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テラヘルツ光で電気分極の量子波の観測に成功

February 20, 2013, 仙台--東北大学 大学院理学研究科(岩井伸一郎教授、石原純夫教授)、東北大学金属材料研究所(佐々木孝彦教授)、情報通信研究機構(NICT)未来ICT研究所(齋藤伸吾主任研究員(当時)、寶迫巌所長)で構成される研究グループは、有機分子でできた誘電体において電気分極の集団が波として伝わる新しい粒子(準粒子)を発見した。
さらに、100フェムト秒(fs)という極めて短い時間幅の光パルスを用いて、この準粒子を増殖させることに成功した。この結果は、今後、光の照射によって通常の絶縁体を強誘電体に変えること(光誘起強誘電性)や誘電性と磁性の同時制御(オプトマルチフェロイクス)などへの展開が期待される。
研究では、テラヘルツ光(1THz)程度の遠赤外線のパルス光(パルス幅~1ps)を用いて、電気分極の集団応答による準粒子を捉えることに成功。使用した物質は、有機パイ電子系の誘電体κ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3。テラヘルツ時間領域分光によって測定された光学伝導度スペクトルは、1THz付近に特徴的なピークを持つ。このピークは、これまでに電気的な測定によって得られた電気分極の温度依存性や、理論的に予測される準粒子の光電場の振動方向に対する依存性との一致から、電気分極の集団が、波として一糸乱れずに伝わっていく新しい準粒子によるものであることがわかった。通常この周波数領域にみられるのはフォノンによるピークであるが、それに比べるとはるかに幅が広く、しかも中央部に、フォノンとの量子力学的な相互作用(干渉効果)を示す大きな窪みが見られる。
さらに、この新たに見つかった準粒子が、近赤外光の照射によって増殖することを発見した。このことは、電気分極が、近赤外光の照射によって秩序化することを意味する。温度を下げると、電気分極の準粒子によるテラヘルツ応答の強度は増大し、低温で準粒子が増殖する、すなわち電気分極が秩序化している領域が大きくなり電気分極集団のドメインとして成長することを示している。近赤外のフェムト秒パルス光をこの物質に照射した場合でも、準粒子によるテラヘルツ応答は増大することがわかった。光の照射によって電気分極の集団が実効的に冷却され、温度を下げた場合と同様にこのドメインが成長する。「この点は、注目に値する」と研究グループは説明している。
光の照射によって物質の電子の秩序が変化する現象は、光誘起相転移と呼ばれ、将来の超高速光スイッチ応用などへの期待から精力的な研究が世界中で行われている。通常、光の照射は電子の有効温度を上昇させるため、秩序を融解させるが、今回観測された準粒子の光増殖は、逆に光照射によって電子を冷却し、秩序を成長させることが可能であることを示した。
このような特異な現象は、κ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3の電子が、柔らかくフレキシブルな性質を持っていることに由来する。理論的な解析により、このκ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3は、2つの異なる秩序状態が接する境界付近にあるため、電子が柔らかな状態にあることがわかってきた。この電子のフレキシブルな性質が、テラヘルツ光やフェムト秒光パルス光の刺激で増強され、電気分極集団の波(準粒子)としての振る舞いや秩序の増大などのこれまで知られていなかった光応答を導いていると考えられる。
“電子型誘電性”は、原子やイオンの変位を起源とする従来的な誘電性とは本質的に異なった原理による新しいタイプの誘電性。そこでは、従来の誘電体には見られない、光を用いた電子(電荷とスピン)の複合した秩序(マルチフェロイクス)の新しい光、テラヘルツ応答現象の開拓や将来の超高速光メモリへの応用が期待される。今回発見された、光による分極集団の冷却(秩序の増大)は、強誘電性だけでなく、超伝導や強磁性などの多重な秩序を光で制御する“超高速オプトフェロイクス”の開拓へつながることが期待できる。
(詳細は、Physical Review Letters on line)

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