July, 4, 2025, 東京--
2025年第50回光学シンポジウムが開催された。主催は日本光学会(会長:宇都宮大学・大谷幸利氏)、共催は応用物理学会フォトニクス分科会(幹事長:東京大学・小西邦昭氏)。開催はチュートリアルがオンライン形式で6月18日(水)、講演会は東京大学生産技術研究所An棟コンベンションホール(東京都目黒区)とオンラインのハイブリッド形式で6月19日(木)から20日(金)まで行われた。
光学シンポジウムは、日本光学会の講演会の中で最も歴史の古いイベントだ。 光学設計者や技術者が日頃の研究や開発の成果を発表し、議論を活発に交わす交流の場として毎年開催されている。シンポジウムのメインテーマに掲げられているのが「実用的な最先端の光学設計/光計測/光学素子/光学システム」だ。実用化を目指した最先端の光学技術に関する発表が数多く行われ、例年200名以上が参加するイベントとなっている。
日本光学会では今年の年間テーマを「未来を拓くフォトニクス」と定めており、テーマに合致した光技術が生み出す未来の社会や産業の展望を共に描ける場となることを目指している。第50回を迎えた今回のシンポジウムでは、これまでの歴史を振り返るとともに未来を見据えた新たな挑戦や技術革新に関する議論を期待すると述べている(光学シンポジウム・ホームページより筆者抜粋)。
シンポジウムでは、招待講演9本を含め合計26本の講演が行われたが、本稿では招待講演の中の一つ、「単純2枚ミラーEUV反射光学系の各種収差補正問題とEUV露光装置の国産化計画」を発表した沖縄科学技術大学院大学(OIST)の新竹積氏の研究概要を紹介する。
この装置は、エネルギー効率を飛躍的に高めるとともに装置コストを大幅に削減できる革新的な先端半導体製造用EUVリソグラフィ装置(EUV露光装置)で、わずか4枚の反射ミラーで構成され、7nmノード以降の先端半導体の微細化に貢献するというもの。国産化も視野に入れている。
EUVリソグラフィの課題
新竹氏は1982年に九州大学工学部で工学博士を取得、その後スタンフォード大学でレーザ干渉計の開発に従事、2000年からは理化学研究所でX線自由電子レーザ「さくら」の開発に着手(2011年に稼働)、2011年スタンフォード大学の教授に就任するとともにOIST立ち上げに尽力、その教授として現在に至っている。リソグラフィ研究は66歳からスタートしたという。
世界のEUVリソグラフィ市場は、2024年の89億ドルから2030年には174億ドルに、年平均成長率約12%で成長すると予測されているが、現状の世界のEUVリソグラフィ装置はASMLの独壇場と化している。十数年前、日本でも装置の研究開発を目指したナショナルプロジェクトが実施されたが、結局は頓挫したという苦い経験を持つ。
現状の先端半導体の生産現場ではEUVリソグラフィ装置の消費電力の高さや複雑な構造に起因する装置価格の高さ、頻繁なメンテナンスが必要といった様々な課題に直面している。価格は何と300億円とも言われている。
従来のDUVリソグラフィの光学系は最も高い光学性能を実現するため、基本的に直線上に並んだ軸対称の光学部品で構成されている。ところがEUV波は極めて波長が短く、これまでの光学的常識は通用しない。
さらにEUVを透過させるガラスのような透明材料はないので、EUV露光光学系はミラーで構成する。そのため、露光エリア内で十分な光学特性を得るには軸外しの複雑な構成にならざるを得ず、結果としてミラーの枚数が増えたことによる減衰が大きくエネルギー効率が悪い。
EUVのエネルギーはミラーで反射するたびに40%ずつ減衰する。EUVリソグラフィ装置では、光源から10枚のミラーを通るので、ウェハに到達できるエネルギーはたったの1%程度になってしまう。そのためEUV光源には高い出力が求められる。高出力を出すためには、EUV光源用のドライブCO2レーザに膨大な電力と大量の冷却水が必要となってしまう。
2つの新技術
この課題に対して新竹氏は、新技術を用いてミラーの枚数を減らすことに成功。具体的には、EUVリソグラフィの心臓部であるプロジェクタ(フォトマスクの画像をシリコンウェハに転写する)をたった2枚の反射ミラーで構成。2枚の軸対称な、中心に小さな穴の開いたミラーを直線上に並べることで優れた光学特性を実現した。これまでのEUVリソグラフィでは、少なくとも6枚の反射ミラーが必要と言われていたのに対して、驚くほどシンプルな構成となっている。
新竹氏は光学の収差補正理論を慎重に見直すことでこれを実現した。詳細な性能は光学シミュレーション・ソフトウェア(OpTaliX)を使って検証されており、先端半導体の製造に十分な性能が保証されているという。
新竹教授は「二重露光フィールド」という新しい技術も考案した。平面ミラーのフォトマスクを、光路を邪魔せず正面からEUV光を照射するという照明光学系だ。新竹教授は「例えるなら2つの懐中電灯を左右の手に持ち、正面の鏡に向かって斜めから同じ角度で光を当てる。しかし、このままでは一方の懐中電灯から出た光は必ず反対側の懐中電灯に当たってしまい、リソグラフィには使えない。そこで、懐中電灯の角度を変えずに左右の手の位置を外側にずらす。光は反対側の懐中電灯と衝突することなく通過できる」と述べる。
2つの懐中電灯は対称に配置され、同じ角度でマスクを照らすため、平均してマスクは正面から照射され、EUVリソグラフィ特有の問題であるマスク3D効果(マスクトポグラフィ効果が生じて寸法精度に影響を与える)を最小限に抑えることに成功した。
これらの新技術を用いれば、EUV光源からウェハまでわずか4枚(4段)のミラーで済み、ウェハに10%以上のエネルギーが到達できるので、出力が数十ワットの小型EUV光源でも動作ができ、消費電力の大幅な削減につながる。新竹氏は、装置価格は300億円から50億円以下に、消費電力は1000kWから3kWになると述べた。新技術は今年の「半導体・オブ・ザ・イヤー」半導体製造装置部門のグランプリも受賞した。
特許はOISTが出願済みで、今後、実証実験を経て産業界で実用化されることが見込まれているという。新竹氏は「2年半以内に試験機EUVをOISTで稼働させる!」と決意を述べて講演を締め括った。
今後のイベント予定
日本光学会の今後の主なイベントとしては、日本光学会年次学術講演会(Optics & Photonics Japan 2025)が12月9日(火)から11日(木)までの3日間、徳島市の「あわぎんホール」で開催される予定だ。詳細は下記URLを参照のこと。
OPJ2025 – Optics & Photonics Japan 2025
(川尻 多加志)