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レーザ照射による金属の研磨

エドガー・ウィレンボーグ、ラモン・オストルト

レーザ照射による再溶融は工具や医用機材を3次元(3D)表面加工する場合の自動研磨の新しい方法になる。

部品や製品の表面粗さは、顧客が必要とする視覚的印象ばかりでなく、剥離や腐食への耐性、摩擦特性、光学特性などにも大きな影響を及ぼす。したがって、金属加工産業では研削や研磨の技術が広く使用され、表面粗さを低減させている。大面積アブレーションによる電解研磨、電気化学研磨、滑り研削などの自動研磨技術は、主としてエッジと張出し表面を加工してエッジに丸みをつけている。また、深いシャフトを加工することはできない。したがって、現在の自動研磨技術は自由形状の表面や機能のあるエッジをもつ部品に対して適用できない場合が多い。その結果、工具の研磨のほとんどは人手により行われている。
 人手による研磨は作業者の技能と経験に強く依存する。この人手による研磨は需要が多いが、作業は単調で、企業は適切な従業員の採用が難しいため、この分野の熟練工は希少な人的資源になっている。加工速度が遅く(一般に10〜30分/cm2)、作業の流れは反復されるため、人手の研磨による金型やダイスの加工は時間とコストがかかる。射出成形金型やダイカスト金型の製造では研磨関連のコストが加工コストの12〜15%(1)、加工時間では30〜50%(2)を占めている。
 金属を自動研磨する新しい方法では、レーザ照射により薄い表面層を溶融し、溶けた金属を表面張力の作用によって山から谷へと流れさせる(図1)。材料は除去されるのではなく、溶ける際に再配置される。レーザビームは閉曲線のパターンにしたがって表面全体を動き回る。このレーザ研磨では、材料と初期粗さによるが、Ra≒0.05μmの表面粗さが実現される。加工する広い面積は十分な表面品質が得られる。
 レーザ研磨では、㈰自動化レベルが高いため加工時間が短く、とくに人手による作業に比べると大幅に短縮される、㈪粒状化した面や微細構造をもつ面であっても、構造の損傷なしに研磨できる、㈫表面は液相が固化して形成されるため、表面粗さは微細になる、などの大きな特徴と利点が得られる。
また、研削や研磨にともなう廃棄物や化学物質が生じないため、環境汚染の恐れがなく、加工物の形状も変化しない。所望の形状からの偏差は修正されないが、言い換えれば、すでに完全な形状であれば変形されることはない。
 金属のレーザ研磨にはマクロ研磨とマイクロ研磨の二つの変形方式がある。マクロ研磨の場合はCW(連続波)レーザ照射が行われる。図2に示すように、フライス、旋削、EDMなどで加工された数μmの粗度の表面は研磨による表面と同様になる(3)〜(5)。再溶融は20〜200μmの深さで行われる。レーザビームの直径と再溶融深さの選択は、材料と初期の表面粗さに応じて行われる。通常は、70〜 300W のレーザ出力をもつファイバ結合Nd:YAG レーザが用いられている。加工時間は、初期の表面粗さ、材料、レーザ加工後の所望の表面粗さに応じて、10〜200s/cm2の範囲になる。今までに実現されたレーザ研磨の最高の結果は、旋削された特殊鋼の表面粗さのRa=5.0μmからRa=0.05μmへの低減であった。
 マクロ研磨とは対照的に、マイクロ研磨はパルスレーザ照射が行われる(4)〜(10)。一般に20〜1000nsのパルス継続時間と0.5 〜 5μmの再溶融深さが使われる。マイクロ研磨方式は予備加工した表面(研削や微細旋削後の表面)にしか適用できない。溶融深度が小さいため、大きな表面構造は研磨されずに残留する。パルスの持続時間と強度が最も重要な加工パラメータになる。パルスは持続時間が長いほど横方向の大きな表面構造を除去できる。均一な再溶融深さを得るには平頂形状の強度分布が好ましい。ファイバ結合Nd:YAGレーザとエキシマレーザを使用して、3s/cm2以下の加工時間が実現されている。図3はTiAl6V4のマイクロ研磨の前と後の表面を示している。マイクロ研磨は微細な表面粗さを実現できるため、摩擦や医療などの用途に適している。
 マイクロ研磨工程は材料に依存するが、横方向のサイズが最大20〜100μmの滑らかな表面構造にしか適用できない。それ以上に大きな表面構造はマクロ研磨方式でしか除去できない。しかし、マクロ研磨加工とは異なり、マイクロ研磨加工は、一般により微細な表面粗さを実現できるため、より高い光沢を得ることができる。したがって、マクロとマイクロの両方の方式を組合せる応用もある。この場合は、まず、マクロ研磨でフライス加工や旋削加工の軌跡を取り除き、次に、マクロ研磨を加えて光沢を増強する。
 表1は研磨結果の例を示している。今までの銅、金およびアルミニウム合金の研磨のほとんどは不満足な結果に終わっているが、言い換えれば、これらの金属のレーザ研磨は鋼やチタン合金の場合ほど詳しく研究されていない。
 レーザ研磨の主な応用分野は、工具と金型の製造や医療機器の加工などの時間とコストのかかる人手による研磨の置換えになる。表の結果はレーザ研磨が多数の用途に使えることを示しているが、現在の課題はこれらの結果を複雑形状の自由表面の場合にも実現することにある。
 自由形状への応用を可能にするには、レーザ研磨に特化した技術を組合せたCAM‐NC加工の連鎖工程が必要になる。図4 に示すように、レーザ加工に特化して開発しているCAM‐NC工程連鎖は、被加工物の3DCAD模型が出発点になる(11)。従来の5軸フライス加工用のCAM ソフトウエアを使用して工具の経路を作成する。工具経路の幾何学的情報はマシンニュートラルAPT(自動プログラムツール)インタフェイスを介して、新しく開発されたポストプロセッサソフトウエアに伝送される。この技術モジュールはレーザ研磨に必要なすべての加工パラメータが含まれ、良好な研磨結果を得るために必要となる工具の経路に対して技術上の修正動作を行う応用データベースから構成されている。CAM‐NC工程連鎖の最終段ではマシン専用NC符号へのデータ転送が行われ、8 軸レーザ研磨装置によるレーザ研磨が行われる。
 図5 はレーザ研磨した自由表面の例を示している。左側の写真の金型材料はGGG40を使用し、初期粗さはRa=1.7μmであった。レーザ加工を行うことで、必要とされるRa<0.4μmの表面粗さが1分/cm2以下の加工時間で達成された。右側の写真の特殊鋼を使用した金型はレーザ加工後にRa<0.2μmの表面粗さが得られている。この金型はワイングラスのシャフトとステムの製造に使われる。
 3D 表面加工は開発途上の技術だが、ここで例示したように、レーザ研磨は自由形状の表面にも適用できる。レーザ研磨による金型は実際の製造にも使用され、最初の抜取り検査では、その耐摩耗性が人手で研磨した金型の場合と少なくとも同等になることが証明された。

図1 レーザ照射による研磨の基礎原理

図2 レーザ研磨した特殊鋼

図3 TiAl6V4のフライス加工した表面(左)とマイクロ研磨後の表面(右)

表1 試験した金属のレーザ研磨の結果(3)

図4 レーザ研磨に特化したCAM‐NC連鎖工程

図5 左の写真の自由形状をもつ半割り金型の左側と右側の部分は、それぞれレーザ研磨前と研磨後の状態を示している。右の写真はワイングラスのシャフトとステムをガラス成形する金型の研削後の状態(左)とレーザ研磨後の状態(手前)を示している。

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