電波による個体識別(RFID:Radio-Frequency Identification)技術は、過去50年間にわたって使用されている。この技術は機器の在庫やステータス追跡を識別する際に使われる。バーコードと同様の機能で、利点は続々と増えている。RFID部品の生産はコスト面で優れているので、この技術は近年、急増している。在庫管理および動物の個体識別の課題は、電子機器のモニタリングやエラー防止へと進化してきた。以下はRFID環境で動作する、および/またはRFIDを利用する電子機器の電磁両立性(EMC)試験のRFID組み込みに関する短い考察である。RFIDによって従来のEMC 試験とのギャップを埋める新しい試験方法が必要となってきている。
RFIDの基本的要素はリーダーとタグである。リーダーは、EMC試験所で模擬しているものである。リーダーはタグとともに読み/書きの動作を実施する。タグは他の電子機器に内蔵あるいは非電子機器にスタンドアロンとして使われる機器で、パッシブまたはアクティブのどちらかである。リーダーは磁気エネルギーまたは電気エネルギーを出してタグから情報を取得する。タグに瞬間的な電力を誘導するパッシブRFIDタグもある。タグが応答を返す情報には、タグが付けられている機器の位置、識別、ステータスが含まれている。供試機器(EUT:Equipment Under Test)またはRFIDネットワーク内のRFIDタグを利用する全ての機器がRFID環境で影響を受けないことが重要なのは言うまでもない。言い換えると、RFID技術を使っていない機器であってもRFIDエネルギーの影響を受けるということである。
現在、非常に多くのRFID周波数や変調スキームが使われている。磁気(磁界)周波数では134.2 kHzと13.56 MHz、電気(電界)の高い周波数では433 MHz、860 ~ 960 MHz、2.45 GHzなど。これらの周波数を模擬するには、通常のEMC試験には使用しない特別な機器が必要である。本物そっくりのRFID信号を模擬するには、ベクトル信号発生器、アンプ、アンテナという構成要素が必要である。ベクトル信号発生器はAdvancing Identification Matters (AIM)が提示する変調要求を実行するためにプログラムされ、ソフトウェア・パッケージ経由で制御される必要がある。AIMはRFIDの専門家のグループで、RFID環境で動作する機器のRFIDイミュニティ要求の基本的なものを規定している。この要求事項には電界強度、変調、模擬されたRFID送信のテキスト構造が含まれている。
タグリーダーは固定あるいは移動が可能なので、リーダー信号がEUT全体に行き渡ることが望ましい。これを磁気(磁界)周波数で達成するには多くの操作が必要である。AIMが要求する磁界強度を生成することで、磁界に曝す領域を制限する。簡単に説明すると、曝す磁界が小さくなれば必要な電力も低くなる。かなり大きいEUTでは、磁界ループアンテナがEUTの周りを動くことで、さまざまなRFID送信に対して適切にEUTを曝すことになる。同様に、電界および磁界の強度は距離に反比例して低くなる。距離に伴う磁界強度の減少は電界強度の減少よりはるかに速い。磁界RFID周波数は、磁界アンテナとRFIDタグの付いたEUTの近接が必要である。 こういった磁界は、経路およびループ領域のあるワイヤ束、リボンケーブル、プリント基板上の回路にたどり着く。回路ループを通る磁界は電圧を誘導するが、それは多くの場合、ビットの値を変化させ、ディスプレイの照度や指示器の照明を過度にさせるには十分な大きさである。EUTに電界(E-field)をいろいろな周波数を用いて照射するのはIEC 61000-4-3の試験と似ている。全部ではないにせよ、殆どのEUTに対して垂直および水平偏波で少し離れて照射できる。
AIM 7351731規格を評価した経験により、以前はIEC 61000-4-3など従来の放射イミュニティ試験に影響されなかった機器の脆弱性が明らかになった。13.56MHzのRFID技術を利用したEUTの1つには433 MHzでイミュニティの問題があった。また、13.56 MHzの送信によって、ステッピング・モーター搭載の機器にはブレイクダンスするロボットのような痙攣が生じた。応答の発生は予測不可能で、特定の周波数または変調スキームを好んで応答が起きることもなかった。だが、以前はIEC 61000-4-3や医用規格IEC 60601-1-2にさえ適合していた機器が、なぜ突然AIMイミュニティ要求に弱くなったのだろうか?
理由の1つに周波数範囲がある。一般的なIEC 61000-4-3は80 MHz ~2.7 GHzの周波数範囲をカバーしている。これは明らかにRFID の13.56 MHzや134.2 kHzをカバーする値ではない。また、このように低い周波数の技術を利用するのは電界イミュニティ規格であり、磁界イミュニティ試験ではない。急速に占有の進むRF周波数スペクトラムに対応するため、医用規格IEC 60601-1-2 はパルスおよびFM変調タイプの追加とともに、高い試験レベルの385 MHz ~ 5.785 GHzで多くの周波数を追加した。こういった周波数帯はヨーロッパとアメリカの送受信無線機、アナログ・デジタル携帯電話である2.4GHz 技術、WLANと同じ帯域である。
IEC規格に使われている変調タイプは、さまざまな公共の周波数帯で使用している変調タイプを真似ようとしたものである。AM、FM、パルス変調は市販の信号発生器の多くに搭載されているものであり、全ての電磁両立性規格のバックボーンである。位相および振幅変調を用いた非常に特別な変調スキームを規定することは、エンコードされるべきデータと同様に前例のない要求事項である。この要求はAIM 要求事項の中にある。この要求中で1つ必要なのはベクトル信号発生器の性能である。
磁界イミュニティは通常、 IEC 61000-4-8 または類似の規格で確認されるが、これはAC 電源の50 Hz または60 Hz のどちらかでEUT が磁界に耐える能力を試験するものである。50 Hz ( あるいは米国内では60 Hz) が存在する場合に磁界測定をする人なら誰でも公共配電網の特性がどれほど普及していて不可避のものか知っている。EUT が
この現象の影響を受けるというのは完全に筋が通っている。これは、ヘルムホルツ・コイルで発生させた30 A/m までの磁界にEUT を曝すことによって検証できる。AIM 7351731 規格は、134.2 kHz で65 A/mレベル、13.56 MHzで最大12 A/mレベルの磁界イミュニティを要求している。 IEC 61000-4-8 およびそれを参照する全ての製品規格は、RFID 磁界周波数に対するイミュニティ試験を全く意図していなかった。これこそAIM がRFID 要求を作った理由である。
EMC 試験所での一般的なRFID 試験期間には以下の手順が含まれる。
1. EUTはIEC 61000-4-3に従ってセットアップし構成する。EUT操作、誤動作判定基準、試験場所、EUT操作が影響を受ける必須の場所について検討すること。
2. ソフトウェア、ベクトル信号発生器、RF同軸ケーブル、周波数に適した送信アンテナを使って、9つあるAIM RFID送信のうち1つを構成する
3. 校正された測定アンテナと磁界測定用にスペクトラム・アナライザを使用し、意図的かつ正確な距離で磁界強度を確認す
る。電界レベルを確認するには校正された電界測定プローブとスペクトラム・アナライザを使う。
4. 送信アンテナをEUT周囲のさまざまな位置で適切な距離に配置し、実際のRFIDが受ける磁界強度または電界強度でEUTを曝す。これは、RFID環境で動作するEUTがリーダーに曝されるのを模擬している。
AIM 7351731によって実施するRFID試験では、RFID送信での磁界および電界に対し現実的なイミュニティ確認ができる。広範囲の周波数と技術を利用するため、適切に試験するには相当多くの機器が必要となる。医用、航空宇宙用、産業用、軍用などの重要な用途のEUTはRFID環境で動作し、RFIDそのものを使う場合もある。障害検出でわかったように、AIM 7351731 RFID試験を製品の試験範囲の一部として考慮してほしい。
2018年11月1日 by Tim Lusha
参考文献
・AIMとはAdvancing identification Mattersの略。詳細はこちらへ。
https://www.aimglobal.org/store/ListProducts.aspx?catid=172566
・規格の詳細はこちらへ。
https://www.aimglobal.org/store/ViewProduct.aspx?id=7351731
著者紹介
Tim Lusha氏はD.L.S. Electronic Systems, Inc社のEMC/コンサルティング上級エンジニアである。同社は設立して22年になる大きな独立系EMI・環境試験所で、Lusha 氏はイリノイ州のD.L.S.’ s Wheelingとウィスコンシン州Genoa CityのWI試験所の両方で仕事をしている。FDA、FCC、EU、IC、VCCI要求事項だけでなく、顧客独自の試験セットアップ、試験用のソフトウェア・プログラムおよびネットワークなどの送信機測定、電源品質不確かさ、校正の分野を担当。またMIL-STD-461とDO-160試験も経験している。IEEE EMC SocietyおよびESDAメンバーで、DLS EMI by
Your Design training programのチーフ/インストラクターでもある。Milwaukee School of Engineeringを卒業。連絡先:tlusha@dlsemc.com。
https://interferencetechnology.com/rfid-takes-aim/
図1.AIM RFIDイミュニティ試験のセットアップ(写真提供:D.L.S. Electronic Systems社)。