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慶応大学、有機薄膜表面電子の光励起寿命をリアルタイムで計測

March 28, 2012, 東京--慶應義塾大学 理工学部化学科の中嶋敦教授の研究グループは、有機薄膜を塗布した金電極に、光を照射した時に起こる「光誘起電荷分離現象」を、リアルタイムに高精度で観測することに成功した。これは、JST課題達成型基礎研究の一環として行われた。
有機薄膜の1つである、アルカンチオールの自己集積化単分子膜(SAM膜)は、今後実用化が期待されるナノクラスタ(原子や分子が集合した超微粒子)を用いた光電子デバイスに必須の絶縁中間層材料の代表例として有望視されている。この中間層は、電極とナノクラスタを接着するだけではなく、電極で発生して中間層表面に移動した光励起電子の寿命を長くして、光エネルギーを効率的に取り出すなどの重要な役割を持つ。この中間層の設計には、中間層の構造を精密に制御する技術と、光励起電子の寿命の計測技術が必要だが、これまでこうした制御・計測技術の精度が十分でなかったことから、ナノクラスタ・デバイスを構築するための信頼できる指針は確立されていなかった。
この研究では、「金+アルカンチオールSAM膜構造体」の光誘起電子励起現象を、さまざまな厚みのSAM膜について2光子分光測定法を用いて計測し、光誘起励起のメカニズムを調べるとともに、光誘起励起過程を積極的に制御する可能性を探った。
実験では最初に、金電極をアルカンチオール水溶液に浸漬して、SAM膜を形成。SAM膜を構成するアルカンチオール分子は、分子鎖の端に硫黄原子を持ち、これがアンカーとして働いて金基板に強く結合する。この時に分子鎖が垂直に近い形で金表面上に立った構造(Stand-up構造)を取るため、分子鎖の長さを制御することで、SAM膜の厚みを制御することが可能。実験では、アルカンチオール分子の炭素数が10~18の範囲でさまざまな厚みのSAM膜を形成した。
次に、作成した試料に対して光電子分光測定を行った。2光子分光測定のポンプ光およびプローブ光には、エネルギーがそれぞれ4.23eV(波長293nm)、1.41eV(同880nm)の超短パルス光を使用。光誘起電子励起現象の時間推移を調べるために、ポンプ光の照射からプローブ光の照射までの時間(遅延時間)を-0.12psから180psまで変化させながら、SAM膜表面から放出される励起電子のエネルギー分布とその強度を、光電子分光測定装置で観測。デバイスとして実用可能な温度範囲を調べるために、実験は、室温と90K(-183℃)で行った。

実験結果
・励起電子の寿命は100ps以上ある ― 単分子膜(SAM膜)の高い絶縁性を実証
・励起電子の寿命はSAM膜の厚さによって精密制御が可能
今後の展開について研究グループは、「この成果に基づいて、アルカンチオールを含む薄膜材料の分子修飾による新しい機能の付加や、種々のナノクラスターとの組み合わせなどを工夫することによって、太陽電池や波長変換素子、光トランジスタ、光センサなどの新たなナノクラスター・デバイス開発を加速していく」としている。
(詳細は、www.jst.go.jp)

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