Peter Thomas氏(PROFIBUS/PROFINETの専門家)とKeith Armstrong氏(EMCの専門家)の対談
対談実施:2017年12月/英文版掲載:2018年1月10日
Peter:先日、英国の工業用プラントを見学し、EMIの観点からいろいろな領域を見る機会がありました。下記について、ご意見を伺いたく思います。
EM(I 電磁干渉)の観点から見た、設置に関する先日のあなたの非公式レビューについて、いくつかの所見をリストにしました。このコメントは設置についての詳細な分析ではなく、観察に基づいた意見です。また可変速度ドライブ(VSD)のようなスイッチング機器は適切に制御されない場合、高いエミッションにつながる高いスイッチングレートになることを踏まえ、今後の改善という観点からもコメントしています。
1.船舶制御システム
これは、EthernetIP工業用イーサネット・プロトコルを使ってリモートIOと通信する産業用プログラマブル論理制御装置(PLC:Programmable Logic Controller)で構成されています。以下に観察結果を記します。
1.1:EthernetIPネットワークケーブルはシールドされていないように見えます。複数のVSDが含まれている環境では、これは驚くべきことです。RockwellはEthernetIPで使用する最適なケーブル選択についてアドバイスをしているが、通常オフィス環境や軽工業設置のみではシールドケーブルが推奨されています。
これが、よくある産業用イーサネットの一型式であるPROFINET設置の場合なら、シールドケーブルは必須だったでしょう。
Keith:よくあることですね。機器のEMC設置ガイドを読もうとさえしない、あるいは見積を取る際に最安値の見積を得るためにガイドを無視したりする人が多いのです。
例えば、優れたEMCやEMC設置ガイドを備えたVSDを生産している欧州の大手メーカーを知っていますが、その会社の営業マンでさえ中近東でVSDの見積を出す際、自社のEMCガイドを無視しているのを見たことがあります。取引成立のために値引きチャンスだったにもかかわらず!
多くのバイヤーは購入価格を重視しますが、所有コストも同時に間違いなく重要です。適切なEMCを犠牲にして低価格の購入が実現した場合、所有コストは圧倒的に重要となるほどです。結果的に購入したものが何であれ適切に動作しなかったり、全く動かないこともあるというのに!
また残念ながら、営業マンの多くは契約の正味の価格により手数料を得ているので、顧客のプロジェクトが赤字になったとしても営業マンには儲けが出ます!(販売員の多くは顧客の赤字など全く気にしません。それゆえ、会社を転々とする人が多いのです)
Peter 1.2:ドライブとモータの間のモータ・ケーブルのいくつかは、ケーブルのシールド両端で終端せず、少なくとも一方の端を接続させていないように見えます。これにより、他のシステムに影響する恐れのある高周波EMIがモータ・ケーブルから漏れ出ることになります。
Keith:もちろん、そうなってしまうでしょう! しかし、電気的な設置作業で最も重要なことは「グランド・ループ」を防止することであり、ケーブルのシールド両端を接続すると「グランド・ループ」が生じると、世界中で考えられています!
機器の設置ガイドに従うよう供給業者と顧客がお願いしているにもかかわらず、設置業者がシールドケーブルのシールド両端で終端するのを拒否したと聞いたこともあります!
(不適切な種類のケーブルやケーブルのシールド両端で終端しないなど)間違ったケーブル配線が供給業者にも顧客にも何百万ポンドの費用負担となった事例をいくつか知っています。設置業者は零細なところが多く、訴えられてもすぐに倒産してしまうため、業者から費用回収することは不可能でした。
Peter 1.3: 国際規格IEC 61000-5-2(EMC―接地と配線)は、敏感なケーブル間を水平方向と垂直方向で最低15 cm離すこと、単相電源ケーブル間は最低30 cm、三相では全長にわたって全てのポイントで最低30 cm離すことを推奨しています。ケーブルが交差する所では、配線を90度にします。この方法は実施されたことがないように思えます。
Keith:IEC 61000-5-2にも、1クラス以上隔てたクラスでは90度以上で交差し、互いに十分な距離を取ること、と書かれています。段階的支払いを採用する場合に最終的な支払い(供給業者/設置業者のプロジェクトでの全利益が含まれている事が多い)を拒否する主な理由は、新しいキャビネット/システム/設置によりEMIを生じたり被ったりすると、供給業者が自前で費用負担することになるからです。よくあることですが、こういった主張は全くのデタラメで、支払いの最終段階を遅延させる言い訳にすぎません。
しかしEMIの主張が有効な場合、我々のような独立コンサルタントが呼ばれて新しいキャビネット/システム/設置をレビューすると、供給業者/設置業者が深刻な法的トラブルに陥ったらすぐ何が起こったのか指摘する可能性は高いのです。
これは、IEC 61000-5-2:1997がシステム/ケーブル敷設および「アース配線」に関する英国の国家規格であるからで、英国の会社がこの規格を適用できるのにしなかった場合は、法的防御が非常に難しくなります!
根拠のあるEMIは、システム/設置のケーブル敷設や「アース配線」には全く関係がないとはいえ、EMI問題が究明され本当の理由が見つかるまでの間、誰が確信を持ってそう言えるのでしょうか?
また、EMI問題を解決する第三者専門家の費用を誰が払うかについて訴追されるのは供給業者/設置業者です。法務チームにも支払いをしなくてはならず、待ち望んでいる収入をもたらす新プロジェクトに関わる代わりに、シニアエンジニアたちがこの問題と闘うのに手一杯の場合、費用を負担する余裕はないでしょう!
こうして事はたやすく「最悪の事態」となり、借金体質の会社はすぐに破産してしまいます(銀行がこの問題を耳にしたら、可及的速やかに担保権を行使し金融リスクを最小限にするはず)。ある会社の重役達の財産が会社が破産寸前になるまで目減りするのを実際に見たことがあります。
年功序列を冷遇する人たちによって会社がそのようなリスクにさらされていることを考えると、節約して数ポンドを貯めれば重役が感謝するとでも思っているのでしょうか! 自分たちが何をしているか理解しているはずの従業員によって会社が瀕しているリスクを重役達が単に知っているだけなら、従業員を即座に解雇することでしょう!
「見てみぬふりをすること」という大きな問題は、技術畑の人は財務リスク管理について知らされず、管理職は技術について何もわからない(あるいは忘れてしまった)ということなのです。
その結果、IEC 61000-5-2: 1997を完全に適用しないことでわずか数ポンドを節約して会社そのものを危険にさらすことに価値があるかどうか、有意義な話し合いをすることは不可能になってしまう会社が多くなります。
もう1つの問題は、法的告訴によって罠にはめられるまで、多くの人は「法律」が公平であろうとすると思いがちなことです。
しかし実際には、弁護士が関与したとたん、基本的な常識や「誰もが知っていること(例えばオームの法則)は消え失せてしまいます。
現実的に言えば「法律」とは、裕福な人たちが過去何世紀かにわたってやってきた所業よりは残酷ではない程度の、人を騙す方法と言えます。結果は過去と同じであり、何が公平で何が正しいのか配慮せず、誰が大きい棍棒(つまり高額の法務チーム)を持っているかのみが問題にされます。全て実際にあったことです。まったくひどい話です! 実際、自分たちは極めてドライで自嘲的かつ世を拗ねている存在だと考えているエンジニアにとってさえ、これはとても不快でうんざりすることなのです。