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レーザ光照射で有機絶縁体を金属に変化させる新手法を開発

August 7, 2009, 仙台--科学技術振興機構(JST)目的基礎研究事業の一環として、東北大学 大学院理学研究科の岩井伸一郎教授の研究チームは、光によって有機絶縁体を金属や超伝導物質へ瞬時に変化させる新しい仕組みを発見した。
 従来、絶縁体を電気伝導性のある金属に変える方法として、原子置換による伝導キャリアの注入法が知られていた。一方、この伝導キャリアの注入を原子置換ではなく光照射によって行うことで、絶縁体を金属へ瞬時に変えることもできるが、そのためには高強度の光照射が必要であり、レーザ照射による物質の温度上昇によって物質自体が損傷するなどの問題があった。
 研究グループは、12の分子対(二量体)を構造単位とする有機物質を用い、2特定の波長の光(近赤外光)を当てることによって、絶縁体−金属の制御を高強度の光照射を用いずに効率よく行うことに成功した。今回見いだされた方法では、有機物質を構成する分子配列を変化させることによって、電子の動きやすさを決めている電子間のクーロン反発エネルギーを光で直接変化させている。この技術は、従来の光キャリア注入法とは全く異なるものであり、今後、光誘起超伝導など新しい物理現象の開拓につながることが期待される。
 東北大学 大学院理学研究科の岩井伸一郎教授と東北大学金属材料研究所の佐々木孝彦准教授の研究グループは、有機二次元モット絶縁体κ -(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Brを対象に、光誘起モット転移の新しいメカニズムとして、光によるキャリア注入とは異なり、弱い光でも実現できる高効率な方法を見いだした。
 この方法の最も重要なポイントは、1対象物質として分子の二量体格子を有する有機物質を用いたこと、2特定な波長の光(近赤外光)を選択することで二量体内部の分子配置を効率的に変え、サイト間を動き回る電子の動きやすさを向上させたこと。物質の電気的特性を決めている電子間のクーロン反発エネルギーを光で制御したことが、この研究の特徴。
 研究では、クーロン反発エネルギーの光制御による絶縁体−金属転移を、フェムト秒中赤外ポンプ−プローブ分光を観測することに成功。この光による相転移は、1光子/500分子程度の比較的弱い光で起こすことができ、光子あたり約100分子程度に広がる。これは、従来のキャリア注入型の光モット転移で必要な光強度に比べ、1/50から1/100と桁違いに弱く、光キャリア注入法の問題点である高強度光は必要ない。
 電子間のクーロン反発エネルギーは、固体中の電子の動きやすさを決める重要なパラメータの1つであり、絶縁体−金属−超伝導といった伝導性の劇的な変化を支配する。この研究により見いだされた光によるクーロン反発エネルギーの制御法は、単に光誘起相転移のメカニズムとして新しいというだけでなく、より一般的にモット転移自体のメカニズムとしても、従来のキャリア数制御法や加圧による原子/分子位置の制御法に次ぐ、第3のメカニズムということができる。光モット転移の方法としては、従来の光キャリア注入法よりも桁違いに弱い1/50から1/100の光で転移を起こすことができる。
 また今後、テラヘルツ光を用いることによって、エネルギーの高い電子励起状態を介さず直接、低エネルギーの分子間振動を励振して相転移を起こしうる可能性も本研究成果から示唆される。この方法によって格子温度の上昇をさらに飛躍的に軽減できるため、光誘起超伝導などへの応用も期待できる。
(詳細は、www.jst.go.jp)

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