はじめに
2019年1月1日からEN 60601-1-2の第3版が廃止され、第4版が適用開始になった。
この変更は、以下の両者にとって電子機器のEMC試験へのアプローチ全体に影響すると思われる(既に影響はあるが)。両者とは、EMCエンジニアおよびメーカーである。本稿では、規格の旧版と最新版の全ての違いに加えて、この新しい規格を用いるEMC試験で好結果を得るための電子設計のヒントも紹介しようと思う。
1.メーカーよ、来たれ!
第4版を注意して読めば、メーカーが測定プロセスに深く関わらざるを得ないことに気づくだろう。それだけではなく、メーカーは測定作業全体に対して試験プランを作成し、試験ラボ(par.6.2規格参照)に試験プランを渡さなければならないので、もっと早くからアクションを起こす必要がある。だが、そうするためには測定と試験がどのように実行されるのか、よく理解しなければならない。規格を読み進めるとメーカーは多くの文書を発行し書面にするという重荷を強いられることがわかるだろう。取り上げる最初の文書はリスク管理ファイル(Risk Management File)で、これはプロセスの最終結果であり、リスク管理プロセス(Risk Management Process)を決定づけるものである。
実際には、この文書を書くのに有用となる具体的なガイドラインはない。さらに本稿では、この件に関するヒントをいくつか述べる。しかし、なぜメーカーが測定プロセスに深く関わるようになるのだろうか? その理由は、リスク管理ファイルに、例えば伝導RF イミュニティで通常の1 kHzの変調周波数を使う代わりに45 kHzを使うこと、と書かれている可能性があるからである。あるいは同じリスク管理ファイルに、EUTとRF無線通信機器の間の最小限の距離は30 cmではなくわずか10 cmである、と書かれているかもしれない。哀れなメーカーを支援するのは誰なのか?
2.コンサルタントよ、来たれ!
正直なところ、医用機器の試験プランを書く能力のある熟練したエンジニアがあなた方メーカー側に居るという可能性は、少なくともイタリアでは殆どないと言ってよいだろう。つまり、この状況はコンサルタントにとっては願ってもないドル箱である。メーカー各位には、この第4版に取り組むのに2つの方法があることを知っていてほしい。
【第1の方法】規格を読んで理解し、EMCおよび十分な設計実施について知識を得ること。
筆者は、主要な測定と試験から始めることを提案する。つまり伝導RFエミッションからサージに至るまで全てを学ぶと、製品がEMCラボの門をくぐった時にどういう義務を負うべきか、よくわかるようになる(「ここから入らんとする者はすべて希望を捨てよ(Abandon hope all ye who enter here)※」では、全く安心からほど遠い)。インターネットも活用してほしい。最近ではEMC試験についてのあらゆるヒントや説明がネットに掲載されていて、しかも無料であることが多い。
【第2の方法】コンサルタントを雇うこと。
世の中には、非常に高いスキルを持っていてメーカーを支援できる人が多くいるはずである。もちろん、コンサルタントは無料で仕事をしないが、自力で知識を獲得する場合と比較すれば、上市までの時間を短くできるだろう。
3.苦労なくして得るものなし:試験に関する主な違い
本題に戻ろう。規格の第3版と第4版の違いは何だろうか? イミュニティ・レベルは変わるのか? 耐性のある結合ポートはどうか? デバイスが車両に設置される場合は? ちょっと待っていただきたい。一度に1つずつ質問に回答していく。主要な違いをまとめたので、次の表を見ていただきたい。
要約すると:
・新版には多くの変更がある:
・規格は、ほぼ全部書き直されたと思ってよい。
・いくつかのイミュニティ・レベルは高くなった(例えば磁界が3A/mから30A/mへ)。近接無線イミュニティが追加された。
・いくつかのイミュニティ・パラメータと周波数が変わった(EFT/B周波数が5kHzから100kHzに変更された)
・患者に結合するポートに、もはや異なるタイプはなくF、BF、CFなどの古い定義は削除された。
・大型医用電子機器(Large ME Equipment)については、特別な章(8.6)で「現場での(“in situ”)」測定に関するヒントがいくつか与えられている。
・救急車、軽商業車、乗用車などの車両に搭載されるME機器については、ISO 7637-2(DC電源上のパルスだが、専門的な健康管理環境カテゴリ内のEUTには要求されない)に従って試験が規定され、エミッション試験にはCISPR 25を適用する。
[訳者注]
※ダンテの「神曲・地獄編」の引用。
2018年12月13日 by Claudio Stazzone
(その2へ続く)