AI時代のデジタルメディア信頼性確保へ：国際標準化に向けた重要文書の発表

　2025 年7 月11 日、WSC（World Standards Cooperation ／ 世界標準協力）が主導する国際的な多国間イニシアチブ「AI とマルチメディア真正性標準協力（AMAS：The AI and Multimedia Authenticity Standards Collaboration）」は、スイス・ジュネーブで開催された「AI for Good Global Summit」で、AI 技術の責任ある活用とデジタルコンテンツの信頼性確保に向けた重要な文書を２件、発表した。IEC（国際電気標準会議）、ISO（国際標準化機構）、ITU（国際電気通信連合）によって構成されるWSC の主導のもと、この文書は、世界的な誤情報、偽情報、そしてAI 生成コンテンツの悪用に対処し、将来のAI 統合を導くための指針となる。

●キーとなる２つの文書：技術的視点と政策的視点
　AMAS発表の２文書は、それぞれ異なる角度からデジタルメディアの真正性とAIに関する課題にアプローチしている。

– 技術文書(Technical paper)：デジタルメディアの真正性と人工知能に関する現在の標準と仕様の状況を包括的に概観。この文書は、既存の技術的枠組みを整理し、AI時代におけるデジタルコンテンツの信頼性を確保する基盤となる情報を集約したもの。

– 政策文書(Policy paper)：合成マルチメディアコンテンツの作成、利用、配布の効果的な規制に関して、国際標準をいかに活用すべきかについて政策立案者向けの具体的なガイダンスである。AI生成コンテンツが社会に与える影響が拡大する中、適切な規制とガバナンスの必要性は高まっており、この文書はその指針となることを目指している。

　この２文書を発表することで、情報の完全性を保護し、個人の権利を尊重し、デジタルエコシステムへの信頼を育むという共通の信念を再確認できる。目的は、創造性を阻害することなく、ユーザーがAI生成コンテンツや改変されたコンテンツの出所を識別できるような、堅牢な技術標準の開発を支援することにある。

●国際標準がAIガバナンスの鍵
　IEC副事務総長のGilles Thonet氏は、この取り組みの緊急性を強調し「国際標準は、安全で信頼でき責任あるAI開発のための指針を提供し、世界中の規制当局や政策立案者にとって極めて貴重なツールとなる」と述べた。また既存の標準をマッピングし、ギャップを特定することによって、透明性と人権を優先するシステムの基盤を築くことができると話した。
　またISO副事務総長のSilvio Dulinsky氏は、協調が重要であるとして「AI生成合成メディアが引き起こす課題を予防し、検出し、対応するための実用的で拡張可能なソリューションやツールが必要とされている。これらの文書は国際標準を活用して複雑さを解消し、実用的なガイダンスを提供することでグローバルな相互運用性を可能にする」と語った。
　さらにITU電気通信標準化局副局長のBilel Jamoussi氏は、政策立案者と規制当局の関連性を強調し「各国政府が合成メディアに関する新たな課題に取り組む中で、真正性と来歴を検証するための標準は、国際的な協調行動に不可欠な技術ツールとなるだろう」と話した。

●広範な協力体制と今後の展望
　今回の文書作成には、IEC、ISO、ITUといったWSCの構成組織に加えC2PA（Coalition for Content Provenance and Authenticiy／コンテンツ由来情報および真正性連合）、JPEGグループ、EPFL、Shutterstock、Fraunhofer Heinrich Hertz Institute研究所、中国情報通信研究院（CAICT）、DataTrails、Deep Media、Witnessなど、多岐にわたる組織が参加している。これによりわかるのは、デジタルメディアの信頼性確保が、特定の分野や組織に限定されない広範な協力が必要な課題であるということである。
　２つの文書は、AIに関するグローバルな議論を促進する重要なイベント「AI for Good Global Summit」で発表された。この発表は、2025年12月2日～3日に韓国ソウルで開催される「国際AI標準サミット」への地ならしとなる。このサミットでは、世界中の主要な関係者と専門家が一堂に会し、AIガバナンスの強固な基盤を築き、包括的で責任あるAI開発を促進するためのグローバル標準の作成を推進することが期待されている。
　AMASが発表した２つの文書は、AI技術が社会に深く浸透する中でデジタルコンテンツの信頼性と真正性をいかに確保していくかという喫緊の課題に対し、国際的な協調と標準化の重要性を改めて浮き彫りにしている。これにより健全な情報流通環境を構築し、AI時代の恩恵を最大限に享受するための道筋が示されたと言える。
　詳細はWACのウェブへ（2025/07/11）
https://www.worldstandardscooperation.org/what-we-do/amas/2025-press-release/

●２つの重要文書(Technical paper, Policy paper) のダウンロード：
https://www.worldstandardscooperation.org/what-we-do/amas/