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東工大、ピコ秒レベルで変化する有機結晶の構造の撮影に成功

April 19, 2013, 東京--東京工業大学 大学院理工学研究科、恩田健流動研究員と同研究科の腰原伸也教授は、有機光エレクトロニクス材料の中で起きる分子の移動や変形を、2兆分の1秒の時間分解能(撮影間隔は10兆分の1秒)を持つ電子線を用いた直接的な結晶構造解析法(分子動画)により明らかにした。これは、JST課題達成型基礎研究の一環。
これまで、柔軟性を持つ有機分子で、超高速に起こる構造変化の直接的観測手段は、100億分の1秒程度までしかなく、新しい光反応物質の開発や光生物学的な現象解明の妨げになってきた。
研究グループは、「超短パルスレーザ」と「高輝度超短パルス電子線」を組み合わせた分子動画技術を新たに開発。超高速光スイッチ材料として近年注目されている有機電荷移動錯体結晶(EDO-TTF)2PF6について、光を照射した時の結晶内での分子の変形や移動を直接的に明らかにした。これは、有機光エレクトロニクス材料の超高速な結晶構造変化を動画技術で直接観測した初めての例。また、ここで用いた小型の分子動画技術は、有機光エレクトロニクス材料のみならず、人工光合成など有機物からなるさまざまな新規材料や、たんぱく質など有機生体機能分子の機能解析・新材料設計にも新たな道を切り開くものになると考えられる。
(EDO-TTF)2PF6は、室温では結晶のある特定の方向にだけ良く電気を流す金属的性質を示す。この物質を7℃(280K)以下まで冷やすと、電子(正孔)(「電荷」)並びに構成分子間や分子内に働くさまざまな相互作用により、絶縁体的性質を示すようになる。
研究グループのこれまでの研究により、低温に冷やして絶縁体となったこの物質に10兆分の1秒という短い間隔の光を照射すると、劇的な色変化が起きること、そしてその後100億分の1秒ぐらい経ってから、結晶を室温に置いた時に得られるのと同じ金属的な状態に戻ることが分かった。しかし、その起源であるはずの電荷の動きと、結晶や分子の構造変化の関連についての情報は分かっていなかった。
今回の研究では電子線回折法に挑戦。電子は粒子と波の二重の性質を持ち、高速で移動する電子は原子レベルの短い波長を持つ波としても振る舞う(この特性の利用技術の1つが電子顕微鏡)。高速の電子線を結晶に照射すると、電子の波は回折現象を示し、この回折線の進行方向と強度を調べることにより試料の結晶構造を明らかにすることができる。これが電子線回折による結晶構造解析の原理。この手法は、X線(超短波長電磁波)を用いた構造解析技術との相似性を持ちつつ、電子顕微鏡技術と極めて親しい関係のある、原子レベルの構造を明らかにするための観測手法。また電子線は、電子線のエネルギーが決める分解能の限界などいくつかの点で劣るものの、回折線強度は非常に強いという利点を持っている。このため、有機結晶の超高速構造変化の観測に成功すれば、X線技術との相補性、電子顕微鏡と同様に装置が小型化でき持ち運びもできることから、さまざまな有機材料開発への利用が期待される。実際に製作された装置は一般の実験室に十分収まる大きさ。
ここで、試料に照射する電子集団(電子バンチ)の時間幅を十分短くできれば、超高速で原子レベルの結晶構造解析が可能となる。開発した装置では、10兆分の1秒以下の超短パルスレーザ光を金(Au)の薄膜へ照射し、その表面から放出された電子バンチをさらに特殊な圧縮器(RFキャビティ)で圧縮することにより、試料に照射する電子バンチの時間幅を10兆分の1秒程度に抑えた。この電子バンチを、100nmまで薄く切った(EDO-TTF)2PF6結晶へ照射し、透過してきた電子の回折パターンをCCDカメラでとらえることにより回折像を得た。一方、試料を励起するための光は、電子バンチ生成に用いたレーザ光の一部を分けて用いた。ここで、電子バンチとの時間差を任意に制御することにより測定を行った。この測定装置における時間分解能は0.4p。この装置により得られた回折像とシミュレーション計算の比較検討により、結晶構造がどの様に時々刻々と変化するかを明らかにした。
その結果、従来の光による測定で明らかになっていた電荷分布変化と同じ時間スケールで構造変化が起きることが確認され、その詳細も明らかにすることに成功した。このように有機結晶で、電荷変化と構造変化を同じ時間スケールで観測した例はこれまでない。この結果から、機能に関わる成分の一部を変化させた材料を作るという指針で、光スイッチの速度を変化させられる可能性が判明し、現在研究グループでは新材料を目指した研究を始めている。
今回の研究成果は、超高速光スイッチング材料の探索やその応用のための基礎となるばかりでなく、同様な有機結晶からなるさまざまな有機光電素子の動作を理解し、新しい材料を開発する指針となる。今後は有機発光素子、有機太陽電池、有機トランジスターなど有機物を用いた電子デバイスの動作原理や、光触媒、人工光合成などの光エネルギー変換の過程などを明らかにする研究への応用が期待される。さらに測定装置は、比較的小型であるため実験室レベルで設置、測定できるという利点を持っている。そのため今後、操作性が向上すれば市販化され、大学、企業を問わず多くの研究室へ普及することが期待される。
研究は、カナダ・トロント大学(ドイツ・マックスプランク研究所 兼任)のR.J.D.ミラー教授のグループ、京都大学の矢持秀起教授のグループ、名城大学の齋藤軍治教授との共同研究により行った。
 研究成果は、2013年4月18日(英国時間)発行の英国科学誌「Nature」に掲載。

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