All about Photonics

Home > News > News Details

News Details ニュース詳細

京大、強電場パルス照射により、半導体の自由電子数を1千倍に増幅

December 26, 2011, 京都--京都大学物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)の廣理英基助教と田中耕一郎教授の研究グループは、ごくわずかな時間にエネルギーが圧縮されたフェムト秒レーザとニオブ酸リチウムの結晶を用いて1MV/cmという世界最高電場強度のテラヘルツ(THz)光を発生させることに成功した。さらに、このテラヘルツ光を半導体に1兆分の1秒という短い時間照射するだけで、半導体の中の電気伝導を担う自由電子の数を約1000倍に増幅することに成功した。
実験にもちいた半導体試料は広島大学との共同研究により作製。これにより、例えば、超高速動作の光検出器やそれを制御する超高速トランジスタなど、THz領域で動作する新しい超高速半導体デバイスの展開が期待される。さらに、キャリア増幅が高速高倍率であることから、高効率な太陽電池・発光素子の開発などにも、新たな指針を与えるものと期待される。
研究では、電場振幅として最大約1MV/cmを有し、また時間的には約半分の周期(約1兆分の1秒間)だけ持続する電磁波パルスを自由空間内に発生させることで、試料内に実際の半導体デバイスを駆動するのに必要とされるものと同程度の電場を自由自在に試料に照射することができるようになった。実際に、この電磁波パルスを半導体試料(GaAs/AlGaAs多重量子井戸)に照射することによって多段的な衝突イオン化を誘起し、1兆分の1秒の間に初期キャリアの約1000倍にも及ぶ巨大なキャリアの増幅に伴う、試料からの発光の観測に成功し、従来金属電極を必要としたキャリア増幅現象を純光学的な手法によって観測することが可能になった。
電磁波パルスは、超短光パルスレーザを誘電体結晶に照射することで発生できるTHzパルスで、その周期はテラヘルツ周波数(1012Hz)の逆数である10-12秒(1兆分の1秒)に対応。THzパルスの最大電場値1MV/cmは世界最高値。このような高い電場を有するTHzパルスを用いることで、試料内に実際の半導体デバイスを駆動するのに必要とされるものと同程度の電場を生じさせることができる。
THzパルスで発生させた発光スペクトルは、可視光パルス励起(3.18eV)によって観測した発光スペクトの形状は一致。一般的には半導体からの発光を観測するためには、試料のバンドギャップエネルギーよりも大きな光子エネルギーを持つ光照射によって、価電子帯にある電子をバンドギャップエネルギー以上の電子状態に励起する必要があるが、今回実験で用いたTHzパルスの持つ光子エネルギーは約4meVであり、バンドギャップエネルギー(1.55eV)の1/390という小さな光子エネルギーに相当。このことから、極端に小さな光子エネルギーで電子をバンドギャップエネルギー以上の電子状態に遷移させたことを意味し、試料内で極めて顕著な非線形現象が誘起されていることを示唆している。
これらの現象が起きるメカニズムとして、「THzパルス照射によって試料内で衝突イオン化過程が誘起されている可能性が高いと考えられる。強電場によってバンド内で加速された電子がバンド間エネルギーよりも高い運動エネルギーを持つとき、価電子帯の電子を伝導帯に励起して電子と正孔を生成し、自身はエネルギーを失い低いエネルギー状態へと遷移する。この過程ではキャリア数を増大させることができるため、この衝突イオン化過程が1兆分の1秒という超短時間の間に多段的に引き起こされることによって、初期キャリア数が約1000倍増大させることができたと考えられる。またこのモデルを基にした理論的な計算結果ともよい一致を示すことがわかった」と研究グループは説明している。
また、このような現象の応用としては、「ピコ秒(ps)もしくはテラビット(1012bit)の光信号に対して応答する超高速動作の光検出器やそれを制御する超高速トランジスタの開発につながることが期待される。さらに、キャリア増幅が高速高倍率であることから、高効率な太陽電池・発光素子などの開発にも、新たな指針を与えるものと期待される」と研究グループは説明している。
(詳細は、www.jst.go.jp)


製品一覧へ

関連記事

powered by weblio





辞書サイトweblioでLaser Focus World JAPANの記事の用語が検索できます。

TOPへ戻る

Copyright© 2011-2013 e.x.press Co., Ltd. All rights reserved.