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理研、金属の立体構造をナノスケールで形成する光加工技術を確立

February 18, 2009, 和光--理化学研究所、基幹研究所田中メタマテリアル研究室の田中拓男准主任研究員と河田ナノフォトニクス研究室の武安伸幸協力研究員らの研究グループは、赤外レーザの「2光子還元法」という手法と、「n-DecanoylsarcosineSodium Salt(NDSS)」という界面活性剤を使って、ナノメートル(nm:10億分の1メートル)サイズの立体的な金属を自在に創り出す技術の開発に成功した。
 研究グループは、ナノメートルサイズの分解能で、立体的な金属構造を自在に作製可能にする、まったく新しい加工技術を開発した。この技術では、レーザを使って直接金属構造を生成。このレーザを、金属イオンが満ちている空間中で走査させて、自在に金属の3次元構造体を生成する。
 今回の成功には、「2光子還元法」と呼ばれるレーザを用いた金属の生成技術、材料の配合比やレーザ照射条件の最適化、界面活性剤の添加、という3つの開発要素が必要だった。
(1)2光子還元法
 2光子還元法とは、金属イオンを光で還元して金属化させる技術で、その基本は、レーザを照射しながら金属を生成する技術。これは研究グループが独自に発明した方法で、金属構造のもととなる素材は、金属のイオンを含んだ水溶液や樹脂を用いる。極めて大量の(光子密度が高い)赤外光をイオンに照射すると、イオンが2つの光子を同時に吸収して、ちょうど2倍の、紫外光のエネルギーに相当する光吸収が起こる。これを2光子吸収と呼ぶ。光子密度が高い状態を得るために、赤外光のレーザを、100フェムト秒(fs:10のマイナス15乗秒)で発振できるフェムト秒レーザを使い、さらに、このレーザ光を、レンズを用いて空間中の1点に集光させて、時間的かつ空間的に光子を圧縮。その結果、ある一瞬のある一点(集光点)で、2光子吸収を起こして金属イオンを金属化できるような、極めて光子密度が高い光の場を作り出すことができた。
 この場合、集光点の前後のレーザ光が広がった領域では、光子密度が低いため2光子吸収は起こらず、イオンは金属化しない。つまり、レーザ光は、物質中を突き抜けて伝搬するだけ。この特徴を利用し、レーザスポットの軌跡上に微細な金属の構造を生成することに成功した。この技術が、従来困難であった、金属の立体的な微細構造を作り出す鍵となる。
(2)形成条件の最適化
 金属イオンを2光子還元法で金属化するとき、単にフェムト秒レーザをイオンに照射しただけでは、バラバラな金属イオンがそれぞれナノ微粒子を形成し、単なる金属微粒子の分散体ができるだけで、連続した1つの金属構造にはならない。研究グループは、金属イオンの濃度やレーザの照射条件を、目的の形、環境ごとに最適化し、金属微粒子同士が互いに接続した1つの連続体として還元されるように調整した。その結果、ガラス基板上にさまざまな形の銀の立体構造を作ることに成功した。
(3)界面活性剤の添加
 研究グループは、加工分解能をマイクロメートルからナノメートルサイズに向上させるため、還元されて析出する金属そのものを制御する手法の確立に成功した。イオンが還元されて金属が生まれる時に、金属は結晶化する。レーザ照射で最初の金属の核ができると、後は連鎖反応的に、一瞬で金属の結晶が大きく成長していく。結晶は、時には1μm程度の大きさにまで成長することがあり、ナノメートルサイズの高い加工分解能を実現することができない。研究グループは、加工材料中に界面活性剤を添加して、問題となる金属結晶の成長を制御する方法を検討し、n- Decanoylsarcosine Sodium Salt(NDSS)という界面活性剤が有効であることを見いだした。NDSS は、金属イオンとは反応せず、生成した金属微粒子とだけ選択的に結合する、という2光子還元法に効果的な特性を持っている。このNDSSを材料に添加すると、レーザ照射により金属の核ができた瞬間に、NDSSが金属表面を覆う。その結果、個々の金属微粒子のサイズが、約10nm程度に極微小化し、生成した金属の構造は、100nm程度にまで細線化できた。実際に、波長800nmの近赤外レーザ光を使用して、その回折限界を超えた、120nmの線幅の銀の細線を作製することができた。界面活性剤を添加した場合とそうでない場合の実験結果を同じスケールで比較すると、加工分解能が約10倍と、劇的に改善されていることが分かる。また、ガラス基板上に線幅約180nmの銀線を垂直に立てたり、銀のピラミッド構造を作製したりすることにも成功した。こうして、世界で初めて、ナノメートルサイズの3次元の金属構造を自在に形成する技術を確立し、微細加工技術におけるブレークスルーをもたらした。
 ナノメートルサイズで、立体的な金属構造を形成できる技術は、プラズモニクスやメタマテリアル分野の研究に飛躍的な進歩をもたらす。今後、表面プラズモンが作り出す強い光の場は、新たな超高感度の化学・生体センサーや高効率太陽電池、高輝度発光デバイス、ナノメートル光回路などを可能にすると大きく期待されている。また、この立体的な金属の加工技術は、配線不良が原因で従来は捨ててしまっている半導体デバイスの配線修復や、3次元配線技術への応用はもちろん、加工材料を金、銀以外の、例えば生体に適合する材料へ展開できると、心臓血管の狭窄部を支える微細なステントの加工など、極めて幅広い技術に利用できると注目されている。

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