June, 1, 2021--見落としているかもしれないCoaXPress 2.0のメリットとは
ゼフ・フリーマン
CXP2.0は、12.5Gbpsのデータ転送速度を達成するだけでなく、新しい機能をマシンビジョンシステムにもたらす。
CoaXPress 2.0には複数の新機能が導入されているが、速度が向上すること以外のいくつかの特徴は、一般的なマシンビジョンユーザーにはあまり知られていないかもしれない。本稿では、CoaXPress 2.0の利点と、それが現在と未来のマシンビジョンシステムにどのようなメリットをもたらし得るかについて解説する。
CoaXPressは、蘭アディメック社(Adimec)、英アクティブ・シリコン社(Active Silicon)、米マイクロチップ/ エコロジック社(Microchip/Eqco Lo gic)、アバールデータ、米コンポーネンツ・エクスプレス社(Components Ex press)によって開発され、日本インダストリアルイメージング協会(JIIA)によって世界中に提供されているオープン規格で、AIAとEMVAによっても支持されている。主な適用先は、産業検査、医用イメージング、交通監視、ビデオ監視など、高速性、低遅延、長いケーブル、低消費電力を必要とする分野である。
CoaXPressは、BNC、マイクロBNC、またはHD-BNCコネクタ付きの標準的な75Ωの同軸ケーブルを伝送媒体として使用し、1本の同軸ケーブルでビデオ、カメラ制御、トリガが可能な唯一の規格である。また、24VDCで13WのDC電力を消費できる。CoaXPress 2.0のシステム(図1)に含まれるカメラには、高速イコライザ、リクロッカ、ケーブルドライバとともに小さなパッケージに統合された、マイクロチップ・テクノロジー社のトランシーバーSoC(System on Chip)が搭載されている。このカメラは、12.5Gb/sの最大速度で約125mWを消費する(速度がそれよりも低ければ、消費電力も低下する)。リンクの他端にあるフレームグラバーは、一般的には同じSoCを使用し、画像処理用のFPGAを搭載し、電力を制御及びトリガ信号とともにカメラに送信する。
図1 基本的なCoaXPress 2.0準拠のマシンビジョンシステムに含まれるカメラには、高速イコライザ、リクロッカ、ケーブルドライバが統合された、マイクロチップ・テクノロジー社のトランシーバーSoCが搭載されている。
CoaXPress 1.0は、6.25Gb/sの最大データレートをサポートする。その速度は、GigE Visionの約6倍で、USB3 Visionよりも40%高速である。データレートは、CXP-1(1.25Gb/sで最大210m)からCXP-6(6.25Gb/sで最大90m)までの複数の階層に分類されている。CoaXPress 1.0にはその後、ほぼ変更が加えられなかったが、2019年に発表されたCoaXPress 2.0により、CXP-10(10Gbps)とCXP-12(12.5Gbps)という2つの階層が追加された。どちらも65m以上の距離に対応し(米ベルデン社[Belden]の4731Rケーブルを使用した場合)、リピーターを使用すればさらに長い距離に対応する(表1)。
表1 CoaXPress 2.0で追加されたCXP-10(10Gb/s)とCXP-12(12.5Gb/s)は、どちらも65m以上の距離に対応する。
4リンクのCoaXPress 2.0フレームグラバーのデータ転送速度は50Gbpsで、GigE Visionの10Gbpsよりも高速である。8チャンネルのフレームグラバーカードを使用するか、4チャンネルのフレームグラバーカードを2枚使用すれば、100Gbpsを超える、さらに高いデータレートが達成可能である。この性能は、現時点のほぼすべての要件を上回っているが、将来的には必要となる可能性がある。また、CoaX Press 2.0ではリピーターを使用することにより、数百mの距離に対応することが可能である(図2)。
図2 この構成のようにリピーターを使用することによって、12.5Gb/sで動作するCoaXPress 2.0の最大距離を、元の40m(Belden1694 Aケーブルを使用する場合)から、さらに35m以上延長することができる。リピーターの数を制限するのは、最も遠いリピーターで使用可能なDC電力のみである。使用できるDC電力は距離とともに低下する。
CoaXPress 2.0によって最大データレートが2倍になれば、一定のデータレートを達成するために必要なケーブル数も半分に減少する。速度階層は、ケーブルインフラ全体を置換することなく、アップグレード可能である。同軸ケーブルは、外部導体によって本質的にシールドされているため、多くの動作環境(特に電気的にノイズが多い工場環境)に存在する、外部の電磁干渉(electromagnetic interference:EMI)源に対する耐性が高い。これによってCoaXPressは、医用イメージングなど、安全性とEMIの両方の観点から、イメージングシステムが意図的に処理システムから離れた場所に配置される用途で、使用することができる。
CoaXPressは、GenICam規格にも準拠する。GenICamは、アプリケーションの開発やコンポーネントのアップグレードを簡素化する、業界標準のAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)である。また、新しいGeneric Data Container(GenDC)規格にも準拠するため、1D、2D、3D、マルチスペクトル、メタデータといった、より複雑な画像も、CoaXPressによって送信することができる。
CoaXPress 2.0では、カメラの制御とトリガ用のアップリンクパスが、CoaXPress 1.0の20.8Mbpsから41.6Mbpsに倍増しており、遅延がさらに抑えられてトリガレートが増加している他、高速カメラによって、専用の高速アップリンクなしで、より多くのデータが処理できるようになっている。速度の向上により、ホストはトリガメッセージをはるかに高速に送信できる。シングルトリガメッセージモードで約600kHz、デュアルトリガメッセージモードで約300kHzのレートで、送信可能である。
マイクロチップ社のトランシーバーSoC「EQCO125X40」など、カメラとフレームグラバーに搭載されるチップセットは、動作前と動作中に、リンクのシグナルインテグリティを確保し、リアルタイムでケーブルマージンテストを実行することにより、ケーブルの摩耗とコネクタの切断を、簡単に検出できるようにする。この機能は、CoaX Press導入者によって主要な差別化要素としてとらえられている。
CoaXPress 2.0には、10GbpsのGigE Visionでは不要なフレームグラバーカードが必要で、特にマルチカメラシステムにおいては、それはコスト上のデメリットとなる。しかし、フレームグラバーがなければ、ホストPCのCPUが、すべてのデータのカプセル解除(deencapsulation)を実行することになる。カメラが300fps以上の速度で画像をキャプチャする可能性のあるマシンビジョンシステムでは、CPUの過負荷は深刻な問題である。CPUに追加の機能を実行させると、過負荷状態になって、データパケットの喪失が発生し始める恐れがある。CoaXPress 2.0は、確定的なインタフェースからのカメラ結果を同期するが、GigE Visionはそれを行わない。その結果、GigE Visionでは、ノードを追加したり帯域幅を共有したりすると、不安定な状態となり、遅延が比較的高くなる可能性がある。
高性能なネットワークインタフェースカード(NIC)を使用すれば、一部のGigE Visionベースのシステムの問題は緩和される。しかし、より高速な処理が求められる場合、NICは、フレームグラバーカードのコストの50〜80%にものぼる可能性があるにもかかわらず、フレームグラバーよりも画像処理能力は低い。つまり、フレームグラバーによって、システムの構成要素は1つ増えることになるが、それによってPCの負荷が軽減されると考えれば、そのコストに見合う価値がある。GigE Visionで、CoaXPress 2.0と同等の能力を達成しようとすると、より高性能なプロセッサとNICが必要である。
産業検査で一般的なマルチカメラシステムになると、問題はさらに深刻になる。例えば、カメラ4基のシステムによって、対象物の両側面と上面と底面を同時にキャプチャするには、フレームグラバーによって、各チャンネルを非常に正確にトリガする必要がある。カメラは、異なる速度や解像度で動作しているときでも、基本的にひとまとまりで動作する。アプリケーションソフトウエアとプロセッサによって、ユーザー定義の検査プログラムがデータに対して実行される。複雑なシステムの中には、最大32基のカメラを同時に使用するものも存在する。
GigE Visionシステムは、定義済みの画像取得に対して、まずまず正確な同期を行う。すべてのカメラが、Precision Time Protocol(PTP)に基づいて、所定の時間に画像をキャプチャできるためである。しかし、GigE Visionは、PCシステムからカメラへのリアルタイムなトリガには対応していない。CoaXPress 2.0では、複数のカメラを長距離にわたる堅牢な同軸ケーブルによって、単一のフレームグラバーに接続することが可能である。それぞれ異なる検査タスクを実行する、解像度やフレームレートが異なる複数のカメラを、単一のフレームグラバーに接続することができる。単一のカメラを複数のフレームグラバーに接続することも可能で、フレームグラバーは異なるPCに接続されていてもよいことを考えると、フレームグラバーを追加する価値はさらに高まる。
消費電力も、見落とされがちな問題である。GigE Visionの高い消費電力に対応するには、サイズが大きく発熱量も大きい部品で構成された電源が必要で、カメラの温度がかなり上昇する可能性がある。カメラセンサは温度に非常に敏感であるため、そのノイズは、画質の大幅な低下につながる恐れがある。
CoaXPress 2.0には、タイムスタンプ、エラー報告、データ共有といった他の機能も追加されている。Unified Time Stamping(タイムスタンプ統一機能)は、カメラ、ホスト、ソフトウエアからの報告イベントを、統一された時間基準に変換して、イベントの時系列管理を支援する。また、新しいイベントチャンネルには、露光の開始など、特定の内部イベントが発生した場合に、カメラからアプリケーションへの正確な通知を可能にする、データパスが追加されている(詳細についてはbit.ly/VSD-CXP-2を参照のこと)。
CoaXPress 2.0には、稼働中のリンク品質をユーザーに明確に示すための機能も追加されている。制御チャンネルは、制御パケットへのタグフィールドの追加によって改良されており、ホストとカメラがエラー状態から矛盾なく復旧できるようになっている。最後に、CoaXPress 2.0では、カメラが2つ以上のホストに同時にデータをストリームする際のデータ共有に関する規則が定義されている。
マシンビジョンは年を追うごとに、さらに多くのアプリケーションへとその適用範囲を拡大している。機械学習が視覚的検査においてさらに重要な役割を担うようになるのに伴い、その傾向は今後、ますます拡大する可能性が高い。CoaXPress 2.0は、それに向けた主要な実現要素の1つになると考えられる。
著者紹介
ゼフ・フリーマン(Zeph Freeman)は、米マイクロチップ・テクノロジー社(Microchip Technology)の車載インフォテインメントシステム事業部門に所属する、マルチギガビットソリューション担当製品グループマネージャー。