January, 22, 2025, 大阪--大阪大学、中野研究室は、元々は航空機に使われる金属などを研究する材料工学を専門としている。飛行機と生物の骨とでは大きく乖離があるように思えるが、突き詰めて考えれば骨も体をつくる材料のひとつ。しかも人工骨などによく用いられ、生物の体に馴染みやすいチタンは、航空機に多く使われる素材である。中野研が持つ材料への知識と、松垣准教授が研究してきた生物の分子機能に関する知見。それらを組み合わせることで、新たな人工骨の可能性を探ることが、同准教授のミッションとなっている。
超高齢社会となった日本では、人工骨へのニーズが年々高まっている。しかし現在の医療技術では、骨が欠損した場所を「埋める」という治療しか行えない。無機質に見えても、骨は体の一部。力がかかっていることを骨の中にあるセンサが感知して、破骨細胞や骨芽細胞が反応するなど、生命のサイクルの一部を担う「機能」を持っている。現行の人工骨でも失った骨の代わりに体を支えることはできるが、硬すぎて周囲の骨が痩せ細ってしまったり、神経や細胞と連携できないため体に馴染みにくかったり、といったデメリットもある。そういった問題を解決するために、松垣准教授は、体の中にある骨と同じような構造と強度を持ち、体全体のサイクルの中で正しく機能する人工骨を作ることをめざしている。
人の体に限りなく近い人工骨の開発に向けて、現在われわれが取り組んでいるのがチタン製の骨置換材料。材料に特殊な加工を加えると、正しい向き、密度で骨の細胞が並び、本物の骨に近い強度、機能を持った構造体が出来上がる。この土台の調整はナノ~マイクロメートル単位で行う必要があるが、それを可能にしているのが金属3Dプリンタ技術である。3Dプリンタを用いることで、これまで人が手間と時間をかけなければ行えなかった高度な材料作りを自動化できるとともに、より緻密な調整も可能になった。バイオマテリアルに3Dプリンタを使う、という発想はおそらく生物学の視点からは出てこないアイディア。材料工学を主戦場としてきた研究室だからこそ、生まれた技術だと感じている。
偶然が生む接点を、イノベーションのきっかけに。
化学から分子生物学、広報などの経験も経て、材料工学、バイオマテリアルの世界へ。松垣准教授の場合、こういった紆余曲折があったため、また計画通りに歩んできた道ではないからこそ、様々な分野の知識と経験が貯まり、つながりあって現在の研究に至っているのではないかと同氏は考えている。実はこの「予定調和的ではないつながり」が、「イノベーションを起こすためにはとても大切なのではないかと思う部分がある」(松垣准教授)。
(詳細は、https://resou.osaka-u.ac.jp)