型電子顕微鏡)によって観察できる。材料を正確に除去することで、止まり穴、皿穴、ユーザ指定の立下りエッジなどの精密加工も可能になる。高いアスペクト比の穴あけには穿孔光学系が必要になる。
 ポリイミドの精密加工:許容可能な品質をもつカプトン(Kapton)箔の切断はUVレーザで実現できるが、カプトンの3D加工には熱を発生しないアブレーションプロセスが必要になる。ピコ秒レーザを使うと(図3)、材料の溶融、バリ、再凝固などのない精密加工が可能になる。波長355nmの300mW@100kHzレーザを使用して、カプトンの止まり穴の加工が行われた。
 ガラスの精密加工:生体臨床医学、生化学、センサ、MEMS(MicroElectro Mechanical System:微小電気機械システム)デバイスなどに使われるガラスの精密な構造はピコ秒レーザを使えば加工できる。図4はピコ秒レーザ(355nm、100mW、スポットサイズ約15μm)を使ってホウケイ酸ガラスに加工したマイクロトレンチを示している。
 独ルメラレーザ社のRAPIDのピコ秒レーザパルスを使用して、ガラスの溶融、導波路の形成およびガラスのマイクロ溶接が行われた。0.7W@1064nmレーザによるクラックのないマイクロ溶接が最大100mm/秒の速度で実現された。
 シリコンの精密加工:将来の半導体や太陽電池の技術では、非常に薄い(40μm)ウエハを狭い切口と高いエッジ品質で切断しなければならない。ピコ秒レーザを利用すると、このようなウエハのマイクロクラックのない精密加工が可能になる。

新しい産業用のプロセスとデバイス

 ソフトウエア制御のレーザビームで材料上/内部の非常に小さい層の一部をきれいに除去する方法を選択すると、新しい産業用のプロセスやデバイスの創成が可能になる。その大規模な産業用途は太陽電池の技術に可能性がある。太陽電池に関係する技術者は、新しい背面接触太陽電池の設計(図5)と、大規模生産技術およびコスト効果の高いチョクラルスキー成長シリコン材料の利用とを組み合わせて、効率に対するコストの比の改善を試みている。
 このような設計目標を達成するには、緩和したキャリア寿命の仕様をもつ配置が必要だ。この配置は高密度の背面パタンをもつ薄い太陽電池を使うことで実現できる。そのためには、酸化ケイ素や窒化ケイ素の約100nmの薄い層上の高価な構造を高いスループットと精密は品質(残留する構造に対する最小の影響)で非接触かつ正確に除去しなければならない。そこでは高いPRF(パルス繰返し周波数)をもつ高出力ピコ秒レーザの利用が有望なアプローチになる。
 新しい大型インクジェットプリンタヘッドは個々のインクジェットノズルの寿命を延ばす必要がある。そこでは、従来のエキシマレーザによるポリイミドの精密加工ではなく、ピコ秒レーザによる鋼箔の精密加工が行われている。

結論

 ピコ秒レーザは製造技術者がツールボックスに入れたいツールだ。このレーザは数多くの産業用の材料において、高速かつ基本的には非熱除去加工(または改質)が不要な信頼性の高い生産基盤を構築することができる。
 高いパワーと高い繰返し速度をもつ新しい超短パルスレーザが市場に浸透し、その信頼性はさらに改善されるだろう。それらの製品はさまざまな用途に合せて多様化すると予想される。これらの光源を使用して、アプリケーションエンジニアは新しい産業用のプロセスや理化学用と生産用のデバイスを開発するだろう。

図1 ピコ秒レーザRAPID で加工した微小金型

図2 モリブデン中の170μm の細孔を示すSEM 写真

図3 ピコ秒レーザで3D 加工したカプトンの試料

図4 硼珪酸ガラスの試料に加工したトレンチ

図5 この断面図は背面接触太陽電池の設計を示している(非売品)。拡散領域、接触グリッドおよび高密度背面表面場のそれぞれを独立した配置にすることによって、シリコン材料の高品質な範囲の拡大が可能になる。

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