新製品 詳細

業界最小レベルの超低損失特性を実現したことにより、システムの電力効率向上に貢献する第8世代IGBTを発売

~太陽光発電パワーコンディショナやUPSなどの電力変換システム向けに、電力損失を極小化~
 ルネサス エレクトロニクス社(代表取締役社長兼CEO:鶴丸哲哉、以下ルネサス)は、太陽光発電のパワーコンディショナやUPS(無停電電源)システムのインバータ用途向けのパワー半導体として、電力変換損失を極小化し、システムの電力効率を向上する第8世代IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)の「G8Hシリーズ」を新たに製品展開する。
 第8世代製品は特に、太陽光発電のパワーコンディショナやUPSシステムに搭載されるインバータ回路用途に最適化するため、プロセス構造に独自のトレンチゲート構造(注1)を採用した。これにより、IGBT性能指標となる高速スイッチング特性の向上と、飽和電圧Vce(sat)(注2)の低下による導通損失の低減を両立した。従来の第7世代IGBTと比べて、性能指数(注3)を最大30%改善しており、無駄な電力損失を削減し、ユーザシステムの電力効率の向上に貢献する。
 新製品は、650V/40A、50A、75Aの3製品、1250V/25A、40A、75Aの3製品で計6製品のラインアップ用意しており、様々なインバータ回路方式、出力容量に応じて製品を選択することが可能。サンプル出荷を2016年3月10日より順次開始し、サンプル価格は650V/50Aの「RBN50H65T1GPQ-A0」が330円/個(税別)。量産は2016年9月より開始し、2017年3月には月産60万個を計画している。
 太陽光発電システムにおいては、太陽光によって集めた直流(DC)の電流を交流(AC)に変換するインバータ回路を通過する際に、どうしても損失が発生してしまう。この電力損失の多くは、パワーデバイスの電力損失が大半を占めており、IGBTの電力損失を少なくすることがユーザシステムの発電性能に直結する。また、サーバルームやデータセンタで使用されるUPSシステムは、停電をしていないかチェックするため、電力は常時、電力変換回路を経由しなければならず、稼動しているだけで、定常的に電力損失が発生する。この電力損失をいかに低く抑えるかも、IGBTの性能がキーとなっている。
 ルネサスは、この電力変換分野において、低損失IGBTの設計ノウハウを生かし、第8世代の最新IGBTプロセスを開発した。パワーコンディショナやUPSシステムに最適化したことにより、「G8Hシリーズ」は、1)業界最小レベルの電力損失を実現。これにより電力変換回路の電力損失を大幅に削減することが可能となり、システムの電力効率が向上する。また、2)高速スイッチング性能と相反する低ノイズ特性を実現し、従来はノイズ低減に必要だった外付けのゲート抵抗を削減可能。さらに、3)市場ニーズに応えて、高温175℃を保証。さらに高放熱特性であるTO-247パッケージを採用している。そして新たに、4)75Aの大電流製品を単体パッケージ化し、高温・高放熱パッケージでセットの電力容量向上を実現する。本製品の主な特長は以下のとおり。

(1)業界最小レベルの電力損失により、インバータ回路に最適
従来からの低損失IGBTの設計ノウハウを活用し、独自のトレンチゲート構造を開発。この最新第8世代IGBTのプロセス技術を用いて、IGBT性能指数である高速スイッチング特性と低飽和電圧Vce(sat)特性の両立を実現。これにより、性能指数を最大30%改善することに成功。さらに、インバータ回路での電力損失の内訳を分析し、IGBTの2大損失要因である、導通損失とスイッチング損失を最適極小化。電力変換回路の大半を占めるIGBTの電力損失を大幅に削減することが可能。

(2)低スイッチングノイズにより、外付けのゲート抵抗を削減可能
IGBTのノイズ特性は、スイッチングスピードとのトレードオフ指標となっているが、第8世代IGBTは、スイッチング時にゲートに発生するノイズを大幅に低減。これにより、ユーザは従来ノイズ低減に必要だった外付けのゲート抵抗を削減でき、部品点数の削減によるシステムの小型化にも貢献。

(3)高放熱性能TO-247パッケージを採用し、高温175℃での動作を保証
TO-247パッケージは、裏面が金属で形成され、IGBTの電力損失により発生する発熱を直接パッケージの外部に伝達できるので、放熱性能が優れている。特に、本製品は175℃の高温にも対応しているため、大電力伝送により発熱しやすい場所でも安定して使用可能となり、ユーザシステムの性能と信頼性の向上に貢献。

(4)75A電流帯の単体パッケージ「TO-247 plus」品を製品化
従来、75A電流帯は、熱やノイズ、動作品質等の理由から、通常モジュールとして大きなパッケージを使用することが主流だったが、第8世代の低損失な小チップ化の技術により、1250Vのダイオード内蔵のIGBTとしては業界で初めて「TO-247 plus」として単品パッケージ化を実現。75A電流帯の単体パッケージを採用することで、ユーザはディスクリート部品の回路構成がフレキシブルになり、大電力化が容易に実現可能。

 今回の新製品は、インバータ用途以外にも、第8世代「G8Hシリーズ」の高速スイッチング性能を生かして、コンバータなどの昇圧回路においても、高い性能を発揮する。今後は、他の家電機器向けや産業用途向けに順次、第8世代「G8Hシリーズ」をリリースする予定。また、同社のマイコン等と組み合わせた最適な産業機器向けソリューションも合わせて提供していく。ルネサスは、IGBTを家電および産業用途の重要部品と位置づけており、今後も新製品を積極的に開発していくという。新製品の主な仕様は、PDFを参照。(2016/3/10)

(注1)トレンチゲート構造とは、チップ表面に深く狭い溝(トレンチ)を形成し、その側壁にMOSFETのゲートを形成した構造。セル密度が高められるため、オン抵抗の低減が可能。
(注2)飽和電圧Vce(sat)とは、IGBTの性能を示す最も重要な指標で、動作状態におけるコレクタ-エミッタ間の電圧を示し、小さいほど、素子に電流を流した際の導通損失が小さい。
(注3)性能指数は、スイッチング損失x Vce(sat)の指標で表すことができる。