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3次元プラズモンのファン・デル・ワールス力解析に変換光学を使用

英国のインペリアル・カレッジ・ロンドンは、非局在性によって影響されるトリッキーな3次元プラズモンシステムを、変換光学を使って解析する斬新な方法を考案した。
 平行面でのファン・デル・ワールス力の計算は、10nm 以上離れた平行な面では比較的容易だが、5nm 以下の極小距離では計算が非常に難しくなる。さらに、そのような極小スケールでは、明白な中間メカニズムのない空間に隔離されている物体の直接反応である非局在性もまた解析を曖昧にしている。しかしProceedings of the National Academy of Sciences 紙に最近掲載された論文で、インペリアル・カレッジ・ロンドンのSirJohn Pendry 教授、Yu Luo 博士、 Rongkuo Zhao 博士が、3次元プラズモンシステムの非局在性を解析するのに変換光学を用いる方法を詳しく述べている。同紙によると、変換光学をファン・デル・ワールス力の計算に用いてプラズモンシステム内のナノスケール物体に起因する非局在性の影響についてのジレンマを何とか解決に導いたのは初だという。プラズモンは光周波数でのプラズマ振動の量子化によってできる準粒子である。従って変換光学を使えば、電磁放射が電磁界を特定の方法で調整して伝搬すると思われる方向が決定される。
「非局在性には計算を困難にする計算複雑性がある。我々は非局在性システムを高い精度で再現できるローカルシステムに置き換えることで計算を非常に単純化する回避方法を発見した。変換光学を有効利用する鍵は、適正な変換を選択することだ。我々の場合だと、ほぼ接触している2つの領域の問題を、2つの同心領域にすることでシンメトリックな問題に変換できた」とPendry 教授はPhys.org に話している。しかし、研究者たちはいくつかのスケールの複数変更という課題に直面。特に領域そのものの長さ(約10nm) と領域間の距離を、原子の距離(約0.2nm) という限界まで小さくしようと躍起となった。さらに、調査中のファン・デル・ワールス力が対象範囲およそ100 eV という多くの異なる周波数によって構成されているという事実も厄介だった。Pendry 教授によれば、科学者達はナノスケール表面現象の非局在性の影響を調査し、信頼できるモデル構築を始めたばかりだという。だがPendry 教授は、他の方法とは異なり変換光学が複数の電磁界を検討し、非局在性の特殊な問題に対応することもできると強調する。「我々の論文におけるナノスケール力は、非局在性を扱うことが重要であるという1つの事例にすぎない。事態を困難にする主要な原因は、特定ポイントでのシステムの反応がそのポイントの電磁界だけでなく周囲の領域の電磁界にも依存する場合で、これは多くの従来型アプローチが対応に失敗した問題だ」とPendry 教授は述べている。
 同僚の助けを得てPendry 教授は、非局在性が電磁界の増大、引いては2領域間のファン・デル・ワールス力を劇的に弱めることを発見した。「領域間のファン・デル・ワールス力は標準的な化学結合と比較すると長距離だが、表面が別の表面と極めて近い場合には唯一重要となる。標準的な局所理論は、表面が接触している境界中の無限の力を予測するが、もちろんこれはナンセンスだ。従って、合理的で実験と比較できる予測は、非局在性を考慮に入れなければならない」とPendry 教授は説明する。同教授はファン・デル・ワールス力に関する自分の研究が、最終的には化学結合についてのさらなる研究につながることを願っている。今のところは論文の主要論点の周辺
 問題にすぎないが、結合は電子トンネル効果によってチャージの直接接触が起こるだろう2つの領域間で、接触の直前に起こる最終アプローチには不可欠であると、教授は断言する。「我々の考えている力は化学結合を補うもので、そこでは化学結合に対する現在の理論的アプローチは局所密度近似を有効に利用する。言い換えると、純粋なファン・デル・ワールス力は化学結合を除外するので、結合の純粋な局所密度近似は、我々の計算する長距離分散力には何の関係もない。もちろん、ある段階では両者がいっしょになるだろう…だがそれが起きない場合は実験のインプットが必要になる。ファン・デル・ワールス力の理論的研究が、これを可能にする最初の1歩である」とPendry 教授は言う。
PNAS の論文に詳述されている新しいアプローチは、変換光学によって3次元の非局在問題を解析する一方、プラズモンナノ構造の非局在効果の一般的理解に光明を投じるものである。「論文中で検討した接触しそうな領域など、独特の構造を扱う際にはいつも計算が困難だが、針のように鋭いポイントの相互作用も同様だ。変換を使って特異性を解明することは、同様の状況それぞれにおいて力がどのように作用するかを明らかにすることであり、事実、共通の起源がわかることもよくある」とPendry 教授は話す。実際、教授によると「ナノケミカルシステムはすべてファン・デル・ワールス力の効果を考慮に入れるべきで、我々の論文は、この問題のさらなる理解につながるものである」という。
 教授は、特に電磁加熱および電磁冷却の領域で、この研究結果が良い影響となり、触発されてさらに研究が進むことを願ってやまない。「非常に近いが物理的接触はない2つの表面間の熱伝導は、すぐそこまで来ている。ファン・デル・ワールス力の原因となる電磁的変動により熱が距離を越えることもある。これは放射冷却とは異なるが、それよりさらに強い効果だ。長期的には、量子摩擦についての我々の理論を一般化し、非常に近いが物理的接触はない表面が摩擦抵抗を経験できるようにしたい。その効果においては、非局在性もまた重要な論点である。変換光学は電磁的な用途および方法論で広範囲に使われているので、Pendry 教授は自分の理論が電磁波に着目した他の研究でも使える方法に目を向けている。「今の研究は、たくさんある用途の1つにすぎない。不可視性の用途では多くの研究がすでにあり、我々はそれを増強ラマン分光法によりプラズモン構造の強電界研究に使用している。実際、物理的構造に関係する電磁放射を有するどんな問題も、実質的には変換光学の恩恵を受ける。プラズモンシステムの場合、非常に接近した表面を考える際は常に非局在性が重要な論点となるだろう」とPendry 教授は続けた。
 詳細はPhys.orgのウェブへ。(2014/01/05)