プリント配線板(PWB:printed wiring board)内をレイアウトする際、回路からのエミッション発生を最小化するには多くの「ルール」がある。ルールには重要な項目も幅広く含まれていて、どれが重要かと言うと全て重要と言わざるをえない。だがランキングのNo.1は何かと問われたら、さて、どう答えればよいだろうか?
1. PWBレイアウトにおいて考慮すべき重要なファクタは何か?
考慮すべき一般的な項目はバイパスである。これは特にコンデンサのサイズ選択(および特定用途で1個以上使うべきかどうか)に関係するので、先日のブログ記事で少々考察したものである。私が望んだ結論は、コンデンサが十分に大きくて特定用途で1個以上使う必要がない限り、サイズはあまり問題ではないということである。
では、他に何を考えればよいだろうか?
フィルタ、これはもちろん重要だが、最も見落としがちな問題は、フィルタをどこに置くかということだろう。不動産屋が家の選び方について語る際、最も大事な3項目は、第1に場所、次も場所、最後も場所に違いない。フィルタについてもほぼ同じことが言える。世界一のフィルタであっても製品の不適切な位置に配置すれば全く役に立たない。ゆえに用途に合うフィルタを選び、適切に配置しなければならない。これが問題を起こす原因No.1だろうか? 答はNoである。
部品の配置はどうだろうか? これは、非常に重要に見える他の項目に影響する可能性がある。「ノイズの多い」部品は、基版の端から離しておきたいところである。基板の端はシールドの開口部に近くなりがちで、開口部に近いということは筐体のシールド効果に逆の影響を及ぼす恐れがあるからである。では、部品の配置が最重要ということだろうか? 最重要ファクタに影響を及ぼさない限りは、そうではない。続きを読んでほしい。
伝送線はどうだろうか。該当する周波数の波長の約1/10以上なら何であっても集中回路ではないので伝送線路として考えなくてはならない。また伝送線路を効率よくするなら、特性インピーダンスで終端すること。そうしないとEMCの観点からは望ましくないリンギングが出てきてしまう。これにより製品のあらゆる信号に調和しないが信号速度と伝送線路の長さの関数になるエミッションが発生する。こういった問題の解決は「楽しみ」であり、修正には基板上に追加部品が必要となる。だが、これがNo.1の問題かというと、微妙…。
では「グランディング(グランドを設置すること)」はどうだろうか?確実な接地グランド(solid earth ground)なしにはEMC要求に通るはずはないと、設計者たちに言われたことがある。この件について設計者たちは非常に頑固だった。しかし「地球周回静止軌道上の衛星は、衛星から長さ2.2万マイル(約3.5万キロ)のグランド接続ストラップがぶら下がっていないのにもかかわらず、パソコンよりはるかに厳しいEMC要求をどうやって満たしているのか」と問うと、納得してくれた。だが製品の共通ポイントまたは構造上のポイントに対する確実な接続として「グランディング」を語るとなると、それはまた別の話である。設計者には「グランディング」をできるだけ多点で実施したほうが良いと話した。回路基板上の「グランディング」に役立つコツは数多い。では、これこそが重要だと判断された問題No.1なのだろうか?答はNoだが、ランキングではかなり上位に来るのは間違いない。
回路から出ている導体? これは非常に重要なトピックである。PWBから出てくるワイヤはアンテナの働きをする。回路の反対側から出ているワイヤがあれば、ダイポールアンテナと全く同様に動作する。つまり途中に信号源があり両端に導体がある。これは非常にまずいので、コネクタを回路と同じ側に移動する。ワイヤからRFを遠ざけておかなければアンテナがそこにあるのと同じだが、アンテナほど効率的ではないだけである。放射エミッションは減るだろう。全くのゼロにはならないが、適用限度値には適合するかもしれない。
2. 原因No.1の問題とは…
ループ領域の制御である。考えてみてほしい。PWBから最も多く放射しているのは何だろうか? ループ状に流れる電流である。ループ電流からの放射はどうやって計算するか? 小さなループから自由空間への放射は以下の式で計算できる。
E = 131.6 x 10-16(f2AI)(1/r)sin θ
ここで、Eは電界強度(V/m)、fは周波数(Hz)、Aはループ領域の面積(m2)、Iは電流(A)、rはループからの距離(m)、θはループの中心線からの角度である。
これらの数字は問題ないが、忘れてはいけないファクタが1つある。ループからの放射はループ領域の面積に正比例する。ループ領域を制御できれば、ループからの放射も制御できるのである。
ループからの放射をどう制御すればよいか?RFは楽な方に流れることを思い出してほしい。RFは発生源へ戻らなければならない(ノードに流入する電流の合計はゼロというキルヒホッフの法則を覚えておく)。空間では電流源や電流排出だけのポイントはありえない。また電流は可能な限り最も低いインピーダンス経路を経由して発生源へ戻る方法を見つける。つまりインダクタンスが最も低い経路であり、それは一番小さいループである。PWB設計者はこのループを制御すればよい。
これを違う角度から見ると重要なことがわかる。つまり発生源から負荷へ伝搬している信号は、電子の動きというより、むしろPWBの誘電体を通した電磁波の伝搬なのである。電磁波は信号トレースと隣接する基準プレーン(グランドあるいは電源だが、高周波RF ではどちらでもよい)の間に存在する。この電磁波に対し全長にわたり連続した経路を用意する必要があり、最良の結果を得るため、この媒体の特性インピーダンスを変更してはならない。
では、ループ領域あるいはRF波の経路をどのように制御すればよいか? これについては多くの経験則があるので、いくつか挙げておく。
・基板のレイヤを変更してはいけない。
・グランドプレーンまたは電源プレーンの分割部分を通過してはいけない。
・高速トレースをグランドまたは電源プレーンに隣接してルーティングする。
・6層以上のPWB内ではクロックトレースを電源・グランドプレーン間にルーティングする。
・信号とリターンプレーン間のスペースを最小化すること。
・トレースはできる限り短くし、他の設計ニーズと一致させる。
以上すべてはループ領域を最小化してくれる。では、どれが一番重要か? たとえ他を侵害するとしても、どんな状況下でも侵害されないと思われるものだろうか? 答は2番目の「グランドプレーンまたは電源プレーンの分割部分を通過してはいけない」である。電流はグランドや電源プレーン上で信号トレースの下を流れる。これによりループ領域は最小に保たれ、伝搬する電磁波に伝送線を確保する。信号トレースがプレーンの分割部分を通過すると、電流は分割部分の周囲に通り道を見つけなければならない。それは必然的にループ領域を大きくする結果になるが、前述のように電界はループ領域に正比例する。これは絶対やってはいけないことである。
さて、これは高速の信号が意図的にトレース上にある場合に問題になるだけだろうか? 答はNoで、このケースだけで問題になるのではない。高速の「ノイズ」が意図されなかったトレースに乗っていたかもしれないし、その「ノイズ」には依然としてリターンパスがなければならない。どんな信号トレースであっても電源プレーンやグランドブレーンの分割部分を横断することは良い考えではない。
3. 最後に…
これだけは覚えておいてほしい。ループ領域の制御はPWBレイアウトにおいて最も重要な点である。他のファクタも重要だが、ループ領域の制御を無視すると災難に見舞われることになる。このブログは、PWBレイアウトというトピックスに対する短い紹介にすぎないが、ループ領域の制御を覚えておけばゲームに勝ったも同然である。
2018年7月13日 by Ghery Pettit
著者紹介
Ghery S. Pettit氏はNARTE認定エンジニアで、Pettit EMC Consulting LLCの社長。Washington州立大学
卒業で、IEEEの終身シニア会員である。過去42年間、米国海軍、Martin Marietta Denver Aerospace、Tandem Computers、Intel Corporationに職を得て、EMC業界で長く活躍している。IEEE EMC Societyの元プレジデントで、現在は放送用受信機、IT機器、マルチメディア機器のエミッションとイミュニティ規格を担当するCISPR小委員会Iの議長も務めている。EMC試験所の設計および運営に携わり、さまざまなプロジェクトでEMC分析、設計、トラブルシューティング、試験サポートを実施している。またANSI C63.4、CISPR 22、CISPR 24、CISPR 32、CISPR 35など数多くのEMC規格の作成に貢献している。
連絡先:Ghery@PettitEMCConsulting.com