アメリカ国立標準技術研究所(NIST) の研究チームは、世界で最も高精度な原子時計を開発し、新たな記録を樹立した。この「量子論理時計」は、電気的に帯電したアルミニウムイオンとマグネシウムイオンを組み合わせた独自の技術により、時間を小数点以下19桁の精度で測定可能である。
この時計は20年以上にわたる改良の成果であり、従来の記録を41%上回る精度と、他のイオン時計の2.6倍の安定性を実現した。高精度達成のためにレーザー、イオントラップ、真空チャンバーなど各構成要素の設計は綿密な見直しがあった。特にトラップの電場バランス調整や、背景ガスによるイオンへの影響を減らすためのチタン製真空容器の採用が功を奏している。
アルミニウムイオンは極めて安定した高周波の「刻み」を持ち、従来の秒の定義に用いられるセシウムよりも環境変化に強い。一方で冷却やレーザー制御が難しいため、マグネシウムイオンを「相棒」として組み合わせ、レーザーによる制御と状態読み出しを可能にする量子論理分光法を用いている。
さらに、NISTと共同研究機関JILAの超安定レーザーを用いることで、イオンの観測時間を従来の150ミリ秒から1秒に延ばし、測定時間を数週間から約1.5日に短縮した。これにより、国際的な秒の再定義に向けた取り組みが加速し、地球の重力測定や物理定数の変動検証など新たな科学的探求が期待されている。本研究成果は2025年7月に物理学専門誌『Physical Review Letters』に発表された。NISTは今後、複数イオンの同時計測や量子もつれの活用など、新たな時計技術の開発を進める方針である。
詳しくはNISTのWebへ(2025/07/14)
https://www.nist.gov/news-events/news/2025/07/nist-ion-clock-sets-new-record-most-accurate-clock-world