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ダイヤモンドLEDを使い、単一光子室温発生に世界で初めて成功

April 17, 2012, 大阪--JST 課題達成型基礎研究の一環として、大阪大学の水落憲和准教授と産業技術総合研究所の山崎聡主幹研究員などのグループは、人工ダイヤモンドを用いて室温で電気的に単一光子を発生させることに世界で初めて成功した。
量子暗号通信は理論上、どのような技術でも盗聴できない究極の通信技術として期待されており、世界的にも多くの企業が研究開発を行っている。この実現には、情報を載せる光子の1個1個を必要なときに簡易かつ確実に発生させる単一光子源が求められている。これまでの量子ドットや有機分子を用いた単一光子源は、室温では不安定でほとんど光らなくなるため、極低温での冷却が不可欠。また、室温で単一光子を発生できても、光励起のためのレーザが必要なものしか実現されていない。このため、エネルギーやコストの制約が単一光子源の実用化・普及の課題となっていた。
研究グループは、ダイヤモンドを材料とし、そこに埋め込まれている炭素原子の抜け穴と窒素原子の複合体(NV中心)が室温でも安定に発光することに着目し、単一光子源として用いて、電流で動作させることに挑戦。高度な製造技術によって高品質ダイヤモンドの薄い発光層をn層とp層で挟み、発光層に電気が流せるLED素子を作製した。さらに、光子相関法などの精密な測定法により、単一光子源として世界で初めて室温で電気的に動作していることを実証した。
世界トップレベルの技術の融合により、単一光子源で課題となっていた、極低温やレーザを使用する際の問題を克服し、量子暗号通信の省エネルギー・低コスト化への道が開かれた。今後、素子の集積化によって、システムの高速化や効率化が進み、実証実験を経た近い将来には、国家機密の通信や個人情報に関わる秘匿通信などへの利用が期待される。
また、NV中心には優れたスピンの機能がある。これは今回の成果が量子暗号通信にとどまらず、将来的には室温で電気的にスピンや光を操作して演算や記録を行う量子コンピュータや量子計測などで必要な素子の実現にも貢献する可能性を示している。
1つのNV中心のみを観測するためには、不純物のない極めて高品質なダイヤモンド(i層)にNV中心が埋め込まれていることが必要だが、ダイヤモンドは不純物(ドーパント)がないと絶縁体であるため電気が流れない。今回、高品質ダイヤモンド(i層)を、リンをドープしたn層とホウ素をドープしたp層で挟んでpin構造の素子を作製することにより、i層に電気を流せるようにした点が重要。自作の共焦点顕微鏡装置を用いることにより、1つ1つのNV中心を光学検出すると、電流注入による単一NV中心からの発光も光励起と同じ単一NV中心から光っている様子が見て取れる。光子相関法によるアンチバンチングの観測から、単一のNV中心からの発光であることが証明され、単一光子源として動作していることが示された。
今回の成果は、室温でも安定に発光するダイヤモンド中のNV中心に着目し、産業技術総合研究所の高品質ダイヤモンド半導体合成技術・デバイス作製技術と、大阪大学のNV中心を1つ1つ観測する技術を用いることにより得られた。
この成果によって、極低温などの制限のない室温で、しかもレーザでなく電気を用いた単一光子源の動作が実証されたことで、省エネルギー・低コストの素子の集積化に道が開かれた。今後の展開について研究グループは、「さらなる通信速度の高速化やより確実な1つ1つの光子発生の制御に向け、ドーピング条件、素子作製プロセス工程、素子構造の最適化により、電気的特性、光学的特性の改善を図っていく」としている。
また、光ファイバを用いた量子暗号通信の長距離化には発光波長を通信波長帯の波長(1.5μm帯)に変換にする必要性が考えられるが、その場合は、近年実現している量子波長変換素子により、量子情報を保持したまま波長変換が可能。既存の量子暗号システムの高速化や効率化が進み、実証実験を経ることで、近い将来、国家機密の通信や個人情報に関わる秘匿通信などへの利用が期待できる。

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