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光子レベルの分解能を持つ超高感度テラヘルツ波センサを開発

November 12, 2009, 和光--理化学研究所は、ナノテクノロジーの代表的な材料であるカーボンナノチューブと、携帯電話にも使用される高移動度半導体GaAs/AlGaAsを組み合わせ、電磁波の最小単位である光子(粒子)を数個のレベルで捉えることができる、超高感度テラヘルツ(THz:1012Hz)電磁波の検出器の開発に成功した。基幹研究所石橋極微デバイス工学研究室の河野行雄専任研究員の研究成果。
テレビやラジオ、携帯電話などに使用される電波から可視光、X線、ガンマ線に至るまで、幅広い周波数にわたって広がる電磁波帯域の中で、THz電磁波の領域は、発生や検出の技術の開拓が十分に進んでいない未踏領域。特に検出技術は、ナノレベルで制御したTHz半導体レーザが実現している発生技術に比べると、進展が不十分で、高感度化の実現が達成できていないという大きな課題を抱えていた。
近年になり、物質中の電子、生体系高分子、天体系星間物質などから発する極微弱なTHz電磁波の検出が、物質の新現象・新機能の発見、生命活動や宇宙創生の謎の解明につながると注目を集めている。さらに、X線を用いて物質や生体内部を観察するレントゲン写真に代わる画像イメージングとして、放射線被ばくの恐れがなく安全とされるTHz電磁波の透過あるいは反射を活用した技術の開発が、新たな産業・医療への応用に向けて模索されている。そのため、高性能な高感度THz検出器は、重要な基盤要素技術として、開発が求められていた。
研究チームは、カーボンナノチューブと、高移動度半導体GaAs/AlGaAsというユニークな組み合わせで、電磁波の最小単位となる光子レベルの分解能を持つ超高感度なTHz検出器を開発することに成功。高移動度半導体でTHz電磁波を効率よく吸収し、カーボンナノチューブで高感度に信号を読み出すという新しい機構を考案・実証したことで、開発が実現した。
今回開発した高感度THz検出器は、物質・生命の源の探求といった基礎科学だけでなく、THz画像技術などの応用分野でも大きな威力を発揮すると期待される。
テラヘルツ領域は、これまで、電波領域と光領域の間に挟まれた手付かずの「暗黒領域」と見なされ、光源や検出器など基本的な要素技術すら未開拓だったが、近年、物質中の電子、生体系高分子、天体系星間物質などから発する極微弱なTHz電磁波の放射検出が、物質における新現象・新機能の発見、生命活動や宇宙創生の謎の解明につながると注目を集めている。さらに、レントゲン写真と同様の画像イメージングに、X線ではなくTHz電磁波を活用する技術の開発が、防犯や医療分野での実用化に向けて活発に進んでいる。このように、新現象の発見や謎の解明、新技術の開発が期待できることから、THz電磁波の応用技術には世界中から熱い視線が寄せられている。どの分野への実用化に向けても、THz電磁波を高感度に検出することが必須となるため、高性能な高感度THz検出器の開発が求められていた。
高感度THz検出器の開発は、従来技術の単なる延長では困難とされていた。その大きな理由は、THz電磁波を波として見ると周波数が高すぎ、光(粒子)として見るとエネルギーが低すぎることにある。THz電磁波が、このような中途半端な性質を持つため、検出器開発には、新しいアイディアやデバイス構造を盛り込む必要があった。
現在市販されているTHz検出器で、よく使用されているのはボロメータ。このボロメータは、THz電磁波を受光すると素子の温度が上昇し、それを電気抵抗の変化として読み出す。そのため、温度上昇からいかに大きな電気抵抗変化を取り出すかが重要になるが、一般にその効率は低く、必然的に感度があまり高くない。
研究チームは、高電子移動度半導体による基板上に、カーボンナノチューブによるトランジスタを搭載するという、まったく新しい構造を基に、THz検出器を開発した。この検出器は、高電子移動度半導体でTHz電磁波を効率よく吸収し、カーボンナノチューブで高感度に信号を読み出すという機構を取る。THz電磁波の吸収部は、高電子移動度半導体の特性である散乱の少ない高い電子移動度を有するために、THz電磁波を効率よく吸収する。また、検出信号の読み出し部は、単電子トランジスタという電子1個の動きでも判別可能な超高感度を有している。この単電子トランジスタの材料としてカーボンナノチューブを用いており、その極微細な構造から高い温度での動作が可能となる。THz吸収と信号読み出しという2つの重要な役割をそれぞれの材料へ分担したことで、電磁波の最小単位である光子(粒子)を数個のレベルで捉えることが可能になった。これらの組み合わせによって、ボロメータよりも数桁も高い感度でTHz電磁波を検出することが可能になる。
作製した素子に強度約1nW、周波数1.6THzのTHz電磁波を照射しながら、カーボンナノチューブを流れる電流を測定した。トランジスタのゲート電圧に対する電流の依存性を測定した結果、THz電磁波を照射すると、電流ピークの位置が−169mVから−165mVへシフトすることを見いだした。さらに、磁場を0テスラ(T)から7.85テスラまで印加すると、電流ピークの位置がさらに変化した。この結果は、THz光の吸収部である高電子移動度半導体に対する磁場効果が、読み出し部であるカーボンナノチューブ側に反映していることを示している。すなわち、カーボンナノチューブで構成したトランジスタが、高電子移動度半導体におけるTHz光吸収の影響を実際に検知できていることを表している。
さらに、照射するTHz電磁波の強度を〜0.1fWと極端に弱くして、カーボンナノチューブを流れる電流の時間変化を測定。その結果、THz電磁波を照射しない時は安定していた電流が、極微弱なTHz電磁波照射によって大きく変動することを見いだした。この変動は、光子数個レベルのTHz電磁波の検出に成功したという究極的感度への到達を意味している。
今回開発した検出器は、高感度である上に、磁場依存性の測定から、飛来するTHz電磁波の周波数も同時に測定することができる。この性能も、従来のボロメータにはない特長。検出器自体で周波数を測定することで、分光も同時に行うことができる。その結果、この検出器はTHz電磁波計測の応用範囲を大きく広げることが可能となった。
研究チームの今後目標は、多数の検出器を2次元状に配置した高解像度カメラの開発。このカメラを開発することができると、THz電磁波を活用したカメラによる、ビデオ撮影が可能になる。開発した検出器は、さらに基礎科学から産業応用に至る多くの用途に結びつくものと期待できる。

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