ニュース 詳細

リターンプレーンのギャップは妨害波の増加を招く

 プリント回路基板(以降PCBと表記)設計での最善のシグナルインテグリティ(SI)およびEMI性能の実現方法の細部については、現在SIエンジニアとEMCエンジニアの間で議論が続いている。中でも、グランドリターンプレーン内のギャップまたはスリットの設計は、常に取り上げられるトピックである。銅にギャップを発生させるコネクタや他の部品の追加のせいで、誤ってギャップができてしまう場合もある。実際、私が設計審査をするときに最初に探すものの1つは、グランドリターンプレーンの不用意なギャップの有無である。これはPCB設計時の非常に重要なコンセプトなので、EMIの重要性を示す短い動画を撮影した。もちろん、デジタル回路と高感度アナログ回路を分離する必要がある場合にリターン(および/または電源)プレーンを分割する正当な理由がある。しかし、ほとんどの場合、分割していないリターンプレーンの方が良い選択である。高い周波数のクロックトレースまたは他の速いデジタル信号がこれらのギャップの1つを横切るときに問題は起こる。この問題については、多くの他の文献がある(詳細については末尾の「参考文献」を参照)。ここでは、EMIの観点から見た場合に、何がどう悪いのかを説明したい。
 Smith氏とBogatin氏両人による明確な考察に加えて、ディファレンシャルモードからコモンモードへの「モード変換」もあり、これが以下2つのまずい状況を引き起こす。

1. コモンモード電流が発生し、それが高調波ノイズ電流を作り出し、PCBとケーブルの共振に関連した放射エミッションの原因になる。
2. ギャップによって、通常はクロックトレースと下にあるリターンプレーンの間の誘電体内に閉じ込められている電磁界がPCB全体を「包み込む」ようになり、近くにある他のトレースと結合してクロス結合ノイズまたはクロストークの原因になる。

 Smith氏が考案した実験的なPCB に基づいて単純な実験を開始した。基板は、銅被覆ボードに2本の導線をテープで固定した構造である。これは回路トレース(約50オーム)を模擬していて、トレースの片端を抵抗負荷49.9 Ωで終端し、他の一端を基板に取り付けたBNCコネクタのセンターピンに接続した。トレースの1本にはリターンプレーン内に4 cmのギャップがあり、他のトレースにはギャップがない。

 実験は下記3つのパートで構成されている:
1. リターン経路内の電磁波の経路の追跡と観察(ギャップありとギャップなしの両方)
2. ギャップのある方のトレースに励振した場合、励振していないトレース内のクロストークを観察
3. ギャップのある側のトレースに励振した場合、I/Oケーブルを模擬した基板のリターンプレーンにクリップで接続したケーブルに流れる高調波電流を観察

 基板はApplied Electromagnetic Technology(AET)社製のUSBで動作する高調波コムジェネレータで励振されるが、これは基本的にパルス端が高速で変化するパルス発生器である。パルス発生器は、順次各々のBNCコネクタに接続され、高周波電流の経路追跡にBeehive Electronics社製の磁界プローブを用いる。

 要約すると、リターンプレーンのギャップ上にあるトレースが高速エッジの信号伝搬経路になっている場合、放射エミッションとクロス結合ノイズの両方の原因になる。ギャップを使わなければならない場合は、ギャップ全体と高速信号トレースの近く(本当はトレースの両側に追加するのがベスト)にステッチング・コンデンサを追加すればリターン経路を制御できる。今まで述べてきた影響をデモした短い動画を最近作成した。これを社内で共有すれば簡単に実験を始めることができる。

著者作成の短い動画はこちら

[参考文献]
1. Eric Bogatin, Impact of Return Path Discontinuities in High Speed Serial Links.
http://bethesignal.com/wp/wp-content/uploads/2014/01/PPT-240_Return_Path_Issues_-MGB_Interconnects.pdf
2. Doug Smith, Crossing the River: The hazards of crossing a split-plane gapwith a high speed signal, 2008.
http://bethesignal.com/wp/wp-content/uploads/2014/01/PPT-240_Return_Path_Issues_-MGB_Interconnects.pdf
3. André and Wyatt, EMI Troubleshooting Cookbook for Product Designers,SciTech Publishing, 2014, page 31.
https://www.amazon.com/Troubleshooting-Cookbook-Product-Designers-Electromagnetic/dp/1613530196/ref=sr_1_1?

図1.I/Oケーブルを模擬したコモンモード電流測定実験に用いたPCBと周辺のセットアップ
図2.ギャップがある方のトレース周辺のリターン経路追跡。電磁波の電流は、ギャップ周辺の全ての場所で測定される(写真のトレースの下側)。
図3.ギャップがあるトレースを励振して、リターンプレーンに接続しI/Oケーブルを模擬したケーブルの高調波電流を電流プローブで測定する。図の下側のトレースで、高調波電流は基板およびケーブルの組み合わせによる共振周波数で最大になる。

2017年1月26日 by Kenneth Wyatt